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『短歌研究』2021年3月号(2)

⑦松岡秀明「光をうたった歌人」今をある運命(さだめ)は知らず努めしをあだなりしとはつひに思はず 明石海人〈「今をある」の歌は「努めしを」の意味が取れなかったが、現在の状況は悪い行ないに原因があるとしているのは間違いないだろう。〉「努めし」は単純に「努力した」、ではないだろうか。今こんなことになる運命だとは知らずに昔は努力していたこと、それが無駄だったとは思わない、というのが私の解釈。何の努力かと言われるとはっきりしないが、生活全般に対して努力していた、それはそれで良かった、という歌か、と。

⑧松村由利子『ジャーナリスト与謝野晶子」カルピスは奇(く)しき力を人に置く/新しき世の健康のため 与謝野晶子〈「健康」という概念は、明治以降に広まった。〉こういう観点、好き。私たちが、ずっとあった言葉として、当たり前に使う言葉の起源は案外古くなかったりする。〈「新しき世の健康」はそうした時代の気分をすくいとった表現であり、晶子が自分の歌を商品コピーとして認識していたことを示す。〉短歌の短さがコピーとして使えると80年代に盛んに言われたが晶子が元祖だったんだな。今読むとちょっとそのまま過ぎる歌の気がするが、「健康」自体が新しい観念だったのだ。

⑨「ジャーナリスト与謝野晶子」晶子はカルピス広告の二年前から、髙島屋百貨店の顧問としてシーズンごとの流行色の選定とネーミング、さらに色を素材に歌を作った。〈2013年に髙島屋関係者が同社資料館の所蔵資料を調べ初めて明らかになった。〉このニュースは覚えてる。

〈美しいものを好んだ晶子が最晩年まで続けたのが、広告という形のメディアの仕事だったのである。〉舌鋒鋭く世相を斬る晶子も好きだが、美しい色に歌を捧げる晶子も好き。何より、新しいニュースも取り入れて、晶子の生涯の色々な側面を明らかにしてくれる松村由利子の筆力を尊敬する。

2021.3.26.Twitterより編集再掲