『短歌往来』2024年5月号
①かすかなるむぎぶえ暮鳥の「なのはな」を諳んじながら土手を歩けば 久々湊盈子 土手に一面の菜の花が咲いていることを「なのはな」という詩のタイトルで暗示する。引用が効果的に映像を喚起する。その詩にあるむぎぶえまでが聞こえる気がするのだ。
②いつせいに風にふるへるはなびらは読まれなかった手紙のしろさ 魚村晋太郎 連作の他の歌から招善寺の白木蓮だということが分かる。風に揺れる白木蓮の大ぶりの花が手紙のように見える。読まれなかった手紙は書かれなかった手紙のように白さが際立っているのだ。
③花また花、白に顔まで埋まりつつ交配したりき父も家族も 池本一郎 鳥取県の名産、二十世紀梨。作者の家族も梨の栽培をしていたことが分かる。花の季節の交配作業だ。梨農家の苦労が思われるが、二句三句の言い回しが美しく、花に埋まる作業への回想が胸に迫る。
2024.5.28. Twitterより編集再掲