『短歌往来』2024年8月号
①海風に浮きたる帽子押さへむと腕(かひな)動きぬ夏はこれから 栗木京子 短い動画を見るような一首。帽子が飛びそうになると勝手に手が動くものだが、この歌ではそれが言語化されることによって、手が意識と分離しているような感じを与える。結句がさわやか。
②「嘘はなけれどー」口籠もりゐる啄木の歌を選びき沖縄人(うちなんちゆー)は 渡英子 詞書に〈新しき明日の来るを信ずといふ自分の言葉に嘘はなけれどー 石川啄木〉と歌が引かれている。那覇市真教寺に啄木の歌碑がある。それは渡のエッセイによると〈沖縄の近代を代表する歌人山城正忠の遺志を継いで建立されたもの。明治期の「明星」で交流があった啄木と正忠の青春のかたみである〉とのことだ。こういう人物史は埋もれてしまいがちだろう。けれど、とても興味深い。
③去りたりしひとをおもへる息湿り口へ上りてやがて消えゆく 高木佳子 去って行った人を思う気持ちが湿った息として口元まで上ってくるが、消えて行ってしまう。短い時間の心と身体の動きが繊細に捉えられている。思う気持ちもやがて消えるのだと再認識させられる。
2024.8.19.~20. Twitterより編集再掲