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食のノスタルジー

うどん屋では決まって「かけ」をたのむ。
「ぶっかけ」でも「釜揚げ」でもなく「かけ」だ。

丸亀製麺やなか卯、はなまるうどんなど、東京でも関西風のうどんが食べられるチェーン店が増えている。
とてもありがたいことだ。

自分は徳島県の生まれである(鴨島町/現吉野川市)。
といっても徳島に住んだことがあるわけではなく、鴨島に実家があった母が「里帰り出産」をしたことで徳島県生まれということになった次第である。

徳島県に住むことはなかったものの、母は毎年のように夏休みになると自分を連れて里帰りした。
子どものころの旅行といえば、決まって鴨島への帰省だった。

そして母の実家に着くと、当時は健在だった祖母が出前でうどんを注文してくれた。
母はそのうどんを美味しそうに、懐かしそうに食べていた。
当時薄味の関西風のうどんは関東では滅多に食べられなかったのだ。
母にとってはうどんを食べて故郷に帰ってきたことを実感していたのだと思う。
自分はといえば、特にそのうどんを美味しいと思っていたわけではない。
ねこ舌だったので、そもそも温かいそばやうどんは苦手だった。

大人になり、鴨島に行く機会も減った。
祖母も亡くなり、鴨島に残っていた親戚も現在ではほぼ絶えてしまった。
その一方で、関西に行く機会があれば必ずうどんを食べるようになっていた。
そして鴨島で食べたかけうどんの味を懐かしく思い出すのである。
当時はそれほど美味しいと思わなかったあのうどんなのに、今ではあの味でないと満足しないのだ。

味覚のノスタルジー、あるいは食のノスタルジーなのだろうか。

母は認知症となり、グループホームで暮らしている。
一度だけ近所にできたなか卯にうどんを食べさせに連れて行ったことがある。
美味しそうに完食してくれたのもノスタルジーのなせる業なのだろうか。

ところで鴨島のうどん屋さん、食堂として今でも営業しているようだ。
訪れるチャンスはあるかな。

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