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鬼を見て、炎を燃やし、やがてなだめて

すみだ北斎美術館に『北斎百鬼見参』を見に行った。
葛飾北斎の描く鬼。

夏祭りは「悪疫退散」のためという言葉を思い出して。


鬼とは何か。

目に見えない「隠(おん・おぬ)」に由来する言葉という。

地獄の鬼。
たたりをするもの。
異種族のもの。
跋扈ばっこする災いや、悪疫。

人の心にむものも、また鬼だ。
嫉妬、恨み、執心で。
人が、鬼となる。

結論から言うと、あまりにも北斎の鬼は幅が広かった。

幽霊、死霊、怨霊、鬼退治、鬼子母神、酒呑童子、赤鬼、青鬼、鬼の面・・・
まだまだ、書ききれないほどに。

北斎の鬼というより、鬼自体の存在が広く、大きいのだとも知った。

これでもか、これでもかと鬼が出てくる。

展示は4つに分かれている。

1章 鬼とは何か
2章 鬼となった人、鬼にあった人
3章 神話・物語のなかの鬼
4章 親しまれる鬼

中でも印象に残ったのは、3章にあった『道成寺図』。

北斎の貴重な肉筆画でもあり、今回修復された。

道成寺図 葛飾北斎   展覧会図録より

道成寺は能の演目。

<あらすじ>紀伊の国の道成寺という寺に、白拍子(女性の芸能をする者)がやってくる。寺男がつい入れてしまうと、舞いながら鐘に入り込む。鐘は音を立てて落ちる。じつは女はかつて男に捨てられ、鐘に隠れた男を恨みで焼き殺したことがあったのだ。
住職の必死の祈りで、蛇に変身した女は川に飛び込んで消えていく。

物語だが、人の心に棲む鬼を描いている。
愛憎、執着、悲しみ、恨みが詰まった話。

鬼の化身は迫力があり、悲しくもあり、美しくもあった。
はかまと唇の赤が、熱情と怨念をともにあらわしているようだ。


嫉妬はまさしく、人に棲み、人を食らう、鬼。
私の心にも長く棲む。

愛した人がままならない、つらさ。

ただ時とともにつらくなるのは、うらやましさが高じて妬ましくなること。

私にはできない、すごい、ならいい。

私も考えていたのに。
私がやりたかった。

かなわない、悔しさも。

私が手掛けたかったのに。アイディアもあったのに。
世に出た作品。

私は声を出さなかった。
行動していなかった。

わかっていても、チリチリと炎が内を焼く。

手なずけられない鬼は、まだ私の中に棲む。


一方でこんなかわいらしい鬼も。
第4章の「親しまれる鬼」。

北斎略画手ほどき

北斎の絵手本。
埋もれて消えるのがもったいない、と大正時代に再版された作品。

なんとも愛嬌がある。
角を隠すと「こんながんこおやじさん、いるわ」と手を打ちたくなる。

おにのわりかた 「略画早指南」

絵の手引書まで、北斎が書いていたとは!
コンパスを使った中心の点まで見える。

あら、これで私も鬼を練習してみよう。


クスリと笑って、心の鬼をしずめて。



散歩がてら、近くの甘味処へ。

その名も北斎茶房。

氷もあるけれど、私は北斎夏あんみつ。

2色のアイスに、もっちり白玉。
さらりとしたあん、優しいかみごたえのぎゅうひ、
つるんとした寒天、
濃厚なのにしつこくない、黒蜜。
みかんとバナナで、さわやかに。

心の鬼をなだめて、優しい心持ちになって。

北斎通りを後にした。


すみだ北斎美術館は、北斎が生まれた付近にある。
両国からほど近い。
「北斎百鬼見参」は8月28日まで。



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