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『なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか』発売を記念して、著者の林伸次さんと店舗デザイナーのヤマシタマサトシさんに対談していただきました 1(前編)

林伸次さんの著書『なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか』(旭屋出版)は、渋谷bar bossaオーナーでもある林さんが、東京で人気の飲食店20軒にインタビューした内容をまとめた一冊。飲食店経営をめざす人必読の著書です。

本の発売に伴い、林さんは

とツイート。


それを見て反応したのは、店舗デザイン事務所OFFRECOの代表で、吉祥寺『あわい』のオーナーでもあるヤマシタマサトシさん。

「インタビューしたいけど1人じゃ大変。誰か組んでくれるライターいませんか」というヤマシタさんの呼びかけに手を挙げたのは、林さんがLEON.JPで連載する「美人はスーパーカーである」の構成・ライティングを担当するワタクシ、木村千鶴です。

といかにも“今”なやり方でこの対談は実現したんですが、メディアミックスってこういうことです(たぶん)。

渋谷の老舗バーのオーナーと、お店立ち上げについてのあれこれを知り尽くした店舗デザイナーの話は、飲食店経営をめざす人にとって本当に貴重なんですね。

ならばと2人の対談という形にして、ワタクシはこれから飲食店経営するつもりのガチ目線でインタビューいたしました!

少々長いので、前後編に分けます。

それでは、前編からどうぞ!

敬称略
林伸次: 林「」 

ヤマシタマサトシ: ヤ「」 

── 木村

実は結構大変な飲食店経営

── 林さんがこの本を出そうと思ったきっかけは何ですか。

林「デザイナーの友人がいるのですが、仕事が減ってきたときに不安になって、田舎で農業やりながらデザインの仕事ができるか、考えたんですって。それで色々 と方法を調べたら、どうやら両立できそうなことがわかって、ホッとしてデザインの仕事に戻れたって言ってまして」

── その不安はわかる気がしますね。

林「今の仕事が大変でも、この本を読んで、“あ、お店をやる選択肢もあるな”と思えたらちょっといいかな、こんな夢のような成功者のドキュメンタリーみたいなものにはそういう効果もあるな、と」

ヤ「あ〜、そうか」

林「実際本当にお店やる人はほとんどいないんですけど、そのつもりになって考えて、夢みたいなことを話す、そういったエンターテインメントの役割もありますね」

── なるほど。それにしても、取材対象のお店の人が皆さん詳しく話してくれてるのはなぜでしょう。

ヤ「本当に。開業投資額や運転資金の数字出すんだ!って、読んでびっくりしましたよ(笑)」

林「それはやっぱり、同業者同士だから。『1杯で3時間いるお客どうしてる?』『俺?帰してる』とか、『家賃いくらなの?え、安い!』とか、同業者同士では しょっちゅう出る話で」

ヤ「あ〜やりますよね、銀座のあの店は坪単価いくらとか(笑)」

 林「それですそれ(笑)」

ヤ「林さんがお店に立たれているからこその目線で聞き出せた、貴重な話が詰まった本だと思います。 僕は飲食店をやってみたいって人から相談されたら、いきなり店を持つのではなく、最初はイベント出店とかをお薦めしているんです。この本の中だと、高井戸の 『休日や』の吉田さんが大晦日の1日だけやっていた蕎麦屋、麻布十番『鮓職人 秦野よしき』の秦野さんが開業前にしていた寿司のケータリングのかたちが近いモデルケースでしょうか」

林「あのやり方いいですよね。あ、これはウケるんだ、ってそのときに勘でわかるから」

 ヤ「あとは事前にケータリングでお客さんの開拓をしておくと、固定の店ができたときにスタートから来てもらえるのがいいんです」 

林「あ、スタートから来てもらうのは大きいんですよ」

── スタートしてから軌道に乗るまでってどれくらいかかるんですか。

 ヤ「飲食では通常2年と言われています。2年で減価償却して、3年目から黒字、5年で儲けが出るのが理想で」

── そんなに時間がかかるんですか!?

ヤ「一般的にはそうですね。この本には、小さなお店を始める人を応援したい、という思いが詰まっているという印象を受けましたが」

林「そう、そうなんです」

ヤ「ただ一方で、これは生存者バイアスというか、運よく生き残っている人たちについて書かれた本でもあります。実際飲食店って、2年以内につぶれるのが半分なんですよ」

── 半分!?

ヤ「飲食店は新規開業の廃業率が非常に高い業態として知られています。脱サラして、全財産注ぎ込んでお店を始めて、でもだめで、貯金がすっからかんになったとか全然ある話」

── じゃあみなさん、軌道に乗るまでの2年間で貯金がなくなったらどうするんですか?そうなる人もたくさんいますよね。 

林「それはもう撤退ですね」

── え、撤退しかないんですか。 

林「そうなります。この本に出ているお店は、開店1年以内の間に、ばっと火がついてます」

 ── 秘訣って何だと思います?

林「やっぱりやりたいものが明確だということじゃないですか。例えば新井薬師の『ロンパーチッチ』は全然計算してないんですけど、あんなに若いのにジャズに凄く詳しいんです。討論会やれるくらい詳しい。そうすると強いんですよね。20代でちょっとジャズとか好きになってきた男の子がマスターの斉藤さんに憧れて、今日は何をかけるかなって店に行く。やっぱりコンテンツがちゃんとしていれば人は入るんですよ」

── 漫然とやらない方がいいですね、お店を出すなら。 

林「この本に出てきた人は全員方向が定まっています」

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飲食店が生き残るには何が必要?

ヤ「この先、酒を飲まないのがカッコいいという空気に徐々になっていく気がしているんですが、林さんどう思います?」 

林「それ僕もそう思います。IT系の人はお酒飲まないですよね」

ヤ「彼らこそが、飲むのはダサいって思ってるんですよ」

── 10年前にはバーが禁煙なんて考えられませんでした。それを思うとあるでしょうね。 

林「この本出してて言うのは何ですが、バーやりたいって若者には絶対やめた方がいいって必ず言います。今始めても30年後には続かないよ、って」

ヤ「普通のバーは無理ですね」

── そこですよね。普通の、というのはなくなる?

ヤ「一流ホテルのバーとか、特定の需要のある所は残るでしょう。街場のバーは厳しくなると思います」

林「グランメゾンとかのいいレストランは残るけど、街場のレストラン、ビストロもなくなっていくでしょうね」

ヤ「でも逆に、一旦廃れた後はカウンターみたいに“そういう文化がイケてる”って、人が街に集まることもある気はしますけど」

── 文化はそうして繰り返すものが多いですよね。

ヤ「オンラインサロンが流行っているのをみると、なんだかんだで人ってリアルで会いたいんだなって思っていて。リアルで会う言いわけを一番つくりやすいのが飲食なんです」

林「やっぱり人が集まるときには、会議室よりも飲食の方がいい。同じものを分け合う、というのは昔火を囲んでしていたのと同じで、仲間の気持ちになれるんですよね」

ヤ「そういった意味では、デートにしてもビジネスにしても、仲良くなるためのツールとして飲食店はなくならないと思いますけどね。なくならないけど、役割が変わっていくというか」

── 役割ですか。

ヤ「林さん最近忙しいからされてないですけど、一時期婚活パーティされてたじゃないですか。飲食店が生き残る道のひとつはそこな気がしていて。お見合い係のような」

林「お見合い係は間違いなくそうですね」

ヤ「需要がとてもあるんですよね。うちもやってほしいと言われます」

林「あれ絶対やった方がいいですよ、人がたくさん集まってくる。そこで恋愛が起きてるとか、結婚があるとかって話、みんな凄く好きだから(笑)」

── パワースポット的な(笑)

林「本当に!『どんな人たちがカップルになるの?』とか聞きにくるんですよ、良い年した男女が(笑)」

ヤ「凄く原始的だけど、結局恋愛もなくならないですよね。僕は、これからお店をやるんだったらコンテンツを何にするかが大事な気がしていて。ボッサはただのワインバーで はなく、いつ行っても林さんがいるというのが軸にあり、『いつも見ているバールボッサに行ってきました』という聖地的な場所になりつつあるな、と」

林「聖地だなんてそんなそんな(笑)」

ヤ「そうなると、僕が書いたコミュニティー論が当てはまる。教祖がいて、経典があって、教会、聖地がある。周年パーティーやイベントごとがあると、そこに人が集まる、且つコミュニティーして常連化しやすい。これから飲食店をするなら、コミュニティー化をする選択肢を取って、来てもらう回数を増やせば経営が成り立つんじゃないかな、と」

林「そうですね。ん〜でも、コミュニティってまとめるの難しいんですよ。ロンパーチッチの彼らなんかは、お客さんと話したくないんで、ラーメン屋のカウンターにしてるんですね。初台の『マチルダ』みたいに、女性一人でやってる店には変なオヤジが溜まったりして。コミュニティー論の話は僕もよく読むんですけ ど、中で働いているとそれはそれで結構面倒くさい。困った人も中にはいるんですよ」

── そういうときってどうしてますか。

 林「僕はもう本当にダメだと思ったら、すみません、ちょっと合わないと思うんでって帰ってもらってますね〜」

── ヤマシタさんはどうですか? 

ヤ「僕のところは完全紹介制の予約制で、そういう人が来たら紹介者のせいにできちゃうってところもあるんで(笑)」 

── ちょっと気になったんですが、ヤマシタさんのお店『あわい』って一見さんは入れないんですよね。それで経営は成り立つんですか?

ヤ「うちはそれこそただの飲食店じゃなくて、あの場をショールームみたいに使ってるんです。陶芸家さんと、料理関係をしている妻と僕とで共同経営しているんですが、例えば陶芸家の作品を使ったお茶会を開いて、飲食店オーナーさんに試してもらって、お店の器で仕入れてもらえると売り上げが大きいんです。妻は 『HILLS LIFE』の撮影だとか料理教室をやるとか、それで稼いでいるんで、飲食営業は器やスタイリング、設計デザインの仕事を知ってもらうためのプレゼンテー ションとして頑張らせてもらっています」

林「なるほど、その場がみんなのショールームなんだ」 

ヤ「そう、僕もお客さんとの打ち合わせに使ってます。内装は全部僕のDIYでつくってるんで、左官のカウンターはこんな感じ、間接照明、ダウンライトこんな風にできるよって。ショールーム的な価値で、toBの仕事を取るための、フックとしてのtoCを接客するための場所なんですね」 

林「なんかすごく新しい感じがする。これからの飲食店のかたちって、やっぱり飲食だけでは難しいですよね」

ヤ「はい。だけど飲食があるとめっちゃ強いです。やってみてわかったけど、コミュニティー的なイベント打つとか、コンサルしながら飲みますよなんてとき、凄く上 がるんですよ。食事とお酒出すと」

林「これからはそういうお店、増えますね」

後編へ続く





#インタビュー #ライフスタイル #本 #対談 #林伸次




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