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(7日目)【掌編小説】あなたと私とホワイトスノーマンラテ #Xmasアドカレnote2019

はじめましての方もおなじみの方も、こんばんは!
ルミさん企画、『#Xmasアドカレnote2019』の7日目を務めます、ちよこ です。

有名なnoteの住人の皆様の中に混ざって書かせていただけるなんて恐縮です。(そして本当にありがたい。)私はnote界隈で有名じゃないです、ごめんなさい。だけど、かねてより仲良くしていただいているルミさんがせっかく誘ってくれたこの企画。そりゃ書くしかないですよね。

企画案内をいただいたときに「ちよちゃんには胸キュンな小説を期待しています!」とルミさんからリクエストをいただきましたので、小説で攻めます! 胸キュンかどうかはさておき(←え)恋愛ものに仕立てました。

お時間があるかたは是非ご一読ください。
(今日は何曜日? 土曜日ですよ! 暇つぶしに是非!)


*  *  *


――今年、やっぱり出ないよなぁ……。

店頭に大きく掲げられたタペストリー。『Black or White』と大きく書かれたその下にはクリスマスらしさが満開の新作ドリンク2種類の画像がおしゃれにレイアウトされている。
ココア色のチョコレートホイップにパールシュガーとマシュマロを散りばめた「ブラックツリーラテ」。真っ白なホイップに砕いたクッキーとフリーズドライしたストロベリー顆粒を散りばめた「ホワイトツリーラテ」。どちらのラテもこの冬の新作で魅力的だ。だけど何度見ても、リンが求めているのはこれではなかった。


リンには営業部に異動になってから毎週金曜日、予定がない日に訪れているカフェがあった。今日は11月になって2回目の来店。先週同様、クリスマスまでの限定のラテを頼む。

ホワイトチョコレートシロップで仕立てた甘めのラテにホイップクリームを絞り、蜂蜜を細く格子状にかける。仕上げにシルクハット型のチョコレートをトッピングした「ホワイトスノーマンラテ」は今年の新作だ。発売したばかりのそれを注文し、ドリンクカウンターで飲み物が出来上がる様子を間近で見ていた。

リンがこのカフェに通うのには理由がある。ドリンクを作っているカウンターとの距離が他のカフェより近く、どこよりもライブ感が味わえる。そしてもちろん味も二重丸。だからリンはこのカフェに通い続けているのだった。

その日、ドリンクカウンターでは初めて見る男性店員がドリンクを作っていた。年齢は同じくらい。手際も悪くない。新顔? 異動? この時期に? リンの視線に気づいたのか男性がこちらを見た。一瞬目が合った。彼は人懐っこい会釈をリンに放ち
「少々お待ちくださいませ」
とだけ言って真剣な表情でミルクスチーマーに手をかけた。

沸々とミルクが温まっていくのを観察していたその時、ゴフッという鈍い音を立てたスチーマーが暴動を起こした。

銀色の棒状の部分からミルクの飛沫が飛び散る。近距離でライブ感を味わっていたリンにもミルク飛沫は襲いかかる。

「申し訳ございません!」
やってしまった、どうしようと慌てながらも申し訳無さそうに謝る男性店員。カウンターの中から別の店員も現れ二人でリンに平謝りをする。
「いえ、ちょっとかかっただけですし、うちに帰って洗えば大丈夫ですから」
「すぐに新しい物をお作りいたしますのでお席にかけてお待ちいただけますか」
リンは女性店員に誘導されるがまま席についた。

リンは鞄からウエットティッシュを取り出し、ドリンクカウンターから聞こえてくる声を聞きながらミルク飛沫を拭いていた。
「田所くん、伝え忘れててごめんね。このスチーマー、今ちょっと調子悪くて。9時を過ぎるとたまーにあるのよ、爆発」
「僕は大丈夫です。お客様、怒ってませんでした?」
「今声かけた感じだと大丈夫そうよ。それに彼女、たまーに世間話をする常連さんだし……」

リンの予想通り“田所くん”は異動してきた新しい店員だった。

程なくして“田所くん”がドリンクをもって現れた。
「先程は大変失礼いたしました。ショートサイズのホワイトスノーマンラテです」
赤と白のクリスマスパッケージのカップがコトリとテーブルの上に置かれる。同時にオレンジの甘い香りが立ち上る。
「お客様、つかぬことをお伺いしますが、甘党ですか?」
「はい。先週、このラテ、頂いて。一週間の疲れが吹き飛ぶくらいの大好きな甘さで、また頼んじゃいました」
「中にもたっぷりオレンジのはちみつを混ぜ込んでいるので香り高い甘さが感じられるんです。ごゆっくり、おくつろぎください」
それでは失礼します、と言い残して田所はカウンターの奥へと消えていった。

しかしその10分後、失礼致します、と頭上から声がした。顔を上げると田所が立っていた。
「お客様、よろしければこちら、先程のお詫びです」
そう言ってテーブルに置かれたのはレアチーズケーキだった。真っ白なレアチーズケーキに柚子のコンフィチュールが添えられたおしゃれな一品だ。
「えっ」
「甘党だったら次はこれ、ですよ。来週の月曜日から発売する新作です。あ、SNSのアップだけはくれぐれもやめてくださいね」
カウンターで一度見せた人懐こそうな笑顔をリンに見せ、田所は再び去っていった。

11月、リンはカフェを訪れる頻度が増えた。もちろん、ホワイトスノーマンラテが美味しかったのもある。だけどそれだけではなかった。スチーマーの暴動事件によって田所との距離が初日からぐっと縮まった結果、会う度に他愛もない会話を重ねるようになり、それが楽しみになったからだ。夜9時を回ると客が少なくなる店で、掃除で回ってきた田所と会話をしたり、帰り際に少し立ち話をすることも増えた。

だけど年末にかけて仕事が立て込み、急にカフェに行けなくなってしまった。ようやく片が付いたのは年末も迫る12月最後の金曜日。
わかってはいたが、カフェからホワイトスノーマンラテは消えていた。

「やっぱり無いですよねー」
仕方なく年末年始の新作、マスカルポーネクリームを使用し、ココアパウダーを振りかけたティラミスチョコレートラテを注文する。
「一足遅かったですね。お仕事、忙しかったんですか?」
「そうなんですよ。この店の閉店後の時間だったら来れる、位の忙しさで。飲み納めできなかったー。……来年も出ますかね、スノーマンラテ」
「どうでしょうね。新商品については本社の企画担当者しかわからないからなぁ」
そう言いながら田所はスチーマーでミルクを温めカップに注ぐ。丁寧に一杯を作る姿を見ているだけでリンの心まで温まり、本音が漏れた。

「もし……もし、来年もまた発売したら……一緒に飲みません?」
「それは……デートですか?」
目線をカップから外さずに田所が言う。
「ご想像におまかせします」
「……想像させてもらいます」
絞ったクリームの上に、丁寧にココアパウダーをふりかけて、蓋をする。田所との一時が終わるサインだ。
「はい、お待たせいたしました、ティラミスチョコレートラテです。今年最後ですかね? お疲れさまでした」

この日、どうして来年の約束を持ちかけたのか、リン自身もわからなかった。だけど放った言葉に嘘はなかった。店員と客という関係を抜きにしてこの人ともっと話がしたい。そう強く思ったのだった。


年が明けてもリンは時間をつくってカフェに通った。
ついこの間新年の挨拶を交わしたと思ったら気づけば桜が咲いていた。
そして季節は過ぎ去り、営業になってから4度目の冬が訪れた。


一年間ホワイトスノーマンラテが発売されるのを楽しみにしていた。それなのに、SNSで何度商品情報を確認しても“Coming soon”の箇所には明らかに去年とは志向が違うシルエット画像が見える。それが2つも。嫌な予感がしていたのだがその予感は見事に的中した。

11月に発表されたのは2種類の新商品。今年はホワイトスノーマンラテの展開はない。つまり、昨年の約束は果たせない。

残念だけれど仕方がない。店頭でタペストリーとにらめっこをするリンに、ぴゅうっと木枯らしが吹きつける。リンは腕をさすりながら店内へと足を踏み入れた。しかしそこにはいつも見かける田所の姿は無かった。

翌週も、その翌週も金曜日に足を運んだのに田所がいない。いつもは温かい店内も一人が欠けてしまうだけで暖房が故障したようにぬくもりが足りない。我慢しかねたリンは顔なじみの店員に田所はどうしたのか聞いてみた。
「今年から有給取得が厳しくなったでしょ? 田所さん、他のメンバーの代理で月曜日に入ることが多くて、金曜日は休みのシフトになってるんですよ。12月の1週目からは確か……金曜日に戻ってくるのでもうしばらくお待ち下さいね」

親切に教えてくれた店員の顔を見ると少しニヤついていた。

12月の一週目の金曜日。「ブラックツリーラテ」を頼み、ドリンクカウンターへ行くと田所が手を振って迎えてくれた。

「リンさん、こんばんは。この冬はブラックとホワイト、交互に注文?」
リンは田所の質問には答えず、思い切って聞いてみた。
「田所くん……去年の約束、覚えてます?」
「約束?」
「覚えて……ないよね。ごめんなさい、忘れてください」
頬がかあっと熱くなる。一年間あの約束を心の支えにしていたのはリンだけだったのだ。所詮、田所にとってリンとの関係は客と店員。それだけだ。

手際よくラテを作る田所の手元をぼーっと見つめていると
「ちゃんと覚えてるよ」
優しい声がリンの耳に入ってきた。
「え?」
「ホワイトスノーマンラテ、ですよね?」
目線をカップから外さずに田所が言う。
「覚えててくれたんですか……」
「当たり前でしょ。今年、新作に変わっちゃって焦ったんですよ。あ、約束、守れないって。でもね……レシピがあるんだな、ここに」
そう言って田所は右手の人差し指で自分のこめかみのあたりを2回軽く、叩いた。
「そして幸いなことに材料もある」
カウンターにズラッと並ぶ材料で今から手品でも始めるかのように両手を広げる。
「せっかくだから……今年のクリスマス、お話しませんか。オレ、17時上がりなんだけど、その日だけ少し早めにお店、来れない? 営業さんでしょ、調整してくださいよ」
そこにはいつもの人懐こい笑顔でこちらを見る、一人の男性が立っていた。「上がる前に2人分、作って渡すよ。一年越しの約束、守らせて」

お待たせしました、と言って手渡された「ブラックツリーラテ」。
受け取るときにいつもより少しだけ長く、指先が触れる。ただそれだけなのにリンの体温が上昇していく。

クリスマスにワクワクするのは子供だけではない。
18日後のクリスマス。今からその日が待ち遠しい。

続編はこちらから↓

https://note.com/chiyoko23/n/n14801529b465

*  *  *

長くなってしまいました……。荒削りの箇所もたくさんありましたが、最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます。


さーて、明日のアドカレは?

何気ない日常を切り取ってほっこり仕上げる、あの方!
お楽しみに~

いただいたサポートを糧に、更に大きくなれるよう日々精進いたします(*^^*)