惑星ペルガンドラの悪夢
アレに触れさえしなければ…。
ここに来て何度そう思ったことか。
もうどれくらい前になるのか。
俺たちは遥か地球から、この岩だらけの惑星ペルガンドラにやって来た。
先発調査隊だった俺と他八名の乗組員は、ベース基地を建設できる場所を探していた。
その道中であの石を見つけたのだった。
それは唐突に地面から生えていた。
真っ黒な御影石にように見える構造物だ。
自然物のようでもあったが、一部、丁寧に磨いたようなツルツルの面があった。
それは不吉な墓標にも見えた。この出来事を象徴するかのように。
隊員のひとりが、不用意にそのツルツルの面に触れてしまったのが発端だった。
誰も攻めることはできない。何が起こるかなど予測は不可能だったのだから。
彼が石に触れたと同時に、俺は俺自身を見下ろしていた。
まるで魂だけ肉体から抜け出たような状態だった。
だが、下に見える俺は何事もなかったかのように動いていたし、仲間と会話もしているようだった。
顔を上げると、その場いた全員、俺と同じように肉体から離脱してしまっているのが見えた。
みんな裸で向こう側が透けていた。まるで幽霊にでもなったかのようだった。
俺たちは全員お互いが見えていて、口々に何か言っているようだったが、声は聞こえなかった。
下を見ると、相変わらず地上の自分たちはそのまま活動を続けていた。
そちらの意識が自分にはまるでないのがとにかく不気味だった。
視線を戻すと、みんなが身振りで会話を始めていた。
俺たち宇宙飛行士は、無線が故障した時のために、全員手話が使えるのだ。
≪未知のテクノロジー?≫
≪それとも自然現象?≫
答えの出ない質問が飛び交った。
その時だった。地上にいる一人がおもむろに銃を抜き仲間を撃った。
続いてそいつを他の奴が撃った。
俺たちは次々撃ち合い、最後の二人は相撃ちとなり全滅した。
こちらの俺たちは消えなかった。
恐怖に怯えた何もできない俺たちだけが残されたのだった。
【つづく】