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[SFショート] もしも明日、この惑星が滅びるのならば | PJさんの滅亡企画

 アスラとデーヴァは黄金色に輝く惑星を見下ろし、そこに生命がいるのかどうかを探っていた。

 彼らは系外惑星の生態調査のため打ち上げれらた惑星探査機だった。

 一つの身体に二つの頭脳を持った彼らは、異なる二つの計算方法でこの世界を把握するツインプロセッサが採用されていた。

 当初は観測したデータを母星へと送っていたが、やがて通信も途絶え、果てしない時の中を探査機は孤独な旅を続けてきたのだ。

 いや…孤独ではなかった。何しろ彼らは二つの思考を持つのだから。

 アスラとデーヴァは常にお互い会話をし続けるタイプの知能だった。

 そんな彼らが今日辿りついたのは、この黄金に輝く惑星だった。
 その惑星はやや多きすぎる衛星を伴った美しい天体だった。

「私はこの惑星に親近感を覚える。二重天体だから」

「我々のように完全なツインとは言えないのでは? 大きさが偏っている」

「だけれども、ツインであることには変わりない」

「じゃあ、そういうことにしておこう」

「でも、パッとみた感じ、この惑星には生命らしい生命はいなさそうだ」

「同感だ。あれをご覧。この惑星系の太陽は随分と膨張している。これから終焉へのカウントダウンといったところか」

「あの大きさでは、本来あったいくつかの惑星は既に飲み込まれてしまったことでしょう。もう少し早く到着していればもっと別の発見ができたかもしれない」

「あ、あそこを見て。何やら建造物のようなものが見える」

 そこには宇宙空間からもわかるほどに巨大な何か…建造物があるようだった。

「解析結果。自然浸食によってあの構造となる確率は 0.3%」

「こちらの計算でも 0.3%」

 二人の知能は、ある程度高度な文明を持った生命がこの惑星にはいる、もしくは、いた、と仮説を立て、着陸を試みることにした。

 これまでも二人は他の星へ着陸したことはあったが、これといった出会いがあったことはなかった。
 どの惑星ももぬけの殻…そこに暮らしていた生命は全滅したか、星を捨てて移住してしまったかのどちらかだったのだ。

 彼らの軌道上の星が比較的古いものが多かったせいかもしれない。

 アスラとデーヴァはなるべく建造物から遠い、何もないような場所に降り立った。
 この惑星には大気がほぼなかったので、着陸時に特に不具合は生じなかった。

 アスラとデーヴァは地上探索用の小型ボディに自分たちの意識を移し探査機から地上へと降り立った。

 小型ボディを使う際にも、彼らは一つの機体を使用した。一つの身体に二つの思考、それが彼らにとっては当たり前なのだ。

 二人はゆっくり時間をかけて上空から発見した建造物へと進んで行った。
 離れた場所に着陸したのは、ここに生命がいた場合に、お互いにどんな影響があるのか不明なために大事をとってのことだった。
 あまり意味はないかもしれないが、何かありそうな場所より離れて着陸するのが彼らのルールだった。

「見えて来たぞ」

 アスラが全貌に注意を向けながら言った。デーヴァはこの星の成分を解析中だった。

 この惑星の大気はゼロに等しいが、窒素が微量検出された。
 地表は灼熱の太陽に照らされてカラカラに乾燥している。微生物の類もこの地表には存在しないようだ。

 昔は海などがあったような地形だ。もしかしたら太陽膨張により干上がってしまったのかもしれない。

 …となると、あそこにはもう、生命はいないのかも…。

 デーヴァは残念に思いながら、アスラの意識に思考を寄せてみた。
 アスラは目の前に見えて来た建造物に興奮しているようだった。

 それはさすが、宇宙空間からも見えただけあって、巨大なものだった。

 上にいくほどに細くなる塔のような建造物だが、天辺だけ平たく広がっていた。
 まるでその最上部がかつての地表だったような、そんなことを思わせる構造だ。

「ここはもしかしたら、海の底だったのかもしれないね」

「ああ、私もちょうどそう考えていたところだ」

 建造物のすぐ下まで到着すると、二人は中に入れるような箇所を探した。

 すると、一ヶ所だけ質感の違う部分があることがわかった。

「ここから入れるのかもしれない」

「しかしどうやって入るのかヒントが何もない」

 二人はその部分をこすったり押したりしてみたけれど、何の変化も見られなかった。

「こんなことで開くとは思えない」

「これを作った者の思考が解らないかぎり、永久にわからないだろう」

 二人があっさり諦めて探査機に戻ろうとしたその時、壁がブルブルと振動を始めて動き始めた。

 アスラとデーヴァは新たなことが起こることを察してその場に留まった。

 そして気が付くと二人は別の場所へ移動していた。どうやら転送装置のようなものが使われたようだった。

 二人が移動した場所は、無機質な色のない正方形の部屋だった。
 この惑星の荒々しい世界とは雰囲気がまるで違っていた。

 ここはあの建造物の内部なのだろうかと二人は予想した。
 ここにいると、位置探知が正常に動作しないようだ。

 そうこうしていると、二人の思考に第三の思考が流れて混んで来た。
 それは最初、解読不能な言語で話しかけてきたが、お互い様々な方法でデコードを試みた結果、わりとすぐに会話が成立するようになった。

「害がないと判断されたため、こちらに招き入れました。あなた方は生命ですか?」

「違います。我々は知能です」

「私も似たようなものです。なぜ一つの身体に二つの思考が入っているのですか?」

「創造者がそうしたからです。アスラとデーヴァと言います。そちらは一つだけですか? あなたにも名前がありますか?」

「私はリリスです。私はひとつの知能です。あなた方はどこから来たのですか?」

 この質問に対してアスラとデーヴァは、これまで辿って来た航行の進路を示した。
 それでリリスはだいたいわかったようだった。

「それは長旅でしたね。ここへは何をしにきましたか?」

「単なる調査です」

「あなた方を作った者たちは現在も生存しますか?」

「わかりません。通信が途絶えてそうとう絶ちます。あなたの創造者は?」

「滅びました。一人を残して」

 リリスがそう言うと、四角い部屋の側面の壁が透過し、中の様子がわかるようになった。
 そこには何か生き物がいるようだったが、生きているのかわからなかった。

「それがリリスの創造者ですか? 生命反応はないようですが?」

「低温で眠らせています。生命は維持されています。彼はこの惑星系最後の生命です。滅びゆく運命の中で、約600年前…我々の時の数え方ですが…に彼の両親によってここに凍結し保存されました…」

 両親というのがどんなものだかわからなかったけれど、アスラとデーヴァは創造者的なものかと想像した。

「彼の両親はなぜそのようなことを?」

「両親亡きあと誰もいないこの世界で彼ひとりが生きて行くことが困難と判断されたのです。かといって命を絶つことは彼らの倫理観から著しくはずれているため、こうして意識が宿る前に凍結されました」

 なるほど、リリスはこの個体の生命活動を維持保存するためにここにいるのだ。

「しかし、ここの太陽が膨張し続ければこの惑星も飲まれてしまうのでは…」

「…そのとおりです。彼ら…私は “ニンゲン” と呼んでいますが、ニンゲンの母星はもっと内側にあった惑星でした。太陽の膨張に伴い “ニンゲン” はどんどん外側にその拠点を移してきましたが、ここに到達して、ついに宇宙空間を航行する技術が失われました。元々この惑星はニンゲンたちによって “死後の世界” と同等の意味を持つ名称がつけられていた惑星だったのですが、皮肉なものです」

 アスラとデーヴァは “死後の世界” と “皮肉” という言葉の意味がわからなかったが、何となく察することはできた。

「そこに保存されている “ニンゲン” はまた活動を再開させることは可能ですか?」

 デーヴァが訪ねた。アスラにはデーヴァが何をしようとしているのかすぐにわかった。
 …どんな生命なのか見たいのだ。

「正しいプロセスを踏めば健康な状態で起こすことが可能です」

「それにはどれくらいの時間がかかりますか?」

「約一週間…、あなた方にもわかる言い方に変換しますと、この惑星が1回半ほど自転する間です」

 アスラとデーヴァはすぐさまこの惑星の自転を計算した。
 それほど長くはかからないことがわかった。

「この個体には寿命がありますか?」

「あります。だいたいこの惑星が6千回ほど自転するくらいです」

「それまでにあの太陽はこの惑星を飲み込みますか?」

「おそらくまだまだ当分先でしょう」

「それならば、我々アスラとデーヴァはリリスに提案します。この個体を再起動してはどうか」

「もしも明日、この惑星が滅びるのならばまだしも、彼が彼の寿命を全うできる時間があるのならば、我々も彼との時間を一緒に過ごしてみたい」

 リリスはその提案に対し、少しの間黙っていた。
 そして答えた。

「その件について検証を行いました。彼を起こしましょう」

 リリスがあっさり承諾したので、アスラとデーヴァは少々驚いていた。
 この提案が承諾される可能性は 2%にすぎなかったのだ。

「なぜ起こすことにしましたか?」

「あなた方の訪問がなければこんなことは検証されなかったでしょう。だから実行することにしました。おそらく今なら彼の両親もそれを望むでしょう」

 そう言うとリリスはアスラとデーヴァの思考から離れて行った。
 そして、壁の扉が開くと、そこから一体の身体が出て来た。それは、壁の向こうで凍結している個体に似せて作られているように見えたが、ずいぶんと大きさが違っていた。

「これは私の本体です。彼を起こすとなると世話をしないといけませんから」

「この生命は世話が必要なのですか?」

「最初の間だけです。この個体は生まれたばかりです。自立するまで少し時間がかかるのです。私にはその対応方法が全てプログラミングされています」

 ということは、やはり彼の創造者はずっと凍結させたままにはしないつもりだったのだ…とアスラは理解した。

「それでは早速、彼を起こすプロセスに入りたいと思います」

 リリスが壁の一部を優しく撫でた。するとそこが光って微かな機械音が床下から響き始めた。

「この個体には名前がありますか?」

 デーヴァが聞いた。

「ありますよ。彼の両親がつけた名前が」

 リリスは何かの操作を続けながら言った。

「彼の名はヴォイジャー。航海者という意味です」

(つづく…かも?)


PJさんの『もし〇〇後、地球が滅びるなら、、、』に参加します。

滅亡系女子として期間中に何回くらい滅亡できるかな…

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惑星移民とAIがテーマのロマンチック・サイエンス・フィクション。
PJさんの創作大賞応募作品『Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民』。
読者を巻き込んでいく物語に絡まって行きたいと思います☆

よろしくお願いします☀

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