みんなで繋げる物語「旬杯リレー小説」
詳しいことは文末に。まずは物語を紡ぎます。
◎起【C】
作者:PJさん
◎承「潮曇りの峰」
作者:越庭 風姿さん
◎転:宇宙に漂う心
作者:PJさん
◎結:アルタイルは量子的思考の夢をみるか
作者:大橋ちよ
その時だった。ガゴーンと大きな金属を打つような音がステーション内に響き渡り、グラリと視界が傾いた。
そしてボクは窓に押し付けられていた。
…重力?
いや違う…。これは、ステーションが回転しているのだ!
ボクは状況を把握しようと窓から体を起こそうとしたが、無理だった。
ものすごいGがかり、顔を上げるのがやっとだ。
≪緊急警報:宇宙デブリがステーション右翼先端に接触。現在高速で回転中。逆噴射で制御します。乗組員のみなさんはハーネスを付け衝撃に備えてください≫
AIのデネブの無機質な声が船内に響き渡った。
…ハーネスつけろ、つっても…。
ボクは運悪く引っかかりのまるでない巨大な窓の側面に張り付いているのだった。
これで急激にGを失ったら自分の身体がどう動くのか、ボクは必死に計算した。
数秒後、何度かの衝撃があり、ボクは無重力の中に再び放り出された。
予想より勢いが付き、ボクの体は思った以上のスピードで窓から遠ざかり反対側の壁へと吹っ飛んで行った。
ボクはそれを異常な冷静さで客観的に捉えていた。
ああ、このままではボクは反対側のあの尖った角の多い機材類に頭から突っ込むな…。
いくら無重力でもこのスピードであそこにぶつかったら軽い怪我ではすまないだろう…。
こんなことなら、もっと早くベガとアルタイルを見つけておくべきだったな…とボクはこんな時にどうでもいいことを考えた。
…いやいや、そうじゃない。キミを本気で探しておけばよかった…。
ボクの人間としての思考はここまでが最後だった。
気が付くと、ボクは宇宙船そのものになっていた。
そして宇宙船の全てを把握していた。
宇宙デブリと接触してから432876秒が経過していた。
その間に何があったのかはよくわからなかった。
ふと横を見ると、見知らぬ女の子が無表情でこちらを見ていた。
自分が宇宙船なのに、隣に女の子がいる状態が摩訶不思議だったが、だが、女の子はいた。
「君は?」
ボクは声に出して訊ねたつもりだったが、声は出なかった。
その代わりに、何とも奇妙な感覚。テレパシーに近い感じで女の子に話しかけることができた。
何か人間の言語とは別の概念の意思疎通方法だった。
「デネブだよ。忘れたのかよボケ」
女の子の口が悪かったのでボクはギョッとした。
いや…たぶん実際にそう喋っているわけではないのだろう。ボクの翻訳機能のせいだ…。
彼女の口調については無視しよう…。
「デネブ…ってあのデネブ?」
「そうだよ、それ以外にいるかよ、ボケ」
「いや…ちょっと待って、状況が把握できないんだけど」
ボクが混乱しているとデネブは人差し指を突き出して、ボクのオデコに指を突きさしてきた。
それと同時に、ボクの頭の中に映像が流れ込んできた。
ボクは医務室の治療代に寝かされていた。
あまたに手術用のカバーをつけていた。
処置をしていたクルーの一人がこちらに向かって話はじめた。
「見てのとおり、君はさっきの事故で脳を挫傷し脳死状態となった。親族の了承を得て、これから君の精神をステーションのクラウド内へと転送する。君が目覚めた時に、恐らく状況を把握できないだろうか、デネブに言付けお願いしとくよ」
ここで映像は途切れた。
ボクは唖然としてデネブの方を見た。
デネブは無表情でこちらを見ているだけで何も言ってはくれなかった。
「つまり…えと、これは、ボクの精神がデータ化されたってこと?」
「そうだってさっきから言ってるだろ、クソボケが」
…いや、言ってなかったよね。まあ、いいけど。
いろいろツッコミどころは多かったが、実際にボクの思考がコンピュータ的になっているのは確かだし、何しろこの宇宙ステーション全体が自分の身体のような感覚になっているのは本当なのだった。
ボクはその不思議な感覚をしばし探査した。
そして気が付いてしまった。
「ちょっと待てよ、ここって量子コンピュータの中ってこと?」
「そうだけど、クソカス」
ボクは地球の方を向いた。
地球へは無数のネットワークでつながっていた。
まるで網目のように入り組んだ全ての人間に繋がるネットワークだ。
ボクはそこへ同時入っていくことができた。
ボクの情報処理速度は、人間のものを遥かに超え、量子コンピュータと同等になっていた。
信じがたい量の情報をボクは同時に検索した。
地上からたった一人の人間を見つけ出すことは、太陽系の中で新しい惑星を探すのよりも容易だった。
ボクは数秒もかからないうちに、キミを見つけた。
キミは日本のある町で暮していた。
これまでまるで縁のない土地だ。どうりで見つからないわけだ。
キミは母親になっていた。かわいい娘がひとり。まだ幼い。
娘の父親は…ボクはあえてその情報をシャットアウトした。
キミが幸せそうに生きていることを知れただけでもボクは満足だった。
ボクはずっとキミの側にいれる。
困った時は助けてあげられる。
ボクには君の未来を見ることもできる。
キミの命が尽きるまで、ボクはキミと共にいよう。
「人間なんて一瞬の瞬きだぞ、クソが」
後ろでデネブがぼやいていた。
デネブ…君には解らないだろう。
それでもいいんだよ。一瞬の瞬きだからこそ、命は美しい。
これは元々人間だったボクだからこそ解ることなんだ。
(おしまい)
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これはハッピーエンドなのかな?ハッピーだよね??
PJさんがAIとか言い出すから…。
越庭 風姿さん。とんでもない方向に話しが飛んで行ってすみませんです。。
数々の承の中でも独特の空気感を持った越庭 風姿さんのお話の続きをぜひ書きたいと思ってまして、書かせていただきました。
どうぞよろしく~。