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夏祭りとタイムトラベル

久しぶりに居酒屋へ行きました。海鮮のお店で、大漁旗なんかが飾ってある。若いお姉さんがレディースの甚平をいなせに着こなして、ビールや海鮮丼を運んできてくれる。他のお客さんもわいわいと楽しそうだし、磯のものを焼く匂いもして、なんだか、いいなあーと思った。
パンデミックや戦争やテロ事件や、ほんとうに哀しいことが続いているけれど、この時はそうしたことは、まったく意識にのぼらなかった。

思い出されたのは、子供の頃の夏祭りの帰りがけだった。
親戚の家から夏祭りに出かけて、大人たちがビールで乾杯するのに付き合わされたのか、もう記憶が曖昧だけど、こんな屋台っぽい雰囲気のあるお店に入ったことがあるんじゃないかなー。焼き物の煙の匂いが、七十年代の子供時分の記憶を刺激したんだと思う。氷水のなかから、ラムネを取り出してもらったような。

夏祭りだから、宿題はやらなくてよくて、もうすぐ夏休みがやってくる解放感があって、いつもは厳しい大人たちが上機嫌に話している。七月の夜空は少し雲があるせいで、下界の明かりを反射してか、紫がかった独特の色をしていた。おぼろな月が雲の切れ間から覗いていて。歩道の木々が影を落とし、空気はねっとりと熱くって。そぞろ歩きの人たちもくつろいでいて楽しそう。

実家は田園地帯にあるので、実家近くの神社の夏祭りの記憶は、青い稲の匂いや、提灯へそうっと蝋燭を入れたことや、浴衣に結んだピンクの兵児帯や、蛍が飛んでいたことに結びついているけれど、今日思い出したのは、それとは違う、どこか、もう少し町の方の夏祭りでした。あれは、母の実家から出かけたお祭りだったのかな。

今とは違う時代の、幸せな記憶を甦らせることができて、幸せでした。
思い出しているその時は、その場にいるのと同じ感覚になるんですよね。
タイムトラベルみたいです。

大漁旗、描いてみました。アマビエじゃないけど、邪気払いに。

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