銭湯のおじいちゃんから学んだこと

どうしてもサウナに入りたくて銭湯へ向かった。そこには下半身が麻痺しているため、上半身の力だけで移動しているおじいちゃんがいた。おれはいつもそういう人が一生懸命移動しているとき、言葉にするのが難しい何かを考えている。

それは「かわいそうだな」みたいなそういうことでは決してない。手を差し伸べるべきなのかどうか、手を差し伸べれば「そんな扱いするな」と思われるかなとか、そもそもお互い同じ人間だしな、人間の本質は身体ではないから考えすぎかなとか、でも自分には若さと健康があるからそれを使ってサポートできることはないのかな、そういえば自分ってバリバリ五体満足だな、ありがとう両親、とか。

サウナでふたりきりになって自然と会話が始まった。どこに住んでいるの、どのくらい通っているの、のぼせてしまうくらいに会話はハズんだ。

「タバコも酒もきっぱりやめれた」と、凄く嬉しそうに話していた。5年ほど前に大病を患ったらしく、看護師さんに「タバコもお酒も辞めないとダメだね、でもどうせ辞められないと思うけど」なんて言われたらしい。それが悔しくて、そこから一度も手をつけてない、と誇らしげに語っていた。

おれは純粋に凄いと思ったから「辞めたくても辞められない人もいるし、どっちも辞めれるのは意志が強くてかっこいいね!」と本音で伝えた。

そして「ぼくも辞めれましたよ!一緒ですね。今後もお互い禁煙していきましょう」と言って銭湯を後にした。

おじいちゃんは話を聞いてくれて、禁煙と禁酒の成功を認めてくれて嬉しそうだった。それをみておれも嬉しかった。そんなとき、そのおじいちゃんの下半身が麻痺していたことについて、なぜかわからないけど、どうでもよくなっていた。辛いことや大変なこと、想像できないくらい色々あったのかもしれないけど。最初に見たときにごちゃごちゃ考えていたことを一切気にしていない自分に気づいた。たぶんそれはあのおじいちゃんのことを、短い時間だけど詳しく知ることが出来たからだと思う。

また会いたいなとも思えた。同じ銭湯に行けば会えるかもしれないし、会えないかもしれない。次会うときは友達に親切をするような気持ちで、手を差し伸べることが出来るかもしれないし、友達として見守るという選択をするかもしれない。お風呂気持ちよかったな。

飢えをしのがせていただきます。