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鍋とビール

6缶パックのビールを自転車で買いにゆき、
マンション4階まで重い思いをしながら運び込む。
鍋の材料とともに小さな冷蔵庫にギュウギュウと詰め込む。
仕事終わりに一人、鍋を作る。
豚肉1パック。小さな鍋で2回転。
〆にたまご雑炊。ここまででビールは2缶空いている。
「もう1本飲んじゃおっかな」
こたつから飛び出て冷蔵庫を開ける。
酔っているから足取りは軽やかだ。鼻歌まで歌っちゃったりして。
ビールのお供にポテトチップスはマストアイテム。
お目当てのドラマがある曜日なら4本目に突入する。

今日、売れるか売れないか。
冬の立ち仕事はひどく寒い。
来店が少ない日だと一層冷える。
そんな毎日の中、暖かい部屋で飲む冷たいビールはこの上ない娯楽。
誰にも気兼ねなく、自分を繕うこともなく、現実を忘れられる。
そんな数時間。

気の合う友とオシャレしてヒールを履いて食事に行く。
必ずビールからスタートして和食なら日本酒、洋食ならワイン。
2件目のバーでソクルバーノ、リモンチェッロ、ジントニックetc..。
隣り合った人とおしゃべりして、仲間が増える。
行きつけが増える。恋もする。失敗もあった。
人の視線を気にして自分を繕ったり、酔っぱらって開放したり。
お酒を誰かと一緒に飲んで、自分の人間性を見つめることになる。
お酒を飲むことが趣味、みたいな独女を良しと思う稀有なパートナーも現れた。

お酒を飲むことが好きだ。
20年以上そう思って生きてきた。
のだが、、
残念なことに少しずつ体が受け付けなくなってきた。
4本飲めていたビールは2本になり、1本でも朝がしんどくなってきた。
たくさん飲めない、ということは楽しい時間が短くなる、と等しい。
とはいえ、長く続けた仕事を辞めた今、ほぼストレスのない毎日を送っている。
ストレス発散のための飲酒をしなくなった。
鍋の〆に雑炊は食べれなくなった。
オシャレはほどほどになり、ヒールはスニーカーになった。

それでも食事に出ると、この楽しい時間が気持ちよく続くことを願ってしまう。
人生最後の日まで小さくて良いからグラス1杯のビールを飲みたいなぁ。
今はまだ、一晩4杯くらいは飲める体でいたいものである。

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