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あっという間

「そう考えると人生ってあっという間かも。」
知り合いがSNSでつぶやく。
お腹にいた頃から知っている女の子が高校を卒業し、
自分のお店に来たことで感じた思い。

ーーそうか、人生あっという間だよな。

悩んでいたり、塞ぎ込んでいると、それがずっと続くような気がする。
夜中なかなか寝ない猫はこのままずっと寝ない気がするし、
失礼なことばかり言うお客はこのままずっと居座る気がする。
誕生日プレゼントを考えると見つからない気がするし、
予定が立て込むと体調を崩すのではないかと不安になる。

こういう時、『人生あっという間』なんて思いつかない。

甘えては困らせる猫も、
ひどく腹立たしいお客も、
決まらない誕生日プレゼントも、
体調を崩す自分も、
不機嫌な隣人も。
ずっとそのままで『ある』はずがないのに。

ホッカイロが2つ必要な冬だって、
気分がなぜか慌ただしい春だって、
蚊から逃げ回る夏だって、
薄寂しくなる秋だって、
一度たりともそのままで『ある』ことはなかったのに。

泣きたい夜も、
絶望する朝も、
猫が庭を横切る真昼間も。
ずっとは続かない。

大好きな友人と喋り明かした大晦日の夜も、
大好きな恋人と食べるあおさ味噌汁の朝食も、
大好きな猫と敷きっぱなしのお布団で眠る真昼間も。
ずっとは続かない。

今、自分をひどく苦しめているような気がすることも、
今、自分をとても幸せにしてくれるようなことも、
あっという間の人生の、あっという間に過ぎる『瞬間』に過ぎない。
そう考えるとずいぶんと穏やかな気持ちなり、書き留めておく。

忘れないように、思い出せるように。
ずっと続いて欲しいこともずっとは続かないから。

洗濯物が風にひるがえる午後に。幸福を感じながら。

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