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テリア種じゃないけどテリア?その名はチベタンテリア

 人間のペットやパートナーになり得る動物を考えた時、猫と並ぶメジャーな存在として、誰もが犬を想像するでしょう。
 中でも実に30以上の品種を数えるテリア種は、ヨークシャーテリアやボストンテリアなど、見たことはなくても名前は知っているという方も多いと思います。
 古くから狩猟用として、また近年は愛玩用として人間に親しまれている犬種ですが、テリアの名を冠しながら、実はテリア種ではない犬種がいるのをご存じでしょうか…?

 今回はそんな不思議な犬、チベタンテリアをご紹介いたします。

◆そもそもチベタンテリアとは?


 チベタンテリアは、チベット原産の牧羊犬種です。元々はチベットの首都ラサのラマ教の寺院で、「幸福を呼ぶ神の使い」として大切に扱われてきました。

 その歴史は大変古く、一説によれば紀元前にまでさかのぼるのでは?と言われています。
 あまりに歴史が古いためそのルーツも、寺院で飼っていたものが遊牧民に寄贈されたという説と、遊牧民が牧羊犬として飼っていたものを寺院に寄贈したという説の2つが存在しており、どちらが正しいのか、未だはっきりしたことは判明していません。

 分かっていることは2つ。1つは上記が理由で「この犬を手放すと幸運が逃げる」と信じられてきたために、現地のチベット人もこの犬種を売ることを良しとせず、門外不出となっていたこと。
 もう1つは、それにより他の犬種と交わらず、純血を保ち続けていたことです。

 一時は中国政府の命令によってその多くが殺されてしまい、絶滅の危機に瀕してしまいますが、寺院のラマ僧や遊牧民が政府の役人に見つからないよう隠して飼っていたことや、国外に数頭輸出されていたこともあって生き延びることができました。

 また1920年代に治療のお礼として、チベット人からインド人の医師へプレゼントされ、それをインドへと持ち帰ったために国外で繁殖できたのではないか、という説もあるそうです。
 いずれにしても1925年にヨーロッパへと渡り、1930年にはイギリスで犬種標準が定められることになります。

 つまりテリア種とは出自がまったく関係ないのですが、実はこのチベタンテリア、体高が40センチほどで横から見ると体形がテリア種とよく似ていました。このために生まれ故郷であるチベットの外で、チベタンテリアの名が与えられることになります。

 ちなみにチベット本国では「ドーキ・アプソ」という名前で呼ばれ、親しまれているそうです。


◆見た目や性格は?


 被毛はシャギーコート(むく毛)と呼ばれる二層構造となっており、美しいストレートか、あるいは少しウェーブがかかった毛で全身が覆われています。どこを触ってもフワフワモコモコしており、その可愛らしい見た目がチベタンテリアの特長の1つとなっています。

 ちなみに遊牧民は夏になると、羊と同じようにチベタンテリアの毛を刈り取っていました。
 ヤク(中部アジアの牛)の毛と混ぜると衣服の素材になるので、人の生活にも貢献していたのです。

 耳は垂れ耳で、尾は巻き尾、耳と尾には飾り毛があります。目を覆い隠すほどの長い被毛と合わせて、どこか穏やかで優雅な雰囲気さえ感じられるのではないでしょうか。

 マズルや手足は長めで、その足の指は舗装されていない道や雪道などでも問題なく歩けるよう、丸く大きくて、平べったくなっています。

 毛色はというと、ゴールデンやブラック、ホワイトからクリームやスモーク、グレーなど実に多彩な色合いで、この豊かな毛色の数々もまたチベタンテリアの魅力と言えるでしょう。

 その出自のとおり元々テリア種とは無関係なので、テリア種にありがちな気が強く興奮しやすいといった面は見られません。
 むしろ穏やかでとても優しい性格です。愛情深い上に気立てが良く、愛嬌もあるため飼い主やその家族、子供にもよく懐いてくれます。

 好奇心が強く外交的ではあるものの、反面とても警戒心が強い一面があり、見知らぬ人に対しては吠えたりすることもあって、あまり愛想よく接することはないでしょう。

 しかし決して神経質であったり、攻撃的なわけではありません。むしろ喧嘩は嫌いな性格です。
 この辺りは、かつてチベットで番犬や見張り犬としての役割を担っていたことに由来するのでしょう。
 あくまで大切な家族を守りたいだけなのです。


◆飼育する際のメリット・デメリット


 そんなチベタンテリアですが、いざペットとして、あるいはパートナーとして飼育するとしたら、どうなのでしょうか。

  先述のとおり飼い主とその家族に対しては、物静かで優しい部分を見せます。
 一方それ以外の人間や他の動物に対しては、なかなか心を開かず吠えてしまったり頑固で融通が利かない面があります。室内犬に向いていると言えるでしょう。
 この点においては、子犬の頃からムダ吠えしないようにしつけを行う必要があります。
 性格面においては、飼いやすさと飼いにくさの両方があるかもしれません。

 おとなしい犬種ですが、他のテリア種ほどではないものの活動的な面もあり、朝晩それぞれ20~30分ずつの散歩が欠かせません。
 運動不足にならないように注意してあげましょう。

 飼い主と一緒に遊ぶことも大好きな犬種ですので、ドッグランで自由に運動させてあげたり、室内でもボールやおもちゃを使って遊んであげてください。

 また日本より標高が高く、気温も比較的低いチベットの生まれなので、暑さが苦手です。
 気温は22~23度を超えたあたり、湿度は60%を超えたあたりで熱中症になる危険があります。
 夏場は迷わずエアコンを使ってあげましょう。体毛の長い犬種ですので、毛を短めに切るのもおすすめです。

 長い被毛は毛玉になりやすく、もつれを防ぐためにもブラッシングは欠かせません。
 少なくとも週に1回、できれば2回以上はピンブラシなどでブラッシングしてあげてください。
 毎年春と秋頃には換毛期があり抜け毛の量も増えるため、ブラッシングの回数や時間を増やしてあげましょう。
 定期的にお風呂に入れてあげることも重要です。(必ず犬用のシャンプーを使いましょう)

 ちなみに販売価格はおよそ12~25万円。希少犬種のため、他の犬種と比べると値段が高い傾向にあるようです。
 皆無ではないものの、日本ではあまり出回っておらず、ペットショップにもほとんど並んでいないので、国内外のブリーダーから購入するのが最も確実かもしれません。

 


 テリアと呼ばれるに至った背景や、そこに至るまでの意外な歴史、人間の家族の一員としてただ愛らしいだけでなく、今日に至るまで紆余曲折あったことがお分かりいただけたのではないかと思います。

 長い被毛とおとなしい性格で、誰にでも優しい印象を与えますが、実は頑固という意外な側面も確かにあります。
 しかしそれも「本当に大切なのは家族だけ」という深い愛情の裏返しと考えれば、家族の一員として強い愛着が湧くのではないでしょうか。

 大きさとしても性格的にも、室内犬としてはとても飼いやすい部類に入りますので、大人しい犬種が好きな方には是非ご興味を持っていただけたら幸いです。

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