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『どん底』の洋平タイム〜「歌うか?with 名前ラップ」「にん・げんのうた」

「歌うか?with 名前ラップ」

『どん底』の持つ場末感やなんでもありな感じ、やぶれかぶれな感じに乗じてがっつり歌ってみようと思いつくった。
前半が演歌調、後半がリズム&ブルース調っぽくなっていて、後半の中に登場人物の名前を列挙した「名前ラップ」も入っているというなかなかエンタメな作品。

Yoh(サーチン) おい、おい、五銭くんなよ。おい。
Mid 神様!
(Yoh、Midを起こす)
Yoh そりゃあ、この女にゃその昔|、こりゃもうてっきり、馬車|もなけりゃ——祖父|さまも……いいやそれどころか、親父やおふ|くろ|まで、なかったかも知れねえが
Mid どうもわたし|、本当|にできないの……人の|言うことがみんな|。底!
Yoh 人|間|は、信心するもよし|、しねえもよし| ……そりゃ、めい|めい|の勝手だ! 人間は——自由なんだ……何をしたって、勘定は自|腹だ、信心しようが、しめえが、惚れようが、利口ぶろうが、歌うか?
Mid 神様! 
Yoh ほい来た
Mid あの世へ行っても、こんなつらい運命が待ってるんでしょうか
Yoh よかろう
Mid どん底!
Yoh 信心しようが、しめえが、惚れよう|が、利口ぶろう|が、みんなそうだ|。人|間|たあ
人間たあ、いったいなんだ? ……おめえでも、おれでも、やつらでもねえ……歌うか?
Mid 神様!
Yoh ほい来た
Mid ああむかむかする……あの世へ行っても、こうだろうかねえ?
Yoh よかろう
Mid どん底!(泣く)
Yoh おめえでも、おれでも、やつらで|もねえ……みんな違う! 人|間|そりゃ人間そりゃあな、おめえも、おれも、やつらも、
Mid どん底!
Yoh こいつも
Mid どん底!
Yoh ナースチャ男爵ブブノーフ 役者にペーペル ヴァシリーサ ルカーにアンナにクヴァシニャー めっかちゾーブとコストイリョーフ 乞食にハッサン クレーシチ 巡査に巡礼 オレ、サーチン 靴屋に帽子屋錠前屋 また羽目ぇはずしたのかアリョーシカ やつら|も、こいつ|もナターシャも、ナポレオンも、マホメットも
(Yoh、Midを抱えてベンチへ。Midの泣き声)
ナポ|レオンも、マホ|メットも……みんないっしょくた|にしたものなんだ! 神様わかったかい?||人間はみんないっしょくた||どん底神様わかったかい?||勘定は自腹だぞ||どん底神様わかったかい|||||||頭が痛いどん
Yoh&Mid 底!

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「にん・げんのうた」

原作のサーチンの長台詞の中に「人間」という言葉がたくさん出てくる箇所がある(今、数えてみたら16回!)。まあ、サーチンは常に「人間とは?」と言っているキャラクターだが、それにしても一箇所で16回は多い。
……なら、増やしましょう。
ということで、ある一定の節回しをつけ、それにあわせて「人間」を入れていった。つまり「人間」という言葉がスラッシュになっている。
結果的に歌の中で26回、シーンでは33回「人間」と言うことになった(言い過ぎ?)。

節回しのヒントになったのが「にん・げん」という表記。
原作の16個の「人間」のうち「にん・げん」と表記されているところが2箇所ある。
訳者の神西清さん(チェーホフの四大戯曲でもお馴染み!)が強調してそうしたのだろうが、「にんげん」でも「に・ん・げ・ん」でもなく「にん・げん」と前後2つに区切っている。繰り返し口に出して言うだけで、もうリズムが生まれる。後はもうこの「にん・げん」のリズムに乗って台詞を組み合わせればいい。

もうひとつ、神西さんはこの『どん底』を全体的に江戸弁というかべらんめえ調に訳している。木賃宿に泊まっている、いかにも粗野な庶民風の言葉だ。
「そんなこっちゃねえ」とか「こさえたものよ」とか。
これが喋っていて実に楽しい。とても口が滑らかな感じ。

しかしこの前、ロシア文学の先生に話を聞いたらゴーリキーの原文は全然こういう庶民言葉ではないらしい。一見すると誰が喋っているかわからないくらい平均化された標準語みたいな言葉らしいのである。
びっくりした。
じゃあ、「そんなこっちゃねえ」とか「こさえたものよ」は「そんなことではない」とか「作ったものだ」になるのだろうか。
……おもしろみ、半減。

神西さん、べらんめえ調にしてくれてありがとうございやす!

Yoh(サーチン)  一度おれゃ、こう聞いてみたことがあった——なあ人|間|はなんのため、生きてるんだろうな?……「そりゃね|——自分よりもっといい人|間|のために生きてるのさ、おまえさん!||錠前屋だろうが……|靴屋だろうが、ほかの|職人だろうが、また|百姓だろうが……いや地主の旦那|にしたところが——とにかく人|間|は、百|年……いや、それ以上かも知れないが——みんな、もっといい人|間|のために生きてるのさ!」|||||
だからこそどんな人|間|でも、大切にしてやらなければならん……||だってわれ|われ|には、それがどんな人|間|なのか、何をしに|生まれて、何をしで|かすものやら、見|当|見当|がつかないじゃないか……ひょっとしたらその人|間|はわれ|われ|の幸|福|幸福|幸|福|幸福|のため……この世に何かど|えらい利|益|利益|利|益|利益|を与えるため(Mid床に落ちる。Abe泣き)生まれてきたのかも|知れないじゃないか?
(この後から「にん・げん」のリズム)
あるなあただ、あるなあただ、人間だけで人間あとはみんな——人間の手や人間脳みそが脳みそがこさえたものよ! にん・げん! こいつあ人間——すばらしいや! 豪勢な音が、人|間|するじゃねえか! にん・げん! だから人間を、大事にしなくちゃいけねえ!人間憐れんじゃいけねえ……憐憫でもって人|間|踏みつけにしてもいけねえ……尊重しなくちゃ人間ならねえ! 人間のため一杯いこうや、な男爵! そんなこっちゃねえ、なあ男爵! そんなこっちゃねえ。なあ男爵!
Koj(男爵) おめえは——理屈屋だなあ。悪くねえこった……
Yoh そんなこっちゃねえ自分が人間だと思うと——ぞく|ぞく|するなあ! なあ、ナースチャ!
Abe(ナースチャ) でもねえ、と私は言ったん|だよ。あなたの若いお命を絶つことだけはやめてくだ|さい。
Yoh おれは——懲役人だ|、人殺しだ|、いか|さま|カルタ|いかさまカルタ|の常習犯だ、おいペーペル! ペーペル!
Yuk(ペーペル) おら今まで、世間にゃおれよか余計どろぼうどろぼう|しやがるくせに、大手を振って暮らしてるやつら|がいると思って、なんとか気をまぎらしちゃ来たが。そんな気休めは、なんにもならねえ! おら、後|悔|なんかしねえよ|!
Yoh 恥しらず?そんなこっちゃねえ。|山師? そんなこっちゃねえ。|おい役者! 役者! 
Mas(ブブノーフ) おい役者! まあさ、こっちい来なよ! ここへすわって……いっしょに歌おうじゃねえか! おれの好きな、あの歌を……な?
Yoh お、ブブノーフ、五銭くんなよ!
Mas おら、二銭しかねえ……
Yoh そんなこっちゃねえ、働きやがれ?そんなこっちゃねえ。なあナターシャ
Mid(アンナ) あの世に苦しみがないとなったら……この世で、もう少し辛抱してもいいよ……いいよ!
Yoh 働けだと? じゃ一つ、愉快に|働けるようにしてもらおうじゃねえか。すりゃおれだって、|働くかもしれねえ……そうとも!|働くかもしれねえよ? 労働|が快楽|なら、人生|は極楽|だ! 労働|が義務|義務|になったら、人生|は地獄|だ。働けだと?そんなこっちゃねえ。なんのためだ?人間腹いっぺえ食うためか? おら全体、胃袋のことでいじいじするやつあ、軽|蔑|軽蔑|してるんだ。
Sie(ルカー) やがて春になると、じゃお大事に!と言ってひとりでぶらぶらロシヤのほうへ歩いて行ったよ。
Yoh そんなこっちゃねえ、な、男爵。そんなこっちゃねえ、人間はそんなこっちゃねえ——|もっと上だ!人間はそんなこっちゃねえ——|胃袋よか人|間|高尚だあ! 人間だから人間だけど|人間|これが|人間だもの、いっさいが人間のなかにカンあるし|、いっさいが人間のためにカンあるんだ!| にん|げん|、豪勢な音が、するじゃねえか!
いて!
音楽バイーン


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