見出し画像

スポーツ劇の洋平タイム〜「シュワちゃんタイム」 小林洋平

「シュワちゃんタイム」
久々に台本を見返して、自分で「バカだな……」としみじみ思ってしまった愛すべき作品。
この台本で「シュワちゃん」と言っている部分は原文では「アーニー」となっていて、オーストリアでのアーノルド・シュワルツェネッガーの愛称。
つまり、日本でいう「シュワちゃん」である。

シュワちゃんに憧れ、筋肉増強剤の過剰摂取で死亡したボディビルダー、“アンディ”ことアンドレアス・ムンツァー。
原作は、彼がシュワちゃんへの愛を切々と語るシーンだ。
それを、シュワルツェネッガーの映画の決め台詞やタイトルを語尾につけることで表現した。そして、究極の存在であるシュワちゃんへの畏敬の念が最高潮に達した時、アンディにとって彼はまさに神となり、カーミネーターとなるのだ!(なんのこっちゃ)
ex.
ゆっくり走るbe back、後ろ向きに走るbe back
(I’ll be back.)

ステップの姿勢をとータる・リコール
(トータルリコール)

神様。神様?神、カーミネーター、僕のカーミネーターは別の人だ、シュワちゃんだ。
(ターミネーター)

原作『スポーツ劇』の全体から抜粋、構成。              
文中の「シュワルツェネッガー」「ネッガー」「ターミー」「ネーター」「I’ll be back.」や映画のタイトルはこちらで挿入した。

画像2

Yoh 僕は下から、駅のアナウンスにも使える一番いい声で、上へ呼びかける。僕は僕だ。僕は君たちの親愛なるアンディだ。聞いて。僕はシュワちゃんを知っている。まるで、シュワルツェネッガー、彼が僕の一部であるかのように。まるで、シュワルツェネッガー、彼が僕であるかのように。僕は研究している。僕だ僕だ僕だ。違う言い方をすれば、それは僕なんだ。そうじゃない。それは僕だったんだ。
待って。
僕はシュワちゃんにそれほど似ていないけれど、そんなことは、もうどうでもいい。誰が顔なんか見るっていうんだ。僕はハードワークをしているけれど、いつもあまりにも早く、自分を自分の限界の中に押し込んでしまう。シュワちゃんは自分を自分の身体の中に包み込んでいて、まるで、この身体がすでに彼自身であるかのようだ。シュワルツェネッガー。
僕の偉大なる模範であるシュワちゃんのために、僕は何でもするよ。でも、僕は何をしたらいいんだろう。だって……僕のシュワちゃんは以前に、人工的な人間をとても自然に演じたことがある。その時は、工場で製造されたよそ者だった、ターミーの奴は、ネーター。そこでは、不自然な人間たちが製造されるネーター。僕自身は自然と、いつも自然のままでいた。それが今、僕にとって、何の役に立つだろう。僕たち、ごく普通の死すべき人間だって、自分で決めるネーター。誰が僕たちにとってよそ者のままであり、誰が神となってもよいのかを。ネッガー。ネッガー。(舞台前へ)
テレビの前のガラスが、怒りのあまり、粉々に割れてしまう。僕がそんなことをしようとしたら、恐ろしい口調でからかう母親の声だけが鳴り響く。決して満足することがない。
早すぎる be back、短すぎるbe back、遅すぎるbe back、
Sie (笑い)
(Abe下を覗く)
Yoh (舞台前)I’ll be back. (戻る)
自分自身でありすぎるbe back. 誰か別の人でなさすぎるbe back. ママ。彼女は僕に、ひっきりなしに指図をするbe back. 別の人になりなさい。アンディ、別の人になりなさい。さあ。さあ。I’ll be back. そのくせ、ちっとも僕の母親ではないんだ。あの女は、僕なんか望んではいないんだ。母親は自分が生み出したものではなく、いつもそれ以上のものを望んでいる。いつもそれ以上のものを。自分のひとり息子が、誰のものでもある人物になることを望んでいる。シュワちゃんのように。
そうだ、待って。
衝動が見える。シュワちゃんはそれを僕に見せてくれる。僕にだけ、肉でできたこのまっすぐな姿勢を見せてくれている。
シュワちゃんは、それを僕にやって見せてくれた。
ゆっくり走るbe back、後ろ向きに走るbe back、
(Abe、水を飲む)
Yoh 横向きに走るbe back、踵を腿につけて走るbe back、膝を上げるbe back、肩を回しながら歩くレス、
Sie (笑い)
Yoh ヘラクレス
短い距離を全力疾走するー・ライズ、
Sie (笑い)
Yoh トゥルー・ライズ
(Abe、水を置き、ストレッチをして座る)
Yoh 踵を尻につけるbe back、ステップの姿勢をとータる・リコール
Sie (笑い)
Kinectイン
(Yohネットの前に出て来て「トータル・リコール」再びネットの向うに戻る)
Kinectアウト
Yoh 足をベンチに(まっすぐに)のせるbe back、足をベンチに(横向きに)のせるbe back、 肩を回す、
Sie (笑い)
Yoh 上体を曲げるbe back。それから、一連の流れを、ダダッダッダダうまくできたーミネーター場合も、ダダッダッダダうまくできなかったーミネーター2(間)場合も、短く、頭の中でたどってみレイザー。(笑い)
SE 爆撃+戦闘機⑧ 映像イン
Yoh ゴール後にゆっくり走るbe back、ゆっくり歩くレス、頭の中でレース展開をなぞるラスト・アクション・ヒーロー。残念ながら、時としては、チームの本来のパフォーマンスを十分に発揮できないこともI’ll be back。その原因は、精神的なプレッシャーをかけすぎたことでツインズ。ネッガー。 ねえ、僕はシュワちゃんみたいになりたいんだけれど、どうしたらいいんだろう。だって、あの人はまだ生きているんだから。ネッガー、ネッガー。
今日もまた、君たちの画面の上で歩き回っているね。すごい。パラシュートもつけずに、飛行機から。まるで、あの空が彼のうちみたいだ。僕のうちは、いつだって僕の家だけだったのに。(横になる。しばし間)僕はもう、彼の手紙を覚えてしまった。(起きあがる)でも、彼はイエスじゃない。シュワちゃんだ。イエスなら、僕は毎日、うちのキッチンで会っていたくらいだ。だから、僕は比較することができる。
神様。神様?神、カーミネーター、僕のカーミネーターは別の人だ、シュワちゃんだ。あなたが怒りながら、神様、と言うときに、おそらく意図している、あの神様じゃないんだ。ひとりでに成長したりはしないんだ、筋肉の塊は。あなたは薬局で、うまいことを言われたのかもしれないけれど。神はあなたの身体とは、まったく何の関係もない。神があなたに与えてくれたものなんて、何もないんだ。僕には今、そのことが分かっている。だって、僕自身がまた虚無になるんだから。(間)
でも、僕はシュワちゃんを、まだ見ることができる。頭の中のイメージで。そこからは、骨がにやにや笑っていて、まるで、シュワちゃんのかわりに僕自身のイメージが見えたかのようだ。
聞いて。待って。助けて。触ってみて。急いで、僕から離れて。行って。喜んで。硬直して。ポーズをとって。僕は今死んでいる。
聞いて。待って。助けて。触ってみて。急いで、僕から離れて。行って。喜んで。硬直して。ポーズをとって。僕は今死んでいる。
聞いて。待って。助けて。触ってみて。急いで、僕から離れて。行って。喜んで。硬直して。ポーズをとって。
僕はもう、遅すぎた。(倒れる)


『スポーツ劇』のルール〜反復横飛び+反り返るコート=再演不可!?
洋平タイムとは 小林洋平


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?