逆さまつ毛矯正の手術をした話

去年の年始に、逆さまつ毛矯正の手術をした。目ざとい子たちからは「二重整形したの?」と整形疑惑をしょっちゅうかけられてたんだけど、わたしの二重の幅がここ最近気持ち広くなったのはこのためである。

逆さまつ毛自体はもう昔っからで、実は大学3年生になる前――つまるところ編入する前――にも一度埋没法という切開をしない瞼を留める方法で仮の処置をしたんだけど、まったく改善しなかったため切開できちんと手術をすることとなった。

逆さまつ毛がどのくらいめんどうくさいものかわからない人に軽く説明しておく。
まず巻き爪を想像してもらいたい。逆さまつ毛はそのまつ毛バージョンであると考えていただきたい。まつ毛が下向きで内側に生えているので、常に凶器となって眼球を攻撃してくるのだ。それに加えてわたしの場合、幸か不幸かまつ毛がわりに長く太く密集しており、その攻撃力はかなり高かった。だいたい目の端の何本かは朝起きたときに内側に食い込んでいるので、毎朝涙を流しながらピンセットでそれを取り除く作業を長年やっていた。

そもそも逆さまつ毛自体、本来は一重や奥二重の人がなりやすいものらしいんだけど、わたしは奥二重寄りではあるがいちおう二重なので、眼科医も「なんでこんなに食い込むんだろ」と首をひねっていた。

手術はもちろん眼科でもやってくれるんだけど、美容面ではあまり注意を払ってくれない、つまり両目の形をきれいに揃えてくれなかったりするという噂を小耳に挟んだのと、従兄に美容整形外科医がいるため、家族との相談の末、美容外科で受けることにした。美容外科は眼科と違って保険が降りないんだけど、顔のことなので仕方ないか、という感じで渋々親が費用を出してくれることになった。

従兄に紹介してもらった美容外科医は特に目の整形で有名な人らしく、「あんまり二重幅が広くなりすぎたり変わったりしたら嫌です」とか「麻酔効きにくいのと痛いの苦手です」とかいう要望を熱心に聞いてくれた。(ただわたしの目は目尻側が主に食い込みやすい形をしていたので、いまよりはちょっと二重幅は広がる形にはなる、と言われた。ラッキーである。)

そして手術当日、「麻酔もしっかりかけるし、痛みもないと思うし、1時間くらいで終わりますよ」という説明を受けたのち、これから捌かれるマグロのようにベッドに横たわった。5分そこらで麻酔で頭がくらくらとしてくるが、なにせかなり体質的に効きにくいのでまぶたを切られているときはかなりはっきり意識があり、前回埋没で留めた糸を除去された際、「今取れました?」と聞いてしまい「えっまだ意識あるの?!」と先生をびびらせてしまった。

その後も意識は完全にはなくなることなく、ぐるぐる回る天井を眺め続けていたのだが、どうもおかしい。小一時間で終わるはずの手術なのに、もうすでに2時間ほどは経っている気がする。もちろん意識はおぼろげながらあるので、「まだですか」と聞いたりしていたのだが(ここでも先生をビビらせる)、「もう少し頑張ってね~」という答えしか返ってこない。それどころかなんだかだんだん痛みも感じるようになり、なんだか看護師さんや先生のざわつく声も聞こえ出した。恐怖である。

「痛い…痛い…」と呻いているのに、先生は「うん、痛いね〜もうちょっと頑張ろうね〜」としか言わない。後で聞いた話なのだけれど、いざ開けてみたらわたしの逆さまつ毛は普通の「逆さまつ毛」ではなく、瞼の中の軟骨と筋肉が剥離していたことによるものだったらしいんだけど、軟骨には麻酔が効かないらしく、次第に痛みは我慢できないレベルで強くなってきた。

しかし体は痺れているのでどこかに掴まって耐えることもできない。まぶたを切開されてる最中なので泣くこともできないし、目も閉じられない。なかなか終わらない手術、半開きの目に映るぐるぐる回る天井、激しい痛みに襲われながらも、為す術もなくただ横たわって待つことしかできない。一体何が行われているのだ、「痛くない」と言ってたじゃないか、わたしはどうなってしまうのだという強い不安に耐えること3時間(!)、やっと手術が終わった。

もう本当に死ぬかと思った。1日で数週間ぶんのカロリーは消化したのではないかと思うくらい術後のわたしは疲労困憊していたし、まぶたを縫われた自分の顔を鏡でみるとお岩さんよろしくパンパンに腫れ上がっていた。

手術には母が付き添いで来てくれていて、終わるまで近くの喫茶店で待機していたのだけれど、最初に知らされた終了予定時刻に病院にわたしを迎えに来ても「まだ終わってない」と言われてしまってかなり不安になったらしい。そりゃそうだろう。後日看護師の友人にこのことを話したら「それ、盲腸の手術より長いよ」と言われてしまった。

先述の「瞼の中の筋肉と軟骨の剥離」は体質によるものらしく、稀にそういう人がいるみたいで、「いや〜こればっかりは開けてみないとわからないんですよね〜」と先生に言われた。「痛くないですよ」という術前の先生の言葉を信じきっていたわたしは先生をめちゃくちゃ恨んだ(もちろん先生に罪はない)。しかも腫れは1年近くは完全には引かないという。

ところでなぜ手術に踏み切ったのが去年の年始だったかというと、ちょうど修士論文に追われていた時期で、他人と会う機会が少なくなっていたからである。3ヶ月くらいでそれなりに腫れが落ち着いてくるとも言われたので、この時期に手術を受けることに決めた。

手術からだいたい1年経った。麻酔も効かない体質だけれど、腫れが引くのも遅い体質らしく、まだほんの少し二重のところがぷっくりしている。だけど術後よりはだいぶ見られる顔になった。他人には言わなきゃ気づかないレベルにまではなったようだ。

肝心の逆さまつ毛も、前は2日にいっぺんは目尻のまつ毛数本が眼球に食い込んでいたのが、いまは1ヶ月に一度1本食い込むかどうかまで改善された。わたしの目の形上、どうしても完全に治るのは難しいらしいけど、ストレスはかなり減った。あとは、今まで眼球の筋肉がきちんと機能していない(?)状態だったので、どうしても目を開ける際におでこの筋肉を使って無理に開かせていたらしいんだけど、自然に完全に目が開くようになった。自分がおでこに力を入れていたことに気づいたのは術後で、「力を入れなくても目が開いてる!」とちょっと感動した。おでこに将来シワが寄っちゃうという意味でもそうだけど、目がぱっちり開くようになったのはやっぱり嬉しい。先生には「本来ならこのくらいしっかり開いてるはずだったんだよ」とも言われ、中高時代から目の小ささやそれによる目つきの悪さで悩んでいたのも少しだけ解消された。

まあでもなんといってもやっぱり二重幅が少し広がるという副次効果は最高である。もし逆さまつ毛で悩んでる人がいたら、一度眼科を受診してみるのもいいかもしれない。もしわたしみたいに軟骨と筋肉が剥離してたら、手術は地獄だけど。

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