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いっしょにつくること

noteで知り合った久保田友和さんの、楽曲制作にご一緒させていただきました。

今日はすこし、そのお話をさせてください。


うたをつくることになるまで

もともと久保田さんが20年前につくったインスト曲を、今回歌のあるものとしてつくりなおすこととなり、歌詞を書いてみませんか、とお声がけいただいたことがきっかけでした。

できあがった曲に歌詞をつけるという経験はなかったのですが、noteでずっとお世話になり、仲良くしてもらっていた久保田さんからのお話なので、ふたつ返事でお引き受けしました。(あと、楽しそうだったので。)



どんなうたにするか

もともとの曲のイメージとして「海」と「喪失感」があるということはうかがっていました。

でも今回あらたにつくりなおすにあたり、まったく新しいものにしていいと久保田さんは仰いましたが、私としてはもともとあったイメージも大切にしたい気持ちがあり、「海」と「喪失感」をキーワードに、今回の楽曲がもつ印象を歌詞に織りこんでゆくことにしました。

そしてはじめて聴いたとき受けた「夜」と、「上にのぼってゆく」というイメージを重ねてゆくのはどうかな、と考えました。

久保田さんとそうしたイメージについてなんども話し合いを重ねながら、やりとりをくり返すなかで、すこしずつ具体的なイメージをつくりあげてゆく。私ひとりで世界観をたちあげるというより、やりとりを通してもとあったイメージを育ててゆく、という感じでした。


うたの世界を練ってゆく

イメージにあわせて言葉を置いてゆき、見てもらい、フィードバックにあわせて、また言葉を置き換えてゆく。
実際の作業もやりとりを重ねておこなってゆきました。
寄せて返す波みたいに。あっちゆきこっちゆきするあいだに、「あ、久保田さんは音符ひとつになるべくひとつの字をあてたいのだな」とか気づくことがあったり、また久保田さんからも「この言葉だとタ行が続きすぎる」とか「この単語には停滞のイメージが出そう」とか、とくにテクニカルな部分で教えてもらえることがたくさんあり、とても勉強になりました。


波みたいに、やりとりをすること

なんに関してもそうなのですが、私は自分の意志というものがとても乏しくて、貫きたい世界観もあまりなく、相手がこうしたい、と言ってきたら全飲み、みたいになりがちではあります。
でも久保田さんははっきり自分の意見は伝えるものの、私のそういう性質をじゅうぶん理解したうえで、私がどうしたいのかに注意深く耳を傾けてくれていたので、私も気持ちを伝えやすく、とても助かりました。

私は仕事経験があまり豊かでないので、こういうことはあたりまえなのかもしれませんが、でもいつもひとりでこつこつものを書いている私にとっては、聞く耳をもって待っていてくれたことがとてもうれしかったです。
だれかとものをつくるとき、きっと大切なのはそこじゃないかな、と思いました。段取りとか、交渉とか、そういうことではなくて。
きちんと聞くこと。相手はどうしたいのか。自分はどうしたいのか。そして、そのあいだにうまれて、つくられてゆくものは、なにを語っているのか。それにちゃんと、耳を傾けること。

そして、最終的には私がこうしたいと思うかたちを尊重する、という姿勢を久保田さんが最後まで貫いてくれたことが、ほんとうにありがたかったです。



タイトルのこと

じつはけっこう、タイトル決定まで時間がかかりました。仮案としていくつか私からもあげてはいたのですが、なかなか決まらない。歌詞に関しては私に文責がありますが、でもタイトルに関しては、楽曲や映像作品としての全体の方向性を決めるものになるので、そこは久保田さんが決めたほうがいいと思います、という意見を伝えると、どこかから「夜標」という言葉をポーンと持ってきてくれました。

歌詞の世界を大事にしつつもさらにひろげてくれる言葉で、そして久保田さんらしいかっこよさもあり、気に入っています。
(この言葉を活かすために歌詞に手を加えたりして、全体を整えたりもしました。)
久保田さんは前に出るところ、引くところ、バランスを上手にとりながら進めてくれたように感じています。


できあがったうたを、渡してゆく

歌詞が決まると私としては作業はおしまいです。そこからは久保田さんの “人をつなげてゆく仕事” になります。

もともとnoteで縁あってつながった方達といっしょになにかをつくってみようという企画。
その後できあがったものに歌が入り、イメージした絵が入り、題字が書かれ、映像作品となってゆきました。

はじめは「海」と「喪失感」というふたつのキーワードからうまれたイメージの世界が、人の手を経るごとに、どんどん育ってゆく。

手渡したことばの世界を、唄い手のamaさんが豊かに深く彩ってくださり、akari’nさんの絵が世界をとおくまでひろげ、光を散りばめてくださり、彩雪さんの字が空にのぼってゆく線をしっかりと引いてくださった、そんな印象を持っています。


イメージをつなげてゆくこと。
その力を、今回とても身に沁みて感じました。
そして、自分をひらくことができれば、見える世界は変わってくるのだと、教えてもらった気がします。

いっしょにつくること。ひらくこと。つなげてゆくこと。
その力は、またふたたび1人でこつこつものをつくってゆくときにも響いてくるように感じました。




できあがったもの

それがこちらです。
歌詞全文は、念のためこの記事下部に掲載していますが、歌詞はできあがった作品の一部、あるいは経過点にすぎません。
「海」と「喪失感」からはじまったちいさなイメージがどう育っていったのか。みんなでどういうふうに育てたのか。
ひとつの映像作品として、全体をお楽しみいただけましたら幸いです。(歌詞は映像内でも確認できます)


今回の作品にかかわってくださった、すべてのかたに感謝しています。
ほんとうにありがとうございました。

《歌詞全文》

海のあわい音のなかで この目 とじてしまおう
声は 夜は 日々をこえて 雲をぬけてむこうへ

なみだはいつか うたかたになり
空のほうへと たちのぼってゆく
ゆらぐ波間に ひたした肌は
砂のあいまに とけこんでゆく

あなたの声のつかのま そっと
ふるえた先に消えてく音も
重なる波の そのつらなりに
ぜんぶ 忘れてしまいそうです

かなしさ このままとおくへ さしだして
この夜の あかりに なるように

いつか響いたその声を
オリオンたちは聴くのでしょう
夜空をめぐる足音を
なみだの泡が照らすでしょう
こぼれる音色を ゆらめかせ
よるのしるべは 透きとおってゆく

消えてくのも 忘れるのも 泡のようにうかんで
どうか どうか 空でゆれて いつか 夜を織るように
声も 波も 影も いま 天に耀う星のように
どうか


✴︎


久保田さん側から書いてくださった歌詞作成に関する記事はこちらです。掛け合い部分の地獄の母音合わせ(笑)についてもふれてくださいました。
久保田さん、あらためて、ほんとうにありがとうございました!


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