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暗い室内の絵画で、心を落ち着けられる「ハマスホイとデンマーク絵画」展

2008年に国立西洋美術館で開催されていたハマスホイ展(当時はハンマースホイと表記されていた)が12年ぶりに東京都美術館で開催されということで観に行く。

タイトルが「ハマスホイとデンマーク絵画」というだけあって、ハマスホイ以外のデンマーク黄金期(1800年~)の絵画が半分以上を占めていた。これらの作品は画家にとって身近な人物の肖像画や自然溢れる風景画となっている。また、デンマークでバルト海と北海の間にある最北端の漁師町スケーインの絵画(スケーイン派と呼ぶらしい)も多数あり、力強い漁師が浜辺で舟を押している様子や、家族との日常風景が描かれている作品が多い。
作風としては影と光の対比の綺麗な絵画が多く、身近なモチーフを明るい色調で描かれているために素朴だが多幸感に包まれている作品が多い。漁師町であるせいか19世紀デンマークの家族が描かれているにもかかわらず、どことなく昭和の風景が残っている日本の田舎町と近しい印象があるため不思議と親近感が湧く。

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展示後半にやっとお目当てのハンマスホイ作品が多数展示されているわけだが、他のデンマーク絵画と比較して明らかに絵の印象が暗い。
他作品とハマスホイとの共通点は、室内にいる身近な人を描いた絵画が多いこと以外は無さそうなので、やはりハンマスホイの方が特異なのだということなのだろう。

他のデンマーク絵画はこの絵画展では”日常礼賛”と括られているだけあって、父親がカメラで家族の写真を残しておくように、幸せな瞬間を切り取ったような作品のために分かりやすいのだが、悪く言えばありきたりだ。
対してハマスホイの作品は静謐で内省的でとても美しい。妻のイーダが描かれていることはあるが、大抵の場合背を向けているためにそっけないようにも受け取れるし、何らかのメッセージがあってこちらを向いていないのか、と考えさせられる。

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自分の特に好きなのが展覧会のポスターにも使われていた『背を向けた若い女性のいる室内』

額縁、壁の枠、ピアノが縦横に線が走っているために背景は整い過ぎて無機質なために、手前にいる女性(イーダ)は少し浮き出て見える。だが女性は黒い服を着ているせいで色合いてきには画面に溶け込んでしまいそうな静かな絵となっている。お盆とパンチボウルが描かれているのだが生活感は薄く、暗くシンプルすぎる室内はとてもゆったりとした時間が流れている。

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無人の室内が描かれた作品も多く、外光が差し込んではいるもののやはり無彩色だ。室内で扉だけが主張していることもあるのだが、このような暗い絵画を描いた意図は理解しづらい。だがしかし暗い室内が描かれただけの作品になぜこんなにも心惹かれるのか

これは自分の勝手な解釈でしか無いのだが、ハンマスホイの暗い絵を見ていると何か自分の弱さというか暗い気持ちを見透かされているような気持ちになるという感覚がある。
妬みや恐怖などの自分のネガティブな感情を押し込めるのではなくて、少しづつ向き合ってみたくなるようなそんな優しさがあるのだ。暗いトーンで描かれているために鑑賞者の心を無理やりこじ開けるようなことは一切なく、ただ静かにそこに佇んでいるためにこちらから絵画へ歩み寄らないといけないのだが、そうすると独り部屋の中で自分自身と向き合ってみる時間も大事だということに気付かされるというか、ネガティブな気持ちを許されているような感覚になることが出来るのだ。

絵画を見てそういう気持ちになることは稀なので、やはりわざわざ美術館まで来てみてよかったと思う。

ちなみに「ハマスホイとデンマーク絵画」展は、開場前に到着したのだが、平日ということもあり門の前には100人弱の人が列をなしていた。JR上野駅から歩いて向かったのだが、国立西洋美術館を横目に見るとマルガリータ王女の絵画が大きな看板に使われた「ハプスブルク展」が開催されており、ハマスホイ展の倍以上となる行列が出来ていた。宣伝の仕方もあるだろうが、やはり王家の華やかな絵画の方が人気があるのかもしれない。

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