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東京ミドル期シングルの衝撃(感想)_未婚高齢者の増加を実数で捉える

『東京ミドル期シングルの衝撃』の編集が宮本みち子、大江守之。著者は丸山洋平、松本 奈何、酒井計史で2024年4月に出版されていた本。
「ひとり焼き肉」などのおひとり様向けサービスのワードを聞くにつれ、シングルのミドルが増えているであろうことは想像できたが、本書では日本でシングルがどれほど増加しているのかという具体的な数字が詳らかにされている。
なお、ミドル期は35歳~64歳と定義される。
自分なりに内容整理して咀嚼するために以下、備忘メモと感想などを。

40年間で2.98倍の増加

全国のシングルの総数は1980~2020年の40年間で2.98倍になったとある。

1980年:711万人
2000年:1,291万人
2020年:2,115万人

P45

「2020年:2,115万人」男女の内訳は男1,094万人、女1,021万人。
シングルといっても、未婚や死別または年齢によっても状況が異なるため、詳細に掘り下げられている。
1990年から2020年の変化で、シングル男性の増加分の内訳比率は以下のとおりで、結婚せずに35歳以上となった男性がいかに増えているかが分かる。

未婚・ミドル期:40.9%
未婚・高齢期:14.3%
死別・高齢期:11.4%
離別・ミドル期:10.0%
離別・高齢期:10.0%

P48

さらに、1990年から2020年の変化で、女性のシングル増加分の内訳比率は以下のとおり。

死別・高齢期:36.6%
未婚・ミドル期:19.4%
未婚・若年期:16.8%
離別・高齢期:10.3%

P48

女性で「死別・高齢期」の比率が高いのは、男女の平均寿命及び高齢化が原因と思われるが、女性でも「未婚・ミドル期」が増えていることから、やはり未婚化が進んでいることが分かる。

本書では触れられていないが、男性の場合は年収が低いほど未婚率が高いという記事を目にしたことがある。未婚・ミドルの中には結婚したかったけど、低年収を理由に仕方なくシングルを選択した人も含むと思われ、だとすれば、これは個人の責任として片付けられない問題と言える。

転入数は増えても、出生数は少ないブラックホール自治体

さらに、本書では人口移動と家族形成行動の関係についての既往研究についても触れられている。

①東京圏への転入者と非東京圏への転入者の結婚出生力は、非東京圏の非移動者や圏内移動者よりも低い
②転入超過となる東京圏の結婚出生力は人口移動によってほとんど変化しないが、その一方で転出超過となる非東京圏の結婚出生力は上昇する

P80

文言がすんなり入ってこなかったから言い方を変える。
地方から東京圏への人口流入は増える一方だが、東京圏にやってきた人たちは地方にいる人たちよりも子どもを産まない傾向にあるということで、つまり東京圏の人口は転入によって増えるが、地方の人口が減っているため日本全体では人口減少している。

余談だが、2024年4月には「人口戦略会議」が公表したデータで、2050年までに20代から30代の女性が半減する自治体で「最終的には消滅する可能性がある」とした分析を発表しており、合わせて「ブラックホール自治体」なるワードもセットでニュースになっていた。

さらに、本書では東京圏外出身女性に離別が多いことから、東京圏に来た女性が、地元へ戻ろうとしない理由についても推察している。

地方圏は東京圏と比較して相対的に伝統的規範意識の強い地域であり、地方圏出身者はそのような場で定位家族期を過ごしています。そうした規範の中には男尊女卑や過度な性別役割分業といった、女性にとっての負の要素もあります。

P93

地方に住まう人たちのマインドがアップデートされず、前時代的に凝り固まった常識やモラルが女性の生きづらさを生んでいると思われ根が深い。
一定の年齢に達した女性が結婚せずに働いていると、「なぜ結婚しないのか?」などと聞かれるのだろうが、東京圏だったらそんな質問はされないだろう。

結婚したいという願いを否定してはいけない

ではシングルが増えることはどう不味いことなのか。
私個人は個人の自由や意志を尊重して、子どもを産むのも産まないのも個人の選択に委ねたらよいと考える。
本書では触れられないが識字率の高い国では出生率が下がるというデータもあるから、未婚率がある程度増えるのは現象として仕方の無いことのようにも思える。

だけれども結婚や出産を望んでいるのに、若い人たちの年収が低かったり地方ならではの慣習が原因によって結婚しない、または出産を望めないのなら大きな問題がある。
明石市のように人口増加している事例もあり、地方であっても可能性はある。日本に住まうからには他人事ではいられないのだから、個人、地域、国単位で、未婚率の増加とそれに伴う少子化について議論を尽くすべきだと思う。

高齢化したらコミュニティへ属してもらう

本書ではこの先増加する高齢シングルの対策として、高齢シングルがケアする側になることでコミュニティへ属することを提案している。

男性シングルの場合、年老いたら行政サービスの利用するという回答が多かった。つまりミドル期のシングルはやがて多くの「役割のない個人」となり、2024年現在でさえ不足しているケアする側の人材がこの先圧倒的に不足することになる。
だから高齢シングルの人々がケアする役割を担うことでコミュニティにも属し、孤立も防げるということ。

人間は誰かに必要とされていないと、生きがいを見出しづらい。だから、なんらかのコミュニティに属して社会的に役立つことで誰かに感謝されるのはとても良いことだし、実現したら孤立化とケア不足の両方が解消される素晴らしい案だと思う。

しかし自分も町内会などに参加した際に、近所の高齢者を見てきたがこれもなかなか厳しいように思われる。
特に男性の場合、彼らの多くはとてもプライドが高いから福祉業務のように、キツくて汚いケアの仕事をやるように思えないのだ。
ケアされる側にも問題があって、「やって貰って当たり前」という態度を取る高齢者もたくさんいて、これではケアする側もやり甲斐を見出しづらい。

だから本書に書かれているような厳しい現実を社会にもっと周知して、これから高齢になる人々の意識を徐々に変えていかないと難しいと思う。

恋愛のみを結婚のきっかけにしない

これは私個人の考えとなるが結婚する理由を、恋愛の延長にするのではなく将来互いに助け合うパートナーを選ぶという考え方も必要と考える。

なにしろ結婚して何年か一緒に過ごしたら、多くの人の出会った頃の恋愛感情は変化する。それでも離婚しない人たちがいるのにはそれなりのメリットもあるからとも言える。
本書でもシングルが高齢者になった際の病気や怪我の不安について言及されていたが、体調が優れない時に助け合うパートナーとして結婚制度を利用するくらいでも良いと思うのだ。
どちらかが働けなくなったら、代わりに働いて収入を補ったりすることもできるし、配偶者ならどちらかが先に亡くなったら相続税が非課税にもなる。
だから結婚に必要なのは恋愛感情だけでなく、運命を共にする信頼関係と捉えるくらいでも良いのはと思う。
誤解の無いように言っておくが、恋愛結婚を否定しているのではなく、恋愛出来ないことを理由に結婚しないのはどうかということを言いたい。


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