見出し画像

最終決戦 トランプvs民主党 - アメリカ大統領選撤退後も鍵を握るサンダース(感想)_弱者の支持を集める稀有な存在

本書は11/3に行われる予定のアメリカ大統領選挙をみすえて、7/8に出版された本だ。前半はドナルド・トランプの支持基盤や政策方針と民主党候補ジョー・バイデンの経歴の解説だが、後半は4月上旬に民主党の指名候補から離脱したバーニー・サンダースの生い立ちから、サンダースの提起してきた政策や影響下にある人々が紹介されている。
表紙にも「超大国の未来を左右するのはすでに選挙戦を撤退したサンダースだ!!」と言い切っているとおり、大統領選挙からは離脱したがサンダースの問題提起してきた政策が選挙結果を左右するということが語られている。

すでに大統領選挙まで1ヶ月を切っており旬な話題でもあるのだが、格差問題についてテーマを絞って感想などを。(本当は外交や環境問題についても、トランプ政権と異なるサンダースの主張が書かれているのだが長くなるので割愛する)

バーニー・サンダースという人が支持される背景

よく言われることたがアメリカでは富の集中が進んでいて、富の大部分が上位1%の人々に集中しており、その差は現在も拡大し続けている。

今年2月頃から広がり始めた新型コロナウイルスの感染の拡大が、サンダースが提起した格差の問題を赤裸々に浮き彫りにした。ウイルスに感染し、病み、死んでいく割合は、貧しいマイノリティの間で圧倒的に高い。肌の色が濃ければ、それだけで感染と死の確率が高いのである。
<中略>
 アメリカの医療保険制度は、危機に際して極めて脆弱である。サンダースが糾弾して止まないアメリカ社会で拡大する格差を、新型コロナウイルスの問題が、えぐりだした。

アメリカでは国民全員に医療保険が提供されていないため、低所得の人が大きな病気をすると破産することになる。そんな状況がコロナウイルスの感染拡大によってさらに悪化した。
総人口の8%に当たる3000万人が医療保険に加入出来ず、民間の保険に入っている中間層であっても、高額な治療費によって破産するケースが後を絶たない。

しかし、富裕層には有利なように社会的な仕組みが出来上がってしまっている。例えばリーマン・ショックの原因となる投機的な仕組みを作った金融機関は公的資金で救ったし、大富豪や企業は政治家に無制限に献金することができる。この状況を放置すれば今後も格差の拡大が想像できる。

サンダースの格差拡大への対策

富裕層を優遇し貧しい人々には厳しい仕組みに対して、サンダースはどのようなことを提言していたのかというと、国民全員への保険制度の提供、大富豪や大企業への課税強化となる。
サンダースは自身を「民主社会主義者」と評していているだけあって、北欧型の高福祉・高負担に近い社会制度を目指しているようだ。そのため、これらの政策は保守層からは社会主義的と批判を受けている。

そのため、サンダースの支持層は主に18~29歳の若者や、アメリカ総人口の18%(6000万人)を占めるヒスパニックと呼ばれるラテン系アメリカ人からとなる。ヒスパニックの人々は教育水準が低いため、サービス業など多くの人と接することの多い仕事に就労せざるをえない。そのためコロナウイルス感染リスクが高い人々だ。

トランプは前回の選挙で「労働者の雇用を守る」と言いブルーカラーの支持を得たが、果たして今回の選挙はどうだろうか。
また、社会主義というワードにアレルギー反応のあるアメリカが突然変わるとは思えない。しかし、もしブルーカラーの票がバイデン候補に流れたとしたら、長年続いてきた自由主義の歪みが多くの人々の我慢の限界まで来ているということになる。

横暴で直情的に見えるが、賢い戦い方をするトランプ

トランプにはアメリカ人口の4人に1人といわれるキリスト教福音派のうち、白人6000万人(キリスト教福音派の3/4)の票田がある。しかもこの6000万人の投票率は80%と高い(平均的な投票率は60%以下で、盛り上がったオバマの時ですら60%程度)。
トランプはこの6000万人に支持される政策としてイスラエルの大使館移動、エネルギー政策、イランへの締め付けを行っている。つまり、前回同様に全体の投票率が低いままならば、この6000万人の支持によって再選の可能性が多いにあるということだ。

10/16の時点で全体の支持率ではバイデンの方が20pt弱上回っているが、そうなると前回トランプへ投票したブルーカラーの人々の票がどちらに流れるかによって結果が多く変わってくるのかもしれない。そして、そのブルーカラーの人々に支持のあるのが離脱したサンダースの政策となり、本書では後半に、なぜサンダースが庶民の支持を集めるようになったかや、サンダースの影響を受けた若手の紹介がされている。

最終決戦 トランプvs民主党 - アメリカ大統領選撤退後も鍵を握るサンダース

------------------------------
本書を読んでもバイデンや民主党の魅力は伝わってこない。そももそも触れられていないからなのだが、民主党の政策には人種差別にしろ気候変動にしろ実利が感じられず庶民感覚の生活が良くなるという将来像が描けないとことも関係していると思われる。しかも、発言内容の偏りはともかくとしてしかもトランプの言っていることはとてもシンプルで明快なので支持層にメッセージが届きやすい。

また、投票率が低いと選挙で与党に有利というのは日本でも同様の状況で、これは「政治に不信感があるのは当たり前のこと」というのが前提になっているからだ。
いずれにせよ若者やブルーカラーを救う象徴的な存在としてサンダースのような人が登場し、支持を集めるアメリカはやっぱり懐が深い。

著者のことを知ったのは、2019年3/3にNHKラジオ第2の文化講演会で放送されていた「トランプ政権と中東」を聴いたことがきっかけだ。
この放送はサウジのサルマン皇太子の負の側面や、トランプ政権を支持するキリスト教福音派についての解説がとても理解しやすく興味を持てた。
YouTubeに放送されたものがアップされていたのでリンクを貼っておく。

中東情勢については歴史への理解がないと、各国間の関係性がコロコロ変わるので本でも良いからこういうのがもっとたくさんあると有り難いなと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?