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肥満と飢餓(感想:2)_食品メーカーが利益を追求することによる、消費者の不利益

『肥満と飢餓』の著者はラジ・パテル、訳は佐久間智子で2010年9月に出版されてい本だが、内容的には2023年現在でも通じるところがある。
以下、備忘メモと感想などの続き。
長くなったので、感想の前半部分はこちらに。

貧しい人たちの肥満を自己責任とするのか

貧しい人々の肥満を自己抑制が不十分だからとする主張は、社会を不安にさせているとある。

富裕層は新鮮で栄養価が高く塩分と脂肪分の少ない食べ物を得やすい環境に住んでいる。米国全体でみると貧困地域は、富裕地域に比べてスーパーマーケットの数が四分の一しかないうえに、酒類を提供する飲食店が三倍もある。
ファーストフードの店舗は、貧困地区や有色人種の居住地域に集中している。

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スーパーマーケットやファーストフードは売上見込みのある環境に重点的に出店している。その結果、富裕層または貧困層それぞれに出店数の偏りが出ている。
つまり貧困層は経済的な理由でファーストフードなどの肥満リスクの高い食事を選択せざるを得ない環境にあるとも言える。
さらに、住宅市場が上がることで通勤時間の長いところへ住まざるを得ないというのも指摘されていた。
近くにスーパーマーケットがあったところで、通勤時間が増えたら料理をする時間が無くなり結局はファーストフードなど出来合いのもので食事を済まさなくてはならない。そういう状況は、都心近郊に住まう日本人にとっても課題は同じだ。残業が続いていたら、満員電車で時間と削気を削がれて料理をしようなどという気分にならない。

それだけではない。
医学誌の論文に掲載されたとされる、肥満とその合併症による医療コストは増大しても「結果として社会保障(年金)コストを節約しているという」というのがさらに最悪のシナリオだ。

若いうちは肥満になったとしても無理がきいて働けるから国は徴税できる。そのような労働者は、働けない世代になったら肥満による合併症によって早死するリスクが高まる。
税金を収めなくなったら、とっとと死んでもらうことで年金を払わなくて済むのだから、為政者からしたらこんな都合の良いことはない。
若い人たちには今現在が良かったとしても、歳をとってから後悔しないためにも肥満のリスクについてもっと周知すべきだ。

日本の場合は事情が異なり、延命治療に保険を適用されるという別の問題があったりするので、死にたくても死ねない状況があったりする。
しかし、肥満によるリスクはどこの誰でも同じくある。寝たきりになってまで長生きしたいとは思わないが、どうせ死ぬまでは生きなくてはならないのだから、健康な状態を長続きさせたい。

メーカーによるマッチポンプ

太りやすい食品を提供するメーカーと、ダイエット産業の組み合わせはマッチポンプのようだ。

私たちに食べ物を供給することで利益を得ているのは誰なのか?そして結果としての体重増加に対処することで利益を得ているのは誰なのか?
スイスのチョコレート・メーカーであるネスレ社は、二〇〇六年、痩せる食品のメーカーであるジェニー・クレイグ社を買収した。同様のことは以前にもあった。ベンとジェリーのアイスクリームの製造元であるユニリーバ社は、二〇〇〇年、スリムファスト社を買収している。

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ポジティブに捉えたら、自社の製品によって肥満人口を増やしているから、人々を肥満から救うために売上の比率をダイエット食品にシフトするために買収したとも考えられる。
だったらそもそも太りやすい商品の販売をやめるべきだが、そんな話しは聞いたことが無い。

つまりこういうことだ。
脂質などの多い太りやすい食品についてはそういう不都合な情報を大っぴらにせずTVやWeb広告によってポジティブな印象を消費者へ植え付ける。そうして売上を最大化しておきながら、肥満の人が増えたらダイエット食品も売りつけられるという2段構えなのだとしたら恐ろしい。

米政府の都合によるパン食の普及

訳者による日本語版解説にも、日本ならではの情報が補足されており興味深い。
大戦後の食糧難を乗り越えるために、米政府による食糧援助を受けいれたことで、学校給食にパンと脱脂粉乳を供給されたが、1950年代に入ると米国の余剰小麦の海外市場を切り開くための手段になった。
その結果として日本でもパン食が普及したが、同時に食料自給率も低下しており、石油価格が吊り上がることによる輸送コスト増の影響で食品の物価上昇が最近でも問題になっている。

パンと米のどちらが良いという話しがしたいのではなくて、国や企業の利益最大化のために印象操作されて「食べるものを選ばされる」のではなく、情報を正しく理解した上で自ら食べるものを選択したいと思うのだ。

少し横道に逸れる。
上記したような米政府の都合によるパンの普及をいわゆる「陰謀論」的に伝えて消費者の信用を得た上で、高額な健康食品を売りつけてくる業者もいたりするからたちが悪い。
しかも、そのような高額な健康食品を購入する人は「あなたの幸せの為に教えてあげてるのよ」と周囲にも勧めてくるのだが、それは少し宗教の布教にも似た強引さもあって、勧められるとげんなりする。
だいたいそのような商品はネットで検索すると似たような代替商品があったりして、そもそも高すぎるように思うのだ。

そうしてそういう健康食品の販促物は、必要以上に恐怖を煽ってくるような陰謀論的な内容だったりするのも誠実さを感じられない。
結局それら高額な健康食品メーカーも利益を追求しているのだから当然なのだが、役立つ情報と商品がセットになっていたら、気をつけないとならない。


他にも本書では水資源や農民の自殺数の多さなども指摘されていたが、特に気になったことをピックアップしてみた。

長くなってきたので、著者の提案する解決策についてはさらに続きで。



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