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肥満と飢餓(感想:1)_巨大企業がボトルネックになって、生産者と消費者双方が不幸になること

『肥満と飢餓』の著者はラジ・パテル、訳は佐久間智子で2010年9月に出版されてい本だが、内容的には2023年現在でも通じるところがある。
要約すると世界のフードシステムが一部の巨大企業よって支配されていて、生産者や消費者の利益よりも、それら企業の利益が優先されているおかげで多くの人々が不利益を被っていることについて紹介されている。

ページボリュームが400ページ以上もあって、大量の情報が詰めこまれていたため、自分なりに整理して咀嚼するために以下、備忘メモと感想などを。

競合を買収することでシェアを拡大する企業

序章ではコーヒ豆を例にして、一部の巨大企業によって市場が支配されていることが解説されており、以降これによる弊害が語られる。

世界には、コーヒーの生産者と消費者は星の数ほど存在し、加工工場の数も多いが、輸出業者の数は少なく、これが、コーヒーの流通システムのボトルネックとなっている。
同様のことは他の食品についても言える。生産地と食卓を結んでいる流通システムのある段階において、ひと握りの企業に力が集中しているのである。

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仕入れや卸業者の数が減ると生産者の立場からすると売り先に選択の余地が無くなるから、市場を独占している巨大企業にとって都合の良いように買取価格をコントロールされてしまう。そうすると生産者は生活するのに充分な利益を得られないからインドなど様々な国の農家では貧困が理由による自殺者が増えているという。

また、そういう事実が世間に周知されたカウンターとしてフェアトレードがあるも、9章では認証機関に参加している生産者が不足しているから問題解決には不十分で「見せかけだけの社会変革を喧伝する程度のことしかできない」とあった。
そういう意味ではフェアトレード商品を購入すると中間業者にどれほど利益が出るのかや、そもそもその商品を購入されたことでどれだけ生産者の状況が改善しているのかという具体的な数字もセットで欲しいところだが、日本でもセールスプロモーションの道具としか考えられていないのではと思うことがある。

フードシステムが寡占化することによる不利益は消費者にもある。りんごが例に出されていたが、長距離輸送してても見栄えを損なわない、ワックスの乗りがよくて農薬の効きが良い品種が増えることで、消費者にとっての嗜好や栄養素は二の次とされている。

では一部の企業による寡占を防ぐために、競争や独占禁止などの委員会を機能させれば良いのかというと、これらの企業は政府機関にスケール・メリットを理由に取引の正当化を訴える。なんなら便宜をはかった役人には企業内で閑職をあてがっていたりするからたちが悪い。
政府に献金もするし、世界貿易機関(WTO)にもはたらきかけているというのだから、ルールも自分たちに有利になるようにつくっているのだ。

肥満に影響のあるHFCS

米国では砂糖よりも安価な代替物質としてトウモロコシを原料としたHFCS(ぶどう糖加糖液糖)が炭酸飲料、シリアル、ジャムなど様々な食品に使用されている。
トウモロコシの加工業者は、海外で生産された安価な砂糖の輸入量を制限するようにロビイングを展開し莫大な利益を得て、トウモロコシを生産するにあたって国益だからと補助金を使って生産量を増やしている。

しかしHFCSは安価で砂糖よりも甘みを強く感じるが、摂り続けることで肥満や糖尿病の原因となりやすい。しかもブドウ糖と比較して満腹感を得にくいため、食べ過ぎてしまう可能性も高くなる。

どんな商品でもそうだが、同じ商品の広告を繰り返し目にしていると、その商品のことを「知っているような」錯覚に陥ってしまう。
HFCSは天然甘味料ともよばれるから体に害が無さそうな印象だが、店頭で繰り返し目にした商品を目にすると「知っているから安心」と、つい買い物カゴへ入れたくなってしまうが、リスクについても自ら調べておかないと、メーカーはこのような情報を積極的に提供してくれない。

食パンを普及するための印象操作

英国の製粉会社による、食パンと全粒粉パンの比較による印象操作も酷い。全粒粉パンの印象として、食感がぽそぽそしていて保存に向かずに高価といった感じだから普段から購入することは無い。
なにより全粒粉よりも食パンに慣れ親しんでいるのだが、改めて製粉会社の都合を知るとなかなかショック。

孤児たちは食パンを与えられるグループと全粒粉パンが与えられるグループの二つに分けられ、パン以外は同じ食事が与えられた。
科学実験としては失敗だったのは、食事の質が高く、栄養価に優れ、バラエティに富んでいたために、二つのグループの間に成長の差が見られなかった
しかし政治的には重要な結論を発表したのだった。
それは「白パンを与えたグループも、全粒粉パンを与えたグループも、米国の子どもたちよりも速く背が伸び、速く体重が増加した」という結論だった。
この血色の良い孤児たちを根拠に、白パンは全粒粉パンと同程度に良い食品であるという公式宣言が出され、製粉会社がより儲けの大きい食パンを生産することが、国民健康政策として認められることになった。

page311から一部抜粋

つまり、すべての孤児に対してパン食の違いによる影響が出ないほどに他の食材に栄養が多く含まれていたのにどちらも違いは無いと言っているのだから、この実験結果はもはや詐欺に近い。

製粉会社がなぜ全粒粉パンを売りたく無いのかというと、パンの原料から様々な栄養を取り除くことで、栄養補助食品や家畜の飼料をつくれる。しかも食パンの方が保存に適しているから流通させやすいというのは、メーカー側の都合でしかないということを理解しておく必要がある。

少し横道に逸れる。
日本だと数年前に高級食パンのブームがあった。しっとりしてふわふわの食パンが人気だったが、理由は脂質や糖質が多く含まれていたからだった。
普通の食パンに比較して肥満になりやすいということだが、マスコミはブームとして取り上げる際にそういう情報を一緒に周知することは無い。
既存の食品が劇的に美味しくなっていたら、自ら理由を調べるかなんらかのトレードオフがあるということを想定して身構えておくしか身を守る術はない。


気になることは他にもあるのだが
少し長くなってきたので、続きは次回で。

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