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映画 / アニメの感想

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観賞した映画 / アニメの感想まとめ
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不思議惑星キン・ザ・ザ(映画感想)_とぼけた笑いをさそう怪作

『不思議惑星キン・ザ・ザ』は1986年にソビエト連邦で公開されたSFコメディの映画で、監督はゲオルギー・ダネリヤ。 2001年にユーロススペースで鑑賞した際、入場時に「クー」とやればいくらか割引されたはず。なお、2013年には『クー! キン・ザ・ザ』として同監督がアニメ化もているがそちらは未視聴。 以下、ネタバレを含む感想などを。 いきなり異星に場面転換80年代冬のモスクワ、妻・子どもと3人で住まうマシコフは、妻からパンとマカロニを買って来るよう頼まれる。 外に出ると、ジ

TOVE(映画感想)_自由な精神と優しい目線に対するひとつの解釈

『TOVE』は2021年日本公開の映画で、監督はザイダ・バリルート。 「ムーミン」の原作者トーベ・ヤンソンの30~40代前半を中心にしたドラマで、映画単体の印象としては薄いというのが正直なところ。 どこまで現実を再現しているのか不明だがトーベ・ヤンソンの作品に照らし合わせて鑑賞すると趣がある。 以下、ネタバレを含む感想などを。 厳格な父によるプレッシャー第二次世界大戦後のフィンランド・ヘルシンキ。風刺画や挿絵などのトーベの作品を芸術と認めず、創作に干渉する彫刻家の父から離れ

ブロークン・フラワーズ(映画感想)_いくつも存在した可能性を選択した結果

『ブロークン・フラワーズ』は2006年日本公開の映画で、監督はジム・ジャームッシュ。 かつてはドン・ファンのように女性にモテた熟年の男性(ビル・マーレイ)が、昔付き合っていた女性たちに会いにいく過程に笑いと人生の悲しみをがあるという映画。地味な映画だがなんともいえない魅力がある。 以下、ネタバレを含む感想などを。 付き合っていた女性に会うための長距離移動コンピューター関連の仕事でボロ儲けしたドン・ジョンストンは中年よりも少し老いた熟年の男性。かつてはドン・ファンのように複数

バービー(映画感想)_自らのアイデンティティーについて考える

『バービー』は2023年8月に日本公開のアメリカ映画で、監督はグレタ・ガーウィグ。 皮肉の効いた笑いの要素と、現実離れしたポップなバービーランドがお気楽な印象だが、性差をきっかけにアイデンティティーについて考えさせられるから内容は重たい。 以下、ネタバレを含む感想などを。 男どものありがちな行動パターンを皮肉るバービーランドでは様々な人種・体型・職業のバービーたちが踊ったりしながら、まるで時間の流れの止まったかのような世界で日々最高な日常を繰り返しながら過ごしている。 しか

Summer of 85(感想)_少年たちの痛々しい恋愛

『Summer of 85』は2021年8月に日本公開のフランス映画で、監督はフランソワ・オゾン、エイダン・チェンバーズによる「おれの墓で踊れ」という原作の映画化となるがこれは未読。 キラキラした映像と切ないストーリーは異性愛者でも共感できるところがあると思う。主演のフェリックス・ルフェーヴルは角度によって、若い頃のデイモン・アルバーンを思い起こさせる美少年。 以下、ネタバレを含む感想を。 互いを激しく求め合う二人1985年夏のフランス、ノルマンディーの海辺。16歳のシャイ

アステロイド・シティ(感想)_大らかで胡散臭いけど、幸せな気持ちになれる映画

『アステロイド・シティ』は2023年9月日本公開の映画で、監督はウェス・アンダーソン。 宇宙人、親しい人の死、生きる意味など、夢と希望と悲しみが計算された数々の笑いとごちゃまぜになっている混沌とした映画だった。 以下、ネタバレを含む感想などを。 遊び心満載な小ネタたち1955年、アメリカ南西部にある人口87人という砂漠の町アステロイド・シティの建物は食堂、ガソリンスタンド、モーテルくらいしかない。だけれどもここは紀元前に隕石が落下したとされ、その時に出来たクレーターが観光名

女と男の観覧車(感想)_今の自分とは違う自分になりたい中年女

『女と男の観覧車』は2018年日本公開のアメリカ映画で、監督はウディ・アレン。 うらぶれた中年女のストーリーは、後味の悪さはあるものの「現実もこんなものだろうな」という、諦めにも似た納得感もあるのは確か。 以下、ネタバレを含む感想などを。 ここではないどこかに憧れる女1950年代の夏、もうすぐ40歳になるジニー(ケイト・ウィンスレット)はコニーアイランドでウェイトレスをしており、自分の連れ子のリッキー、それと再婚相手のハンプティーの3人で慎ましく暮らしていたが、こっそりライ

王立宇宙軍 オネアミスの翼(感想)_ロケットを戦争の道具として扱うこと

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』は1987年3月に劇場公開したアニメで監督は山賀博之。 2022年には4Kリマスター版でのリバイバル上映していたりと、根強いファンがいると思われる。アニメにしては堅苦しいテーマだし、落ち着いた雰囲気の森本レオの声には何回見直しても違和感を感じるけど、細部まで描き込まれた画面は見どころが多くて印象深い作品。 以下、ネタバレを含む感想となどを。 戦わない宇宙軍架空の惑星の赤道に近くにあるオネアミス王国で、王立宇宙軍に所属する青年士官シロツグ・ラーダ

The Last Starfighter(スター・ファイター)(感想)_詐欺師にのせられて宇宙を救うSF映画

『The Last Starfighter(スター・ファイター)』は1985年日本公開のアメリカ映画で、監督はニック・キャッスル。 宇宙を舞台にしたSF作品で、CGを本格的に導入した初期の映画というだけあって、仕上がりにはチープを感じさせる。しかしやり過ぎと感じるほどドラマチックな展開には何ともいえない魅力がある。 なお、墜落事故が多発したとされる戦闘機の「F-104 スターファイター」とは無関係。 以下、ネタバレを含む感想などを。 寂れたトレーラーパークの青年アレックス・

ブルックリン(感想)_苦労はするが後悔の少なそうな未来への予感

『ブルックリン』は2002年日本公開のアメリカ映画で、監督はジョン・クローリーで、脚本はニック・ホーンビィ。 1950年代前半のアメリカ、故郷の家族と別れてでも新天地で暮らすことの苦労と喜びについて考えさせてくれる。 以下、ネタバレを含む感想などを。 大事なのは出逢うタイミング1952年頃のアイルランドの田舎町、エイリシュ・レイシー(シアーシャ・ローナン)は姉と母の3人で住まう。エイリシュは聡明な女性だったが、街には仕事が少ないために仕方なく性悪な女主人ケリーのいる雑貨店で

マルホランド・ドライブ(感想)_理解不能なことの不安に勝る好奇心

『マルホランド・ドライブ』は2002年日本公開のアメリカ映画で、監督/脚本はデヴィッド・リンチ。 物語の辻褄にこだわるとストレスを感じるが、予測不可能で得体のしれない不安を感じさせる映像が断片的につなぎ合わされ、怖いもの見たさで何度も見直してしたくなる映画。 以下、ネタバレを含む感想などを。 ナオミ・ワッツの演技の幅車の事故をきっかけに記憶を失い、見ず知らずの他人の家へ勝手に転がり込むリタ/カミーラ・ローズと、そのリタを匿って記憶を取り戻すことへ協力するベティ/ダイアン・セ

20センチュリー・ウーマン(感想)_言わなくて良いことまで口に出してしまう疑似家族

『20センチュリー・ウーマン』は2017年日本公開のアメリカ映画で、監督/脚本はマイク・ミルズ。 母親と同居人たちとのコミュニケーションによって17歳の少年が成長する物語を、西海岸特有の大らかな空気でパッケージングしたような映画。 以下、ネタバレを含む感想などを。 強気な性格の母と思春期の息子1979年のカリフォルニア州サンタバーバラ。55歳のドロシア(アネット・ベニング )はシングルマザーで抵当流れの広い家を買い取って、15歳の息子ジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)

ムーンライズ・キングダム(感想)_駆け落ちする12歳と大人たちの対比

『ムーンライズ・キングダム』は2013年日本公開の映画で、監督はウェス・アンダーソン。 過去作では尊大な父とその家族についてがテーマとなっていたが、本作は12歳の少年少女の青臭い駆け落ち劇。いつものウェス・アンダーソン作品らしいシンメトリーな画面構成と、統一感のある色彩がつくりものっぽさを強調させる。 以下、ネタバレを含む感想などを。 集団に馴染めない少年と少女舞台は1965年9月5日のニューペンザンス島。長さ26km程度の小さな島に人は住み着いてはいるものの道路が舗装され

ダージリン急行(感想)_互いを信用していない兄弟が絆を深める物語

『ダージリン急行』は2008年日本公開の映画で、監督はウェス・アンダーソン。 3兄弟が主に列車でインドを移動しながら、心の旅をするロードムービーとなっており、ウェス・アンダーソン監督らしいユーモアや、家族の愛が語られるストーリーとなっている。 以下、ネタバレを含む感想を。 お互いを信用していない兄弟物語は父親の死後1年間、会うことの無かったフランシス(長男)、ピーター(次男)、ジャック(三男)のホイットマン兄弟が、フランシスの呼びかけによってインドでダージリン急行に乗って絆