[植栽デザイン] 単植と混植
皆さんはどちらがお好きですか?
あたり一面のチューリップ、ヒマワリ、シバザクラ、ネモフィラなどお花の絨毯が広がる景色?それとも色、形、大きさなど特徴の異なるお花が混ざり合い、複雑に存在しながらも互いに絶妙な調和を見せる景色?
前者を「単植」、後者を「混植」と呼び、植栽デザインの際、その景色や特徴を大きく分ける考え方(手法)です。
どちらも好き!という方もいるでしょう。今回はそんな「単植」と「混植」について、筆者の見解も含めながらお話します。
~単植について~
※「単植」について筆者は、1年草または1年草扱いの花を主体とした植え方、という定義で話を進めていきます。
「単植」のいいところは、なんといっても見栄えがすることです。あたり一面のチューリップ畑やヒマワリ畑、シバザクラやネモフィラの色とりどりなお花の絨毯など、その季節を代表するお花が一斉に咲いている姿は見ごたえがあります。
また、開花に合わせて○○まつりなどイベントを開催したり、有名なスポットとして認識してもらうなど、集客力アップにつながります。
こうして利用されるお花は認知度が高く、苗や球根は頻繁に利用されることから大量生産され、1つ1つの単価は安くなります。植えるときには、複数の色がある場合、配色デザインだけで済むし、1色の場合、場所の選定のみで済むので、デザインがしやすい特徴があります。
管理面についても、「このお花にはこの作業」「管理範囲全ての作業」といった一括的な管理ができることが特徴で、作業を単純化できるため、スタッフやボランティアへの指示、教育が容易になります。
このような点が、多くの人が惹かれ、手軽で一般的な花壇づくりとしての認識が高い「単植」という手法です。
単植のメリットを以下にまとめます。
見栄えがいい、見ごたえがある。景色のインパクトがある。
集客力がある。
デザインがしやすい。
単価が安い。
一括的な管理ができる。
一方、デメリットもあります。
単植の花壇では、最初に見た時のインパクトが強いため、うわ~すごい!となるのですが、他に変化はありませんから、そこが感動のピークになります。見栄えのいいところで写真だけ撮り終えてしまえば、あとは同じ景色。自然が織りなす「風景」としてではなく、空間に色がついただけの「構造物」のように見えてしまいます。
植物の魅力を伝えたい筆者から見ると、「構造物」的な捉え方を少し寂しく感じてしまいます。
また、メリットで挙げた一括的な管理も、裏を返せばデメリットになります。規模にもよりますが、特に労力や経済面についての負担が大きく感じられます。主に1年草を使用する「単植」では、年1回もしくは年2回(その花壇の計画による)植え替えをしなければなりません。植え替えは、現在植えてある花をすべて抜き、肥料や土壌改良剤など次に植える花のために土の準備をし、新たに購入した苗を植えることです。
チューリップについては球根なので、植えっぱなしでいいのでは?という疑問もあると思いますが、実際チューリップを植えっぱなしのまま万全の状態で毎年きれいに咲かせるには難しく、手間もコストもかかります。であれば新しい球根のほうがきれいに揃って咲くので、特に大規模なチューリップ畑の場合、1年草扱いで毎年球根を新しく植え替えている場合が多いです。
規模によってかけられる予算や労力が違いますので、管理面のデメリットは大小あります。しかし規模の大小にかかわらず、せっかくお金をかけて買った苗をすべて捨てて、またお金をかけて買う。これを繰り返す消費的な面を持つ手法であるということが、デメリットと言えます。
生育面では、「単植」をすることで連作障害が起きやすくなります。同じ植物を同じ場所に連続して植えると、土の中の養分の偏りや、土壌微生物(主に菌類)の偏りなどで生育が阻害される現象です。また、病害虫が発生した時、病害虫にとっては同じ対象がたくさんあることになり、一気に蔓延しやすくなります。
「単植」だと求める養分や水分、環境がみな同じなので、土の中の養水分や土壌微生物、病害虫がある特定のものに偏り、生物多様性のバランスが悪くなることで、全体的に生育が悪くなるデメリットがあります。
このような点が単植のデメリットです。以下にまとめます。
初見のインパクトがピークで、時間がたつにつれ飽きてしまう。
全面植え替えが必要。
植え替えに伴い、毎回苗や肥料、人手のコストや労力がかかる。
消費的である。
連作障害や病害虫の蔓延など、生育環境のバランスが偏る。
~混植について~
※「混植」については、宿根草や低木、1年草も含めた多種類の植物を用いた植え方、という定義で話を進めます。
「混植」のいいところは、多種多様な植物が織りなすナチュラルな雰囲気、互いを引き立てあい、1つで存在するよりもきれいに見える調和のとれた景色を楽しめることです。
その中には主役となる花とそれを引き立てる脇役、丸い花とがった花、風に揺られキラキラと輝く葉、などが季節ごとに移り変わり、その成長度合いや重なり合いにより同じ景色を見せることのない経年変化の美しさを演出します。
宿根草や低木は1年草に比べ単価はかなり高くなりますが、一度植えれば毎年植え替える必要はありませんし、年を追うごとに株が大きくなり、草取りや水やりの面積が徐々に減るため、長い目で見るとコストは低く、かかる労力も楽になります。さらに増えた株をわければ、購入することなく増やすことができます。
また、宿根草はやせぎみの土で育てることによって力強く育ちます。逆に肥料を与えすぎると軟弱に育つものが多く、植える際は少なめの肥料が適しています。そのため土壌改良にかかるコストも抑えられます。
このように「混植」は継続的な面を持つことがメリットです。
また、様々な種類の植物があることで、それぞれが求める養分や水分、環境が異なり、互いに補い合うことで病害虫に強くなったり、もし発生しても一部分の被害にとどまり、全体的な大発生の被害を抑えられます。何より養水分や土壌微生物の偏りがないため、生物の多様性が保たれ、健全な生育環境を植物たち自身が作り出します。
このような点が「混植」のメリットです。以下にまとめます。
ナチュラルで調和のとれた景色、経年変化の美。
長期的に見てコスト減、管理労力の削減。
継続的である。
健全な生物多様性が保たれる。
「混植」のデメリットもあります。
「混植」はその植物の多様さから、一般的にはあまり知られていない(知名度の低い)植物が多く使われます。すると集客力は低くなり、注目度もあまり高くありません。景色に溶け込んだ知らない花をじっくり楽しむ人は多くないのです。
せっかくの調和のとれた景色や経年変化の美も、その良さを知る人は少なく、大衆の関心が向かない現実があります。
また、多種多様な植物を扱うため、それぞれに適した生育環境への配置やきれいに見せるための配色、高低差、花期の調整など、多くの植物の特性を知り、その特性を生かしたデザインをする必要があり、実行に移すまでのハードルが高くなります。加えて、宿根草は1年草に比べ多くは花期が短く、目立つ色も多くないため、寂しく見えてしまう欠点もあります。
メリットの点で述べた、長期的に見ればコスト減について、裏を返せば単発的には高くつく、ということもデメリットに挙げられます。
宿根草や低木を中心に「混植」をする場合、単価は1年草に比べ約3~10倍ほども高くなります。また、知名度や関心が高くないため、購入のしやすさからみても1年草に比べてハードルは高くなります。
株が増えるからお得、というメリットも、長期的な計画がない場合や小面積の管理の場合、一転して増えて困ったり、手が付けられなくなるというデメリットとなります。
管理面では、多様な植物それぞれに適切な管理方法や時期が違い、ある程度の知識や経験も求められ、その成長度合いや時期に応じた総合的管理が必要になります。株が大きくなったら増やすという株分けの作業も、大きさにもよりますが大変な作業です。混みあってきたものをどう手入れするか、うまく育たなかったものにどう対処するか、といった継続的な管理がとても大切で、それを取りまとめるリーダー(ガーデナー)が必要かつその他スタッフへの継続的な教育が必要だったり、ボランティアでは対応できない内容も出てきます。
このような点が、「混植」のデメリットです。以下にまとめます。
集客力が低い。
デザインが複雑で難しい。
花期が短く、目立たないものが多く寂しく見える。
単価が高い(短期的に見るとコストが高い)。
総合的な管理が必要。
~時代の変化を踏まえたこれからの考え方~
ここまで「単植」と「混植」のメリット、デメリットを見てきました。どちらかが悪く、どちらかが良いということはありません。しかし、時代の変化を踏まえると、課題が見えてきます。
ここでのポイントは、「単植」のデメリットである消費的な面と「混植」のメリットである継続的な面という視点です。
地球環境問題、生物多様性への配慮が求められる現代において、消費的な面を持つ「単植」の手法をメインに考えることは、理想的でしょうか?
答えは No だと私は思います。
持続可能な社会を実現するうえで、消費的な面しか持たない手法と継続的な手法、どちらにシフトしていくか、答えは明らかです。
その集客力の高さや知名度の高さから、「単植」の手法がメインで行われている現状を、変えていく必要があると私は思います。先ほども言ったように、「単植」が悪く「混植」が良いという単純な話ではなく、扱う対象が植物という「生き物」であることを考慮する必要があるし、時代に合った手法に柔軟に対応していく必要があると思うのです。
ではどうすれば良いのか。「単植」オンリーで行っている場合、少しずつでも宿根草を入れるべきです。これだけで「混植」です。宿根草だけでは花が少なくて寂しい箇所や時期に、スポット的に1年草を用いてその寂しさを補う方法が最適です。つまり、宿根草や樹木類、1年草の割合を、規模や予算、労力に応じて変えることで、徐々に消費的な傾向を減らしていくことが重要なのです。
「混植」のデメリットで挙げたそれぞれに適切な管理やデザインの難しさも、少しずつ増やしていけば1回1回の負担は少なく、少しずつ覚えていけば解決できます。スタッフやボランティアの育成にもつながります。
いきなりすべてを廃止したり、シフトしていくのは現実的ではないでしょう。集客力や見た目の問題もあります。その場合は、ある目立つ箇所にのみ「単植」の手法を導入し、他の箇所には徐々に「混植」の手法を導入する、といった手法を混在させる考え方もあります。
と、ここまで「混植」支持の意見を述べましたが、「混植」の手法にもデメリットや課題はあり、簡単にこの問題を解決できるわけではありません。
1年草主体でも、そこからタネをとり毎年育てたり、花の切り取りイベントや球根の掘り取りイベントなどを実施したり、工夫をしているところもあります。
何に重きを置くかはそれぞれ違い、地域性や周辺環境、方針によって変わってくるのは当然です。
いずれにしても、私たちにできるのは、2つの手法のメリット、デメリットを知ったうえでそのデザインを見つめなおし、見えてくる課題にどう対応するか。これからの時代にふさわしい植栽デザインは何なのか。を模索し実行することだと思います。
現在まで継続してきた手法に疑問を持ち、本当に最適かどうかを見極める力が求められるのではないでしょうか。
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