「またね」という言葉を、橋本治は愛おしむように使います。その一つの答えをこの本に見つけたと思いました。
第4部の終わりで同棲生活を解消した磯村くんと木川田くん。少しの間距離を置き、それでもお互いが特別な人であるという想いは通じ合います。
でも、同じ道を歩くことはできない二人でした。
木川田くんは、
だから時間を惜しんで勉強しています。デザイナーになるという夢に向かって。
一方の磯村くんは、
二人の情熱は重ならない。
でも私はそれをバッドエンドとは思いません。
ところ変わって同じ頃、玲奈もある決断をします。
浪人して入った早稲田大学を一年で休学し、将来結婚する約束をした利倉くんの実家に働き(女中)に行く。
利倉くんの実家とは言え、利倉くんは都内で一人暮らしをしながら大学に通っているのですから、利倉くんが実家にいるわけではありません。利倉くんちは建設業で人がたくさんいる“労働の場”で、将来結婚したいと思うほど好きな人に出会えた玲奈は、その相手と暮らすのではなく、その家で働くことを決めました。一度しか行ったことのない彼の家に単身乗り込んで直談判をするというのも、若い玲奈の勢いのあるところです(もちろん、利倉くんに事前に承諾を取って)。
磯村くんと木川田くんは、情熱が重なり合わず別々の道を行きますが、玲奈は利倉くんとの間に断崖絶壁があることを自覚しながら、結婚を決めます。
『桃尻娘』全作を評論した千木良悠子さんによれば、桃尻娘は「一人で生きてかなきゃいけないなんて嘘だよね」と言う本です。
それを目指す物語ではありますが、同時に「一人にならなきゃいけない」「一人になっても大丈夫」と言う本でもあると私は思いました。矛盾しているのではなく、“一人”の意味合いが違うのかもしれません。人は一人にならなきゃいけないときってあるけど、一人で生きなきゃいけないなんて思わなくていいんだ、って。
高校一年生から始まった『桃尻娘』、第5部では登場人物たちが二十歳を迎え、それぞれの人生を選択し、自分の足で歩き始めます。「またね」と言い合って、それぞれの未来に向かって。