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わたしの10年もの 〈5〉

岡山・蒜山のがま細工のかごバッグ

かばんの中身はおもしろい。

ティッシュに絆創膏にモバイルバッテリーと、困った時の四次元ポケットのように万全に持ち歩く人もいれば、小箱のような華奢なバッグをきらりと携えるだけの人もいる。

どちらでもない私はなんとも中途半端で、大人の女性の持ち物チェックとしては大したサンプルにならないのだけれど、荷物は身軽なほうだ。出先で「あれ持ってくればよかった」と思い至ることもしょっちゅうなのでけっして正解というわけではないが、自分が心地いい条件「気に入っているものだけを持つ」「持ち物を把握する」という点においては、ミニマル&シンプルが一番だと思う。

ふだん持ち歩いているものがぴたりと収まり、大きすぎず小さすぎずの程よいサイズ感と軽さを備え、何よりデザインが気に入っているのが、このがま細工のかごバッグだ。

岡山・蒜山(ひるぜん)地方の工芸品で、ひめがまという植物を編んで作られている。西日本有数の豪雪地帯である蒜山で、農閑散期に作られてきた工芸品で、防水・保湿にすぐれ、背負いかごや雪靴に活用されてきた。がまの生育状況により作ることができる数が変わるので、毎年入荷が安定せず、「サイズがそろっている時がチャンスですよ」と買ったお店の店主さんが話していた。

もちろん、肩掛けや斜め掛けしたいとか、中身に合わせてボリュームを調整できるフレキシブルさを問えば、布バッグに勝るものはない。
でも、かごが、かごのバッグが持ちたい、かごでなければダメだという時が、大人の着こなしにはあるのだ! ありますよね?
そんな心の叫びを受け止めてくれたのが、このバッグというわけです。

マチがしっかりあり、いつもの私の持ち物の量なら問題なく入る。13インチのMac Book Airは頭が出るので苦しいが、まぁ入らなくはない(持つところがかなり狭くなるので、長時間持ち歩くならサブのエコバックを使えば良い)。
何より、軽い。

がまは中空素材なので、しっかりと編まれているのに拍子抜けするほど軽く、長く持っていても「重......」とうんざりすることはない。
愛用している5段編みのサイズで、たった290g!

いつもの私の持ち物はこんな感じ。

写真の荷物を全部入れても1kgに満たないくらいだった。小麦粉一袋分より軽いのである。

これまで何度も挫折してきたかごバックはどれも、振り回せば凶器になりそうなほど重かった。かさがあるので、どこかにぶつけたりすれば 、愛らしい見た目に反して野太い“みしっ”という音を立てた。形も丸かったり小さかったりして、バッグの容量に合わせて荷物の量を調整しなければならない。憧れの山葡萄のかごバックも、持ち上げてみてその重さ(とお値段)に「.......。」とそっと棚に戻して見送ってきた。

「シンプルな着こなしにかごバック」というスタイルが好きなのだけれど、そのシンプルさとは裏腹に、重くて使いにくいバックをがんばって使っているという矛盾が、どうも居心地が悪かったのも事実だ。

このがま細工のバッグに出合ってから、好きなスタイルも、荷物の量も、使い勝手も、どれも無理しなくていいという心地よさを知ってしまった。雰囲気が甘すぎないので、小柄な私が持っても“ほっこり”しすぎず、程よく大人っぽいのもいい。「ものに自分を合わせる」のではなく、「自分に合うものを選ぶ」ことは、なんて自由で軽やかなんだろうか。

スマホと口紅一つだけをバッグに入れて颯爽と出かける女性は素敵だ。
ケガをした人にサッと絆創膏を出せたり、いつだってアイデアが詰まったノートを開く準備のある人も。

持ち物の多い・少ないではなく、自分の性格や能力を知り、自分と上手に付き合うためのかばんと中身を携えていることがきっと、魅力的なのだと思う。

実を言うと、このバッグはまだ使い始めて3年ほど。
10年にはまだ遠いので、ここで紹介すべきかどうか迷ったのだけれど、あらゆるかごバッグの挫折歴なら、おそらく20年くらいはある。

その年月を経て、たどり着いたこのバッグに今のところ不満が一つもないということは、きっとこの先も、私の片手に軽やかに寄り添ってくれると確信している。

◯蒜山のがま細工のかごバッグ
お取扱店はいくつかありますが、例えばこちらなど
https://www.archipelago-shop.com/items/5acefeeb5f78661b62000281

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