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わたしの10年もの 〈3〉

〈ARTS&SCIENCE〉のストール

服や小物で「それいいね、どこの?」と聞かれた(聞いた)時に、一瞬しーんとしてしまう答え。それが〈アーツ&サイエンス〉。「そりゃいいわ!」という全面同意と全面降伏(お財布的な面で)の入り混じった、つかの間の“しーん”を乗り越えて。

リアルに私が10年近く愛用しているのが、〈アーツ&サイエンス〉のギンガムチェックのタッセル付きストール。まだ京都の路面店がなかったころ、奈良の「くるみの木」で購入した。お値段も今よりは手が届きやすかったように思う(と言っても十分高かったけど!)。夫は日頃から私の買い物に驚くほど不干渉で、買ったものの値段など一切聞かないのだけれど、この時ばかりはお会計中に彼がひょいと現れないかドキドキしたものだった。

素材はカシミヤで、夢心地のような手ざわり。細い細い糸で織られていて、広げると透けて見えるほど薄手である。けれどこの薄さが、くるくると巻くと絶妙にコンパクトにもなり、秋から春先まで3シーズン活躍する。シンプルな白と黒のギンガムチェックだけれど、隅のタッセルがちょうどいいアクセントになる。昨年まで一緒に暮らしていた愛猫が、タッセルにじゃれついて破けてしまっているのは、今となってはご愛嬌だ。

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タッセル付きストールといえば、私がはじめてお小遣いで買ったファッションアイテムに、どことなくその面影があった。両端にポンポンの付いたマフラー、たしか小5くらいの時に買った。それまで「服=親に買ってもらうもの」だったのに、はじめて自分のお金を、おもちゃや本や文房具以外のものに使った。モスグリーンで、左右にポンポンが5、6個ずつ付いていた。そのマフラーも、くるりと巻くとポンポンがいい感じのアクセントになった。手ざわりも好きで、すべすべといつまでも触っていた。

はじめて自分で買ったマフラーと10年飽きずに身につけているストールに共通点があることは、自分にも「好きなもの」の軸があると証明してくれているようで、うれしい。

ファッションに関しては移り気で影響されやすくて、苦手なものは決まっていても、好きなスタイルはブレブレだと自覚があったからだ。好きな作家や取材先の店主が「子どものころから好きなものは変わらない」なんて言うのを聞くと、自分の軸のなさを実感していた。

けれど、このストールのおかげで、私の「好き」は、スタイルやアイテムではなく、ディテールにあるのかもしれない、と気づいた。

タッセル、ロング丈、ステッチ、小花柄(それも黒やネイビーなどのダークカラーに散らされた花に萌える)。手ざわりのよい生地も好きで、お気に入りのベロアのワンピースをもみもみしすぎてその箇所だけハゲてしまってたこともあったっけ。ディテールや質感にフォーカスして思い返せば、今も昔も変わらずに好きなものが、私にも確かにある。

洋服は儚い。
半年ごとに新しいコレクションが並び、シーズンが終われば容赦なく値下げされ、数年経てばどこか時代遅れな空気が漂う。流行も、好みも、年齢も体型も変化していくから、おしゃれを愛している人ほど、何年も飽きずに身につけていられるものは少ないのではないだろうか。

失敗したり手放したりしながらも、洋服の儚さに踊らされない “知恵”を身につけるために。

「自分の好きなディテールリスト」を知っておくことは、新しいものを選ぶとき、長く付き合えそうなものか、一時の気分で取り入れたいものなのか、ジャッジする指標になると思う。私の場合は「好きなディテール」だけれど、特定のアイテムでも、色でも形でも組み合わせでもいい。気分転換と割り切ってプチプラやフリマでリスト外のものを取り入れてもいいし、勇気のいる値段でもリストに多くハマっていれば「買ってよかった」と思える品になる。ものが持つ賞味期限を想像する力があれば、儚さはときめきにも、豊かさにもなるのだ。

〈アーツ&サイエンス〉のタッセル付きストールは、素材や柄を変えて今でも販売されています。年々値上がりしているようだけど(涙)、洋服と違って小物は飽きにくいし、真夏以外活躍するので十分モトは取れる品。「それいいね、どこの?」って、きっと聞かれるはずです。

◯ARTS&SCIENCE
https://arts-science.com/


◯装うものについてのあれこれ


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