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名言で振り返るHow to Do Primary Care Research 【翻訳版 出版連動企画】第4回

(執筆:金子 惇)

このnoteでは2022年6月に南山堂から発売予定の「プライマリ・ケア研究 何を学びどう実践するか」の内容や見どころを連載形式で少しずつ紹介していきます!
この書籍はWONCA(世界家庭医機構)推薦のプライマリ・ケア研究の教科書であるHow to Do Primary Care Researchを翻訳したものです。この連載では各章から翻訳の時に印象に残った名言を紹介しつつ、内容について触れていきます。

第1回
第2回
第3回

SECTION VI:研究のキャパシティを広げるために

最後のSECTIONであるSECTION Ⅵは

CHAPTER 31 研究初学者や経験の浅い研究者をどうスーパーバイズ/メンタリングするか?
CHAPTER 32 メンタリングが上手くいくための環境づくり
CHAPTER 33 研究の能力を伸ばすためのアプローチ:個人、ネットワーク、組織文化
CHAPTER 34 実臨床の中に研究を組み込むために

の4章からなっていて、主には研究の教育に関する内容になっています。

CHAPTER 31ではメンターシップとスーパービジョンの違いに始まって、「研究初学者をチームに引き込む方法」、「研究初学者が必要とする支援を見極める」などメンター・スーパーバイザー側へのアドバイス、「メンターの見つけ方」、「どうやってメンターを最大限活用するか」など学習者側へのアドバイスが実例を交えて書かれています。
“Primary care research is strengthened through the nurturing of novice researchers to create a welcoming and vibrant community.”
“プライマリ・ケア研究は研究初学者を育て、活気あるコミュニティを作ることで発展していく”というのは本当にその通りだと思います。

日本のプライマリ・ケア研究の領域でも研究に興味を持ってくれる方、取り組んでくれる方が以前よりどんどん増えていると感じています。若手の皆さんが適切なメンターシップやスーパービジョンを受けるためにこの本が少しでも役に立つことを願っています。

また、
“Novice researchers in primary care come from a wide variety of backgrounds with varying degrees of previous research experience. Many novice researchers will seek out more than one person to mentor them during their early career, and this should be encouraged. It is unlikely that one senior researcher can meet all the needs of a new researcher.”
“プライマリ・ケア分野の研究初学者は,さまざまな経歴をもち,これまでの研究経験もさまざまである。初学者の多くはキャリア初期に複数の人に指導を求めるが,これは奨励すべきことである。1人の先輩研究者が研究初学者の全てのニーズを満たすことはできないと考えるべきである”
と書かれています。

これもその通りで、どこの研究領域も当てはまると思いますが、プライマリ・ケア研究はとくに扱う領域や方法論が幅広いので必要に応じて色々な人に支援を求めたり、少しずつメンタリングして貰ったりできる環境があると研究が進めやすいのではと思います。

CHAPTER 32はどちらかというと指導者のための章となっています。どうやってプライマリ・ケア研究をする人を増やしていったり、アカデミアの中でプライマリ・ケア領域が存在感を発揮していったりするかということについて、個別のメンタリングだけでなく組織としてのアプローチの仕方が書かれています。これも類書にはあまりない内容ではないかと思います。

この章の最後には
“Being an academic mentor can be a very satisfying role because it leaves a legacy – the next generation of Family Medicine researchers! Making mentorship happen is a key role for growing our discipline.”
“メンターにとってメンターシップは次世代の家庭医療学研究者という財産を残すことに繋がるため非常に満足度の高い仕事となる。メンターシップを実現することは,われわれの分野を発展させるための重要な役割である”
これを実行するためにはメンターやメンティーの個人の努力に加えて、大学や研究機関の仕組みづくりが大事だなと感じました。

CHAPTER 33はCHAPTER 31、32をさらに発展させて、持続可能なアカデミアとはどのようなものか? どのように予算を獲得してプライマリ・ケア研究に関する部門を維持・拡大していくか? ということが経験を交えて書かれています。

どうやって個人レベルだけでなく、システムレベルで研究能力を向上させることが出来るのか? についてカナダのTUTOR-PHC、英国のThe Oxford International PC Research Leadership programなどが紹介されています。
また、大学の学術部門としてどうやって研究能力を高めていくか?の戦略についても書かれているのでそのような環境で働かれている方はぜひ読んで頂ければと思います。

もう一つ自分がこの章で大事だなと思ったのは「非臨床医の研究者」という部分です。この章で例として挙げられており、自分も実際にお世話になったことがあるWestern UniversityのMoira Stewart先生やRutgers Robert Wood Johnson Medical SchoolのBenjamin Crabtree先生は医師ではありませんが、プライマリ・ケア研究の歴史に素晴らしい貢献をされています。

日本の大学だとまだまだ少ないですが、海外では大学のプライマリ・ケア部門に医師でない研究者の方も所属していて一緒に研究を進めていくということがよくあります。今後はそのような分野を超えたつながりが日本のプライマリ・ケア研究でも更に盛んになっていくと考えています。

この章の最後には
“Research can be an isolating process. Fortunately, the sense of discovery, the feeling that one may be making a difference and, for most of us, the friends we make along the way, make it all worthwhile.”
“研究は孤立したプロセスになることが多い。しかし、幸いなことに、何かを見つけたという感覚、自分が役に立っているという実感、そして多くの人にとっては、研究の過程で得られる友人の存在が、全てを価値あるものにしてくれる”
とあります。
この本を読んで下さった皆様にとっても研究がそのようなものとなることを願っています。

最終章であるCHAPTER 34は「実臨床の中に研究を組み込むために」ということで、自分で研究を行う訳でない場合について書かれています。「自分が責任者として研究をする」以外にも様々な研究への関わり方があり、とくにプライマリ・ケアの領域では臨床家がそれを意識的に行っていかないと研究や政策にプライマリ・ケアの視点が反映されないことがよくあります。この章ではプライマリ・ケアの医療者ができることとして

・研究計画をプライマリ・ケアの視点から見て批判的に吟味する
・プライマリ・ケアの現場から出て来る仮説やリサーチクエスチョンを提案 する
・プライマリ・ケアの現場のデータを提供する

という3つを挙げており、それぞれ実例を示しています。
“It is important to realise is that this is a way to protect the long-term health interest of patients – ‘our’ patients, communities and populations.”
“(他の人が作った研究計画を批判的に吟味してコメントすることは)患者の長期的な健康上の利益を守るための方法である、つまり『私たちの』患者、コミュニティ、集団を守るための方法である”
と書かれています。
たとえ自分で研究をしなくても、機会を積極的に見つけて声をあげていく、そのために必要なことを学ぶ、ということはとても重要なプライマリ・ケアへの貢献だと自分は思います。

次回のnoteでは発売直前ということで、翻訳を終えての想いや頂いた推薦文のご紹介を出来ればと思います。

また、本書籍『プライマリ・ケア研究:何を学びどう実践するか』出版記念オンライントークイベントとしてAntaa様とコラボして2回のトークイベントを行います

第1回「これからの日本のプライマリ・ケア研究」
5月31日(火)19:00-19:30
金子惇(横浜市立大学大学院データサイエンス研究科)×
藤沼康樹(CFMD東京)
詳細・参加登録

第2回「病院総合診療医×診療所プライマリ・ケア医による研究の可能性」
6月4日(土)11:00-11:30
金子惇(横浜市立大学大学院データサイエンス研究科)×
志水太郎(獨協医科大学総合診療医学講座)
詳細・参加登録

(このnoteでの訳は一部を紹介するためのものであり、本書での訳と必ずしも一致している訳ではありません)

プライマリ・ケア研究 何を学びどう実践するか
B5判 291頁 5,400円(税抜)
翻訳:金子 惇(横浜市立大学大学院 データサイエンス研究科 ヘルスデータサイエンス専攻) 
原著:How To Do Primary Care Research
edited by Felicity Goodyear-Smith and Bob Mash
endorsed by the World Organization of Family Doctors (WONCA)
2022年6月 南山堂より刊行予定
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