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名言で振り返るHow to Do Primary Care Research 【翻訳版 出版連動企画】第3回

(執筆:金子 惇)

このnoteでは2022年6月に南山堂から発売予定の「プライマリ・ケア研究 何を学びどう実践するか」の内容や見どころを連載形式で少しずつ紹介していきます!
この書籍はWONCA(世界家庭医機構)推薦のプライマリ・ケア研究の教科書であるHow to Do Primary Care Researchを翻訳したものです。この連載では各章から翻訳の時に印象に残った名言を紹介しつつ、内容について触れていきます。

第1回
第2回

SECTIONⅤ:研究を発信するために

SECTIONⅤは

CHAPTER 27 査読に通る論文の書き方
CHAPTER 28 効果的なポスターの作り方
CHAPTER 29 プライマリ・ケア研究を発信するためにソーシャルメディアをどう使うか
CHAPTER 30 政策決定者にエビデンスを届け社会的なインパクトをもたらすために

の4章からなっており、
行った研究をどう他の人に伝えるか? について論文、ポスター、ソーシャルメディア、政策という4つの視点で書かれています。

CHAPTER 27は「査読に通る論文の書き方」という非常に魅力的な題名になっていて、背景・方法・結果・考察のそれぞれについて書き方のポイントが端的に記されています。

また、大事なセンテンスをパラグラフの最初にまず持ってきて、その後にその根拠となる文章を続けるパラグラフライティングで書き進めること、一文をなるべく短くすること、なるべく簡潔な言い回しを使うことなど英文の書き方についても例を挙げて説明されています。

さらには投稿雑誌の選び方や投稿の時の注意点などにもスペースが割かれており、類似書で書かれていないポイントに触れられていると思います。

その中には
“You need to make time to write. You can either set aside a block of time (“pressure cooker” approach) or work on it slowly over time (the “slow cooker tactic”), where you keep picking it up and deal with a small amount at a time.”
“まず,書くための時間を確保する必要がある.まとめて時間を確保する(「圧力鍋」方式),小分けにした時間で少しずつ作業を進めていく(「スロークッカー」方式)などの方法がある”
という風に、誰もが気になる時間の使い方についても書かれています。

また、個人的には最後の
“You may have to repeat this process several times, but unless your research was fatally flawed, you should be able to find a home for your article, even if it is not in the top-ranking journal you initially hoped for.”
“研究に致命的な欠陥がないかぎり当初期待していたトップランクのジャーナルでなくても,論文の居場所を見つけることができるはずである”
という言葉が大変味わい深く勇気を貰える一説だなと思いました(この論文はどの雑誌にも受け取って貰えないのではないか? という不安は研究をしているといつもありますので)。

CHAPTER 28ではわかりやすいポスターの作り方について、原則からフォントの大きさ・語数など具体的なことまで簡潔に記されています。このCHAPTERのテーマは
“Keep it simple, keep it visual and keep it clear.”
ということで
シンプルに,視覚的に,はっきりと
というのがポスター作りのポイントとして紹介されています。

CHAPTER 29はソーシャルメディアを使って自分の研究を知って貰うための具体的なコツやソーシャルメディアを使う時の注意点が書かれています。

前半ではMayo clinicのソーシャルメディアに関する方針である
“don’t lie, don’t pry, don’t cheat, can’t delete, don’t steal and don’t reveal”
“嘘をつかない、他人の詮索をしない、不正をしない、削除はできないと考える、盗用しない、曝露しない”という言葉が掲げられ、医療者がソーシャルメディアを使う際にまず注意すべきことが書かれています。

後半ではどうすればオンラインプレゼンスを高められるか? ブログとTwitterなどのマイクロブログをどう使い分けるか? などについて実践的なコツが紹介されています。

CHAPTER 30は研究結果をどう政策につなげるか? という非常に重要ですが、類書で触れられにくいポイントについて書かれています。

冒頭の
“Publication, however, does not guarantee that the knowledge will translate into influencing policymakers and other stakeholders or achieve social impact.”
“雑誌に掲載されたからといって必ずしもその知識が政策立案者やその他のステークホルダーに影響を与えたり、社会的なインパクトを与えたりできる訳ではない”
というとても現実的なメッセージにはじまり、いかに政策決定者にエビデンスを届けるか? についてのノウハウが書かれています。

“These might include political ideology, social or cultural norms, economic constraints, relative cost-effectiveness of different options under consideration, operational feasibility, competing priorities, influence of other lobbyists or stakeholders and appraisal of a range of different types of evidence.”
(読者は政策決定が全てエビデンスに基づいて行われる世界を望んでいるかもしれないが)“現実の政策は政治的イデオロギー、社会的・文化的規範、経済的制約、検討中のさまざまな選択肢の相対的な費用対効果、運用上の実現可能性、競合する優先事項、ほかのロビイストや利害関係者の影響,さまざまな種類のエビデンスの評価などに影響される”
というのは皆さんも実践の中で感じられているのではないでしょうか。

一医療従事者であるわれわれに出来ることは大きくはないかもしれませんが、この章に書いてあるステークホルダーの分析、エンゲージメント戦略、エンゲージメントの評価という3つのポイントについて知っておくのはとても大事だと思いました。また「政策」という大きな枠でなくても、自分の所属している組織の意思決定に関与するためにも大事な視点だと思います。


次回のnoteではSECTION Ⅵ:研究のキャパシティを広げるために について紹介していきます。

また、本書籍『プライマリ・ケア研究:何を学びどう実践するか』出版記念オンライントークイベントとしてAntaa様とコラボして2回のトークイベントを行います

第1回「これからの日本のプライマリ・ケア研究」
5月31日(火)19:00-19:30
金子惇(横浜市立大学大学院データサイエンス研究科)×
藤沼康樹(CFMD東京)
詳細・参加登録

第2回「病院総合診療医×診療所プライマリ・ケア医による研究の可能性」
6月4日(土)11:00-11:30
金子惇(横浜市立大学大学院データサイエンス研究科)×
志水太郎(獨協医科大学総合診療医学講座)
詳細・参加登録

(このnoteでの訳は一部を紹介するためのものであり、本書での訳と必ずしも一致している訳ではありません)

プライマリ・ケア研究 何を学びどう実践するか
B5判 291頁 5,400円(税抜)
翻訳:金子 惇(横浜市立大学大学院 データサイエンス研究科 ヘルスデータサイエンス専攻) 
原著:How To Do Primary Care Research
edited by Felicity Goodyear-Smith and Bob Mash
endorsed by the World Organization of Family Doctors (WONCA)
2022年6月 南山堂より刊行予定
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