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ないものがある幸せ。

 オフコースは、今はもういないグループだ。

1982年6月30日に、5人組のオフコースは前人未到の10日間武道館コンサートを成し遂げ、その後活動を一時的に停止した。

2年後の1984年に、1名、ヤスさんが抜けて、オフコースは4人で再出発することになった。電子ドラムを使ったり、ひょうきん族に出演したり、イメージかだいぶ変わって、びっくりもしたけれど、私は割にこの時代のオフコースも好き。名曲もたくさんある。

1987年のas close as possibleの武道館公演には2日間行った。同じ空間に小田さん、松尾さん、仁さん、ジローさんがいることが本当に信じられなかった。夢みたいな出来事だった。最初で最後のオフコースのコンサート。

そして1989年2月26日に、東京ドームでのコンサートを最後に、オフコースは解散した。

この解散間際、私は実はオフコースを追っかけていなかった。聴く音楽は洋楽がメインになっていたし、他に遊ぶことがいっぱいあって、オフコースからはなんとなく遠ざかっていた時期だった。

オフコースが解散コンサートを東京ドームでやる、と知って、隣の駅にある大学に通っていた私は、総武線で水道橋駅を通り過ぎながら『あのドームの中に、オフコースのメンバーが今いて、リハーサルをしているんだ』と思って不思議な感覚になったことを覚えている。こんなに近くにいるのに、見えないし会わない。私は行かないんだ、と自分のことを他人のことみたいに考えていた。
そのあと本屋に行ったとき、店先に積んであった女性週刊誌の見出しに『オフコース解散』の文字を見つけて、思わず買った。内容は覚えていない。

こうして、オフコースはいなくなった。

私は大学を卒業し、社会人になった。

 1999年か2000年ぐらいに、A.B.Cのライブに行った。A.B.Cは、ジローさん、松尾さん、仁さんの3人が集まってビートルズを楽しく演奏しようとできたグループだ。3人とも元気そうで楽しそうにビートルズの曲を演奏していた。

 2003年に、当時私の住んでいたシンガポールに小田さんが来てコンサートすることになった。私は小田さんが滞在するであろう全日程分有休を取って、追っかけた。最後まで会えなかったけど、コンサートは本当に楽しい濃い時間だった。
 ライブでは、オフコースの5人の映像が後ろのスクリーンに映し出されたりもしたし、小田さんはオフコースの曲をけっこう歌った。この少し前に『自己ベスト』を、もう少し前には『Looking back2』を出していたからかもしれない(だからまあ、曲のアレンジはオフコースとは違っていたんですけどね…まあそれはおいといて)。

オフコースの曲をたくさん歌ってくれたことは、驚くべきことだったし、それよりなによりとてもうれしかった。例えば4人のオフコースのコンサートでは(私の行ったものに限っての話だけど)5人の時の曲はやらなかった。ソロになってもオフコースの曲をやらない時期があった。だから、この時に小田さんがオフコースの歌を歌ったことは、私にとってとても大きなことだった。

 あくまでも私見だが、この2003年ぐらいから、A.B.Cもオフコース時代の曲を演奏するようになったと思う。私が一番初めにA.B.C.のライブで聴いたオフコースの曲は『悲しき街』だ。ライブのあと、CDにサインをもらうとき、ジローさんが「歌、ずっと口ずさんでくれてたね、覚えてた?」と、サインをしながら言った。「はいっ、中学のころから、忘れてませんでした!」って答えたら、苦笑いされた。

 どこを探してもいなくなったオフコースが、おぼろげながら姿を現し、だんだんピントが合ってくる感じだった。そこにいたのに、脳がその姿の見方を忘れていたのだ。それを、音楽が思い出させてくれたのだ。オフコースが今もいる、と感じるようになった。

 オフコースのメンバーは今も全員お元気で、それぞれ音楽活動をおこなっている。

それぞれのライブに行くたび、私は脳内で不足分を補完する。小田さんの歌声に、ジローさんのドラムの音を、3人のコーラスを、ヤスさんのギターソロを。

脳内で、彼らは1つの舞台に立ち、歌を歌い演奏する。

この類いの妄想は、恐らくオフコースのファンの方なら誰もが見たことがあるはず。いつかまた、1日でも、1時間でもいいから、もう1度だけ、5人が揃ったら……と。でも、メンバーにその気がなさそうなので、ムリは言わずにみんな「ええ、メンバーの気持ちを尊重します」みたいな顔して何でもないみたいに振る舞っているそこのオフコースファンのあなた。もう1度だけ、また5人集まって演奏するのを見てみたくはないですか? 私は、見たいです。

もしかしたら、昔は出た声が出ないかもしれない。演奏も、テンポが遅くなってしまうかもしれない。確かに再結成なんてしない方が、伝説のグループのままで神格化されていくのかもしれない。
 でも。椅子に座っててもいいから、多少歌詞を間違えてもいいから、とにかくただ、5人揃った姿を見たいのだ、その音楽を聴きたいのだ。バックにサポートメンバーをつけてもいい。1曲でもいい(でもせっかく集まるなら1曲ではもったいないから、3,4曲ぐらいだともっといい)。私が大金持ちのお嬢様なら金にモノを言わせて、『NEXT』みたいに黒メガネを雇うのに。

でもまあいいです。物わかりのいいファンでいることにする。これは、やっぱり再結成はないんだな、とあまりがっかりしないようにする、予防的措置に他ならないが。

とはいえ、再結成してもしなくても、今の彼らも、昔の彼らと同じぐらい私は大好きだ。別々でもみなさんが音楽を続けて、私たちを楽しませてくれているだけで、本当に有難いことなんだと思う。だから、これからもこの先も、ずっと好きでいると思う。何十年経っても彼らの音楽をずっと好きでいるよ、とあの頃の自分に本当に教えてあげたい。全員のサイン、持ってるよ! 全員に会って写真も一緒に撮ってもらってるよ! 

だから、オフコースは私の中で確実に生きている。オフコースは今も存在するグループだ。



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