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第11回「ツケ」

小さい頃から体を動かすことが好きだった。しかし運動神経は全くない。何をやらせても下手すぎるのだが、特に苦手なのが球技だった。

体育の球技の授業では、「お前がおってもおもろいだけで負けんねん」というセリフをもらったこともあるくらいに全員の足を引っ張り、負けへと誘う程の才能を開花させていた。

小学生のころのドッヂボールが、人生で初めて行った球技だろうか。持ち前のどんくささと、男っぽい性格のせいでいつもターゲットにされていた。か弱い女の子に当てて、泣かれても面倒だからだろう。わたしは、鈍くて、よく笑うのだ。格好のカモだった。


ボールを受けることも投げることも苦手ではあったが、一番苦手だったのはヤンチャ男子の強すぎるボールを当てられることだ。単純に痛くて嫌だった。あのゲームの面白さもわからないほどにドッヂボールは苦手だったのである。

しかも逃げてばかりいるので避けることがうまくなってしまい、最後まで残ってしまうのが難点だった。獣に囲まれた草食動物のように震える事しかできなかったのだ。

ドッヂボールをする際には、チームのメンバーがひと目見てわかるように紅白帽を被るのが相場だったのだが、ある日閃いた。生き物は閃く瞬間にIQが上がるそうだが、その当時のIQはすでに100を超えていた可能性が浮上してしまう。


ドッヂボールをクラス全員で行うにあたっての必勝法とは『紅白帽をウルトラマン被りすること』だった。帽子のツバを真ん中に来るようにし、右は紅・左は白にした帽子を被るのだ。

そしてふたつのチームの中心線の端で右側に紅チーム・左側に白チームが来る位置で仁王立ちをしておくことだけだ。こうするとわたしがどっちのチームなのかも分からなければ、外野も近すぎて逆に気付かれなかった。


しかしこの必勝法は長くは続かなかった。さすがにばれたのだ。わたしと同様にドッヂボールが苦手でいつも残ってしまうタイプの子にバレ、先生にチクられてしまった。怖い先生ではあったが、怒らずにそれはいけないことだと諭された。

チクりやがった同級生には釘を刺し先生の目を盗んでその八百長は継続し続けた。先生監視下のちゃんとしなければいけないときは仲の良い男子に交渉し、序盤に早急かつ優しく当てるように頼んだ。もちろん思いっきり当てられたが。


そんなわたしの苦手なドッヂボールというスポーツは中学校に入った瞬間にあたかも初めから存在していなかったかのように姿を消した。小学校を卒業して15年以上の月日が経過しているが小学校以外でした記憶はない。

いつの間にか目の前から消えた苦手な球技をわざわざ思い出すことなどなかったのだが、ふと思い出した日がつい先日訪れた。仕事終わりに最寄駅から家まで歩いていた時だ。

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わたしが通る道は数年前にちょっとした新興住宅が立ち並ぶようになり、幼稚園~小学校低学年程の子どもを持つ家庭が多く住んでいる。そして、車もめったに通らない細い道に面しているため、その道自体が子ども達にとっては遊び場となっているのである。

そこではいつも5~10人ほどの子ども達が思い思いの遊びを楽しんでいる。近年公園で遊んだりする子どもが減っている中、この住宅街だけは活気あふれていて微笑ましい。


しかしある日、子ども達がボール遊びをしていた日だった。子どもの隙間を抜け歩いているとお尻に衝撃波が訪れたのだ。もちろん、おならではない。

「イッテ!」

思わず小さな声が漏れた。振り返るとモジモジした少年がいた。15年以上の時を経ていまドッヂボールで八百長していたツケが回ってきたのだ。しかも謝らないところを見ると、世代を超えてあのドッヂボールのゲームは終わっていなかったことが分かる。死ぬまで続くデスゲームかよ。

それにわたしは子ども達を避けて歩いていた為、せまい道の本当に端っこを歩いており逃げ場を失った状態でそこそこ強いボールをお尻に当てられている。コートの端を逃げ回り最終的に背中を向けた時に背中やお尻に思いっきりボールを当てられたあの頃と完全にリンクした


30歳手前になってもやっぱり思う、ドッヂボールは苦手だ。全く何がおもしろいんだか。

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