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第19回「校則違反」

これは、中学3年生の頃のとある出来事だ。そこそこにヤンチャな子たちが集まる母校では校則が厳しく、アウターという概念は存在しなかった。

冬になると凍えながらセーラー服の下にスウェットなどを着込み、カイロが手放せなかった。今のように薄くて暖かいインナーもない時代だったのだ。

校則で禁止されているものは、携帯電話をはじめとした勉学に関係のないもの、色つき・香り付きリップクリーム、ソックタッチ、そしてカイロも含まれていた。冬の防寒具は手袋とマフラーのみOKで、靴と靴下は白のみ。


そんな学校で校則違反のものについて先生が授業中に話す機会があった。野球部の顧問で先生自身も坊主だという特殊なタイプだったと記憶している。厳しく体格の良い先生だが、気さくな性格から多くの生徒に愛されていた。

授業中にある生徒がカイロを持っているところを見られたことで、校則の話になった。

「カイロか~、俺はカイロくらいええやろ~と思うねんけどな。」

校則違反のものが多く、今でこそ覚えていないものもあるのだろうが、中学生当時のわたしたちは息苦しい思いをしていた。そして、先生自身も生徒が何を持ち込んでいるかを知りたかったようで、その時間から突如『持ってきてはいけないもの』を見せるという時間になったのだ。

「これは別に俺個人の興味やから、別に誰にも言わんし、怒らんから見せてや!」

この先生なら大丈夫だ。そう感じた生徒がひとつ、またひとつと机にものを出していく。多くの生徒はリップクリームやカイロ、携帯電話を出していった。

中にはゲーム機なども出していたが、そういったものも先生は頷きながらスルーしていった。端の席から順番に先生が見ていく。ちょうど真ん中あたりに差し掛かった時に先生の乾いた笑い声が響いた


「お前これ、全然校則違反ちゃうぞ!ずっとそうやと思ってたんか?」

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平成生まれには珍しいビン底眼鏡をかけたMの机には大きめの筆箱がふたつと机を埋め尽くすほどの色ペンが置かれていた。

クラス中の視線と馬鹿にした笑いを不覚にも集めてしまったことと、色ペンが校則違反ではないことを初めて知ったMは動揺して大きな音を立てて机の上の色ペンを床にぶちまけた

ガラガラガラドシャーーーーーン!ガサガサコロコロ…


いまでも当時のMの姿がたやすく脳裏に思い出すことができる。本当に些細な出来事だったが、大声を出して大爆笑した記憶もある。


中学校に入学してから少しずつ、かつ先生にバレないように、何なら背徳感なども感じていただろう、机を埋め尽くすほどの色ペンを集める数年はどんなものだったのだろう。

もしかすると、我々が想像するよりもずっと刺激的で色鮮やかな日々だったのかもしれない。色ペンだけに。いや、やかましわ。

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