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近代地理学を確立したフンボルトはどんな人?

フンボルト…ペンギン?

今日、9月14日はアレクサンダー・フォン・フンボルトの誕生日(1769年生まれ)です。フンボルトといえば、近代地理学を確立した学者として(地理学者や地理学習者には)有名ですが、その著作に触れる機会はなかなかありません。そこで今回は、フンボルトについて簡単にまとめ、日本語でも読める文献をいくつかご紹介します。私も学史の専門家ではないので、「こんな人なんだなあ」ということを知るきっかけになれば幸いです。

 最初に余談からスタートしますが、地理や地理学に詳しくない皆さんも、「フンボルトペンギン」は知っていますよね?この名称は、南アメリカ大陸沿岸を流れるペルー海流(ヘッダーの地理院地図の画像の中心十字線あたりを南から北へ流れる海流)がフンボルトにちなんで「フンボルト海流」と呼ばれることに由来しています。

フンボルトはどんな人?

 アレクサンダー・フォン・フンボルトは1769年にベルリンで生まれました。兄はヴィルヘルム・フォン・フンボルトという政治家・言語学者で、ベルリン大学の創立者です。大学の名称は「フンボルト大学ベルリン」ですね。

 弟のアレクサンダー・フォン・フンボルトは、ゲッティンゲン大学などで学んだあと、南北アメリカの調査旅行などを実施しました。フンボルトの調査研究で画期的だったといわれる点を簡単にまとめると、計測と観察に基づいて、自然現象などの地域条件を説明しようとしたことです。等温線による表現など、現在の地理学では常識となっているような方法を初めて研究で用いたとされています。

 ドイツの文学者で『ファウスト』などの著作で知られるゲーテとも深い親交があり、たくさんの書簡を交わして交流していたそうです。ゲーテは文学者としての顔だけでなく、自然科学にも深い関心を寄せており、フンボルトの調査旅行の成果は貴重なものだったのですね。

フンボルトについて日本語で読める文献

①フンボルト,A. v.著,木村直司訳『フンボルト 自然の諸相―熱帯自然の絵画的記述―』(ちくま学芸文庫)
【内容】フンボルトの著作をまとまって訳出してくださっているありがたい文献です。私もすべては読んでいませんが、現地の自然条件だけでなく歴史や文化についても詳細に説明されています。冒頭の献辞が兄のヴィルヘルムに捧げられており、P38の注解に「世界を観たことのない人々の世界観など私は信用しない」という印象的な言葉が掲載されていました。

②手塚章 1997. 『続・地理学の古典―フンボルトの世界―』古今書院.
【内容】フンボルトについての丁寧な解説に加え、「ステップと沙漠」「熱帯地域の自然図」の訳も収録されています。

③山野正彦 1998. 『ドイツ景観論の生成―フンボルトを中心に―』古今書院.
【内容】ドイツの景観論を中心とした学説史の中にフンボルトの業績を位置づけるものです。ドイツ語圏の地理学の歴史を学ぶうえでも勉強になります。

④ボッティング,D著,西川治・前田伸人訳 2008. 『フンボルト―地球学の開祖―』東洋書林.
【内容】フンボルトの伝記的な解説の翻訳です。付録として西川氏がまとめている「A・フンボルトと日本―幕末から昭和にかけて―」は日本との関わりを知るうえで学ぶところが多いです。

⑤ケールマン,D著,瀬川裕司訳『世界の測量―ガウスとフンボルトの物語―』三修社.
【内容】数学者ガウスと地理学者フンボルトをモデルとした小説です。史実も織り交ぜつつ、読み応えのある内容です。

・はじめて読む方へ:いくつか文献を紹介しましたが、いきなり原著を読んだり専門書を読んでも、その位置づけが分からないと理解を深められないですよね。そこで、フンボルトの業績がどのように地理学史で位置づけられるのかを知るには、人文地理学会編『人文地理学事典』(丸善出版)の下記の章から読んでみることをおすすめします。

・山野正彦 2013. 地理学史と方法論. 人文地理学会編『人文地理学事典』丸善出版, 6-9.
・手塚章 2013. 近代地理学の成立(ドイツ). 人文地理学会編『人文地理学事典』丸善出版, 18-21.

 上で紹介した2冊の著者の先生が、短い文章で丁寧な説明をまとめているので、学びはじめの道しるべになると思います。また、他の地理学者への関心にもつながるかもしれません。

 近年、『自然の諸相』の訳者である木村直司氏が 『フンボルトのコスモス思想―自然科学の世界像―』(南窓社,2019年)をまとめています。ちょうど図書館で『モルフォロギア』というゲーテ関連の雑誌に下記の書評がありました。

・中村大介 2020. 「詩作する科学者」アレクサンダー・フォン・フンボルト. モルフォロギア 42: 125-.
 木村(2019)がフンボルトについて丁寧な説明がなされていることを紹介しており、実際に読んでみたいと思いました。書評が新しい書籍との出会いをもたらしてくれるのもありがたいです。

古典にふれることの意味

 古典そのものを読む行為は、自分がいま学んでいる学問の基礎を築いてくれた偉大な先人と書物を通して対話できる機会なので、ぜひ翻訳であっても実際にフンボルトが書いた文章を読んでみていただけたらと思います。私はまじめに学史をおさえられてはいませんが、古典に漠然とした憧れのようなものがあります。いつか、何らかのかたちで古典的著作から得たアイデアをふまえた研究ができればと思います。

 フンボルトの誕生日が、皆さんにとって地理学やその古典と出会うきっかけになれば幸いです。お読みいただきありがとうございました。

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