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青木真兵・青木海青子著「彼岸の図書館――ぼくたちの「移住」のかたち」と6回目の引っ越しではじめて「移住者」になった私②

①はこちらから読めます。

東吉野村への移住、もとい引っ越しを「逃げ延びた」と表現する青木夫妻ですが、この言葉は、私にとって2つの共感(正確には共感ではないかもしれません)がありました。

ひとつは、移住の理由についてです。

「移住」は、得てして地方創生の文脈で取り上げられることが多いため、移住者特集で見かける人たちは、都会の暮らしに疑問を持ちがちだし、自然が豊かな場所を好みがちだし、農業に興味を持ちがちだし、自分らしく生活できる場所を探しがちな人たちばかりに見えます。
しかし、現実にはそういう人たちばかりではないはずです。そういう人が特集される、もしくは、特集される段階でそういう人だったことにされているのではないかと思います。
私も移住者、移住の理由を聞かれることが幾度かありました。しかし、何と答えていいのか、言葉が詰まることがままありました。求められる答えなんてないはずなのに、漠然と特集で見かける人たちのような答えを求められるような気がしていたのです。
でも、実際には元同僚から一緒に仕事ができる機会をもらえたからということと、そこにもう一人一緒に仕事がしたかった人がいたから、でしかないのです。別に田舎に暮らしたかったわけでもなければ自然が好きだとか、自分らしさを追及していたわけでもありません。この町でなければいけない理由なんてありはしないのです。
もちろん、問われる相手によってはわりと素直に答えることもあったのですが、なんとなく空気を読んで周辺の理由をとってつけたりすることもありました。
青木夫妻の周りにも、少なからずそういう空気感はあったと思います。しかし、彼らは彼らの言葉を使って「移住」に期待される物語からも逃れたということを意味しているように思います。
あたりまえかもしれませんが、私もそんな物語に支配される必要はないのです。もう答えに戸惑うこともなくなりました。


さて、もうひとつは、逃げることの肯定についてです。
「逃げる」という言葉にはどうしてもネガティブなイメージがつきまといます。
私はスポーツに関わる仕事をしていますが、特にスポーツの世界では逃げることを良しとしない土壌、風土があります。逃走は否定され、闘争こそが賞賛される世界です。

私が明確に逃げの手を打ち始めたのは高校時代からです。
(細かく書くと長くなるのでここでは端折りますが、)進学先の選択において、進学校ならではの空気感が学校を支配していました。それは誰が言うでもなく、誰が明らかにするでもないものでしたが、その空気感に押しつぶされそうになり、そこから逃げました。もちろん、自分なりの基準をもってのことではありましたが、そういう判断をすることに慣れていませんでしたから、逃げることは逃げることで変なエネルギーを使いながら、それでも逃げ切りました。
大学でも、まわりがいわゆる就活モードになっていそいそと動き出したころ、就活という仕組み自体が良くわからず、そのシステム自体から逃げる選択をしました。
この他にも、いろんな流れから逃げの選択をしては、まわりと違うことをするストレスを受けながらも、結果的にいずれも自分にとって幸いしていたこともあり、逃げもひとつの手段として積極的に利用するようになりました。
表現が難しいのですが、もう少し付け加えて言うならば、誰かが作った土俵から降りる、とか、しなくてもいい勝負から降りる、などとでも言いましょうか。

書籍を読んだあとに、幸運にも青木真兵さんと直接話をする機会があり、逃げることについて尋ねたところ、短期的には逃げることが長期的に観れば勝つこともある、というような言葉を聞かせていただきました。
「逃げるは恥だが役に立つ」(ハンガリーのことわざだそうです)というドラマが大ヒットしたように、また、日本にも「逃げるが勝ち」ということわざがあるように、あるいは、孫子の兵法でも「戦わずして勝つ」という言葉があるように、「逃げる」ことに寛容な社会を私は望んでいることを実感しましたし、それを後押しされているような気もしてきました。


都市部には、そこの空気感で力の限り戦いたい人たちもたくさん集まっているけれど、逃げるエネルギーを持たない人たちも一定数いるような気がします。そこから逃げたい人に寛容な地方があってもいいと思います。

私は地域とスポーツの仕事をしていますが、逃げることも受け入れるその精神が、地域にとってもスポーツにとってもいい影響を与えてくれるのではないかと考えるようになってきています。具体的にはまだこれからですが、時折読み返しながら考えていきたいです。



自分の真意を相手にベラベラと伝えるだけが友情の行為ではないということさ。それがわたしの提唱する真・友情パワーだ…(キン肉アタル)