旅楽団 40


第五楽章
『僕たちの強い強い気持ち達』
【40 銀鱈狐の暴論劇場】


光る体を持つ美しいものは、僕らの浸かっている水槽の前でいったん走っていた足を緩める。
そしてその場で光り輝く体をブルブルっと一度震わせたんだ。
そうしてその光輝く体を持つものは、ゆっくりとその長い舌をチロリチロリとやった後、僕らが入っている水槽の前にやってくる。
光り輝く体を持つ美しい生き物は、あたりに蜘蛛たちの姿が見えないのを見ると空を見る。
「あぁぁ、何だいこりゃぁ?ちくしょうめぇ!闇蜘蛛たちめぇ!全く役にたちやしないぃ!あいつらの魂ぃ!一匹残さず食いつくしてやるうぅ!」
光り輝く体が、光をあたりにまき散らす。
けれど暗い目のあたり。
何かを見ているようで何も見ていないよう。
瞳があるのかもわからない。
ただただ、黒く暗い目のあたり。
何かに塗りつぶされたようなそのあたりが、僕らの水槽に向けられる。
「ところでぇ…。お前らはなんだぁ!!」
僕はその一喝で、手足をばたつかせるんだ。
怖い、怖い、怖い。ビシャビシャビシャ。水面が波立つ。
マイタケ…。水面の上にプカプカ浮いて。
マイタケ…。波立つ水面にゆらゆら揺れる。
やばいよ…。怖いよ…。
体が震える…。何なんだよあれ。
「おぃぃ!おまえたちぃ!お前らは何だって聞いているんだよおぉ!!」
そう言いながら、口を大きく開ける。
僕らなど、ひとのみにできそうな口の大きさだ!
僕は、もう固まってしまう。何もできない。
「ん。んん」
僕らに顔を近づける。息がかかるほど近くに。
そして続ける。嫌な言葉を嫌な温度で。
黒い目のあたりにのみこまれそうになる。
「あぁ、お前らかぁ…。知ってるよぅ、知ってるぅ…。おまえらさぁ。キューポラの木の所にいたろぉ。鬼滝つぼのぉ…。あぁぁ、あいつらだぁ…。小腹がへってよぉ。キューポラの木でも食いに行こうと思ってよぉ。気の上にいた時よぉ。クックック面白い見世物だったねぇ。でもよぉ…。でも、お前らの中でもよぉ。いるじゃないかぁ。俺はあいつに目をつけていたんだぜぇ…。お前らじゃないんだよぉ。だからわからなかったぁ。あいつだよ、あいつぅ。あのうまそうなピエロのコドモォ…。あいつの事はちらちら観察していたのさぁ…。うまそうだよなぁ…。あいつぅ…。いつもいつも強がっていてよぉ…。ああいうのがうまいんだよなぁ…。そろそろ出てくるころじゃないのかぁ?すぐに連れて行ってやるよぅ。そう伝えておくれよぅ…。俺様は弱っているやつがわかるのさぁ…。鼻が良いからねぇ…。ビスビス泣いているやつはよぉ…。うまそうでうまそうでぇ…。お前らを見かけるたんびについぃ「ウォゥォゥォゥォゥ」って、叫んじゃったよぉ。あのピエロのコドモはよぉ。一通り終わったらデザートに頂くつもりなのさぁ」
暗い目のあたりは、水の漏れているのに気が付いたのか表情のない表情を曇らせる。
「さてぇ?ん!おいぃ!水が漏れているじゃねいかぁ!お前らがやったのかぁ!」
そのころには、水槽の水はほとんど抜けていたんだ。
光り輝く体を持つ美しい体の持ち主は、光る毛を逆立て話続ける。
「それはなぁ…、俺様がぁやっとの思いで見つけてようぅ…。病気をまいて、だまし取ってようぅ…。闇蜘蛛をだまして夜蜘蛛を連れてこさせてぇ…。夜にして、やっとの思いで貯めたものなんだぞぉ!俺のところに誰も来られないようネイクラまで沢山ようしてぇ…。貯めたものを使って、演奏会に出てよぉ…。無理やりにでも優勝してやるつもりだったのにぃ!そうすりゃ、お前たちは舞台の下で、悔しくて悲しくて呆然となるだろうぉ…。そうすりゃお前らみたいなやつらはぁ…。ありとあらゆる夢やら希望やら努力の詰まった結晶とやらがぁ…、ユルユルと外に出てきただろうさぁ…。そしたらそいつらを全部たいらげて、魂までもいただいてやろうと思っていたのにぃ…。お前たちの悲しむ顔、絶望している顔、打ちひしがれている顔そんなものを見ながらぁ…、ヘラヘラ楽しみながらムシャムシャガブガブお前らの夢やら希望やら努力の詰まった結晶とやらをよぉ…、食い尽くしてやろうと思っていたのにぃ!」
水槽の水はほとんど抜けてきている。
マイタケはその水面にまだプカプカも浮かんだまま。
水槽に落ちた時に僕のランドセルから落ちたのだろう、トンビの親分に貰った壁ツチで出来たクラリネットも浮いていたんだ。
この水槽の水に浸かっていたせいか、土はところどころ剥げている。
剥げている部分に目が留まる。
息をのむ。
銀色に光輝いている。
僕にはその銀色に見覚えがある。
間違いない。
練習の時から何年も一緒だった…。
「ぼくの、くらりねっと…」
クラリネットを手にとる。
壁ツチはポロポロ剥がれ落ちる。
銀色はますます強くなる。
全ての壁ツチが剥がれ落ちたクラリネットは、自分を取り戻したかのようにあの懐かしい声で、
「遅いよ…。気が付くの」照れくさそうに僕に言ったんだ。そしてクラリネットは続ける。
「さぁ、面倒くさい事になる前に、あいつに聞かせてやれよ」って。
僕の頬に、光り輝く体を持つ美しい者に脅かされた時には流れなかった熱い涙が伝わっていた。


ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん