旅楽団 44

【44 マイタケのポテンシャル(スーパーコンピューター編)】


タクトは、僕たちの呼びかけに答えなかった。
一つだって…。
チリチさんは頭を抱えてしまっているし、マイタケは必死に何かを考えている。
僕はと言えば、倒れてしまった仲間の、チビッコいピエロの子を起こそうと
「ねぇねぇ。ぶ。ねぇねぇ。ぶ」って、繰り返すことしかできなかった。
タクトの息は詰まってしまっていた。
文字通り吸ったり吐いたりしていない。
けれどチリチさんの話では、この世界の死をつかさどる羊はまだ現れていないのだという。
それでもこのまま、ほうっておいたら間違いなく死は訪れてしまうだろうとのことだった。
そんな時に、先ほどからこちらの様子をうかがっていた飛脚のお兄さんが
「こんな時に、何なんですがね。トンビの親分から君に届け物があってね………」
僕は彼の話の最後に「ね」が付くたびにタクトをちらりちらりと確認してしまった。
そうだね、僕は飛脚のお兄さんの話をほんの少しも聞いていなかったのだ。
それでも彼は必死に何かを訴えかけていたんだけれど、やっぱり僕の耳には届かなかったんだ。
気が付いたときには僕の手の上には一本の書簡が乗っていた。
まわりを見渡しても飛脚のお兄さんの姿はもうどこにもない。
マイタケは僕の手からその書簡を取って広げる。
「ふーん」読みながらそんな声をあげたマイタケは、唐突に僕の頬をぶったんだ。
ビックリした僕は
「な、なにするんだ!ぶ!」その言葉にマイタケは
「いいから、膨れているまえにこれっ!これよんでよ!」涙をホロホロこぼしながら
マイタケは書状を広げる。
僕に見せるように。
「ぶ?」その音に、マイタケは
「ん?」僕はマイタケに
「僕難しい字が読めないんだ。ぶ」そう告白するとね。
マイタケの涙はいまだ止まらなくてね。
だけれど口元を緩ませてね。
「じゃ、じゃあ僕が代わりに読むよ。聞いていてね」
そう前置きをした後、マイタケは一気に書状の内容を読み始めた。
書状を読むマイタケの表情はどんどん明るくなっていく。
奥で頭を抱えていたチリチさんはマイタケの声に頭をもたげる。
こちらに集まってくる。
タクトの横に。
いつかの様に僕らは三人頭を寄せ合って、夢中でその書状を見ていたんだ。
マイタケの話は、まずクラリネットの事が長々と書かれていてね。
やっぱりクラリネットは最初からクラリネットで、気が付かなければ壁ツチの中で腐ってしまったはずだとも書かれていた。
そして。そして肝心な部分に差し掛かった
追伸として。
こんなことが書かれているのだそうだ。
「追伸 あのチビッコいピエロの娘はどうしたかな?あの子は病気にかかっていたから心配をしていたのだが。まぁ、処置と羊にさえ気をつければ問題はないからね。この子の病気は、地面に心配をかけるとなってしまうものだからね。どうしてもどこかで発症するのだけど。あの一族にはよくある病気なのさ。病名は『グリヲ』ってものさ。しらべてごらん。かしこ」僕はマイタケに聞いたよ。
だってどこが良かったのか、てんでわからなかったからね。
「それで、タクトはどうしたらいいの?」マイタケの涙はいつの間にかすっかり乾いている。
「なんでそんな馬鹿な質問をするんだい?タクトはこれで助かったってのに」
チリチさんと僕は顔を見合わせて
「わかる?ぶ?」首をかしげて、そう言いあったんだ。


ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん