旅楽団 43

【43 夢拍子】


不思議な夢なのさ。
それはどんな夢かというとね。
歳末セールのくじ引きをやっている夢だったんだよね。
オリの順番になって、あのガラガラを回すのさ。
「2回引いていいよ」って、言うおじさんの掛け声に合わせてオリは、2回ガラガラを回すんさ。
特賞は2個、金色のタマが出ればいいんだってさ。
ガラガラガラガラ回すと、コトリと球が落ちたんだよね。
出たタマの色は金色だったのさ。

そのタマが落ちるとさ。
あたりは墨を塗りつぶしたかのように、真っ暗になるのさ。
そしてそこにスポットライトが音を立てて、灯りだすのさ。
2つ、3つ、4つとね。
そこに浮かび上がるのは、マジシャンの女の人でね。
華々しいショウを、華麗にやってのけていくのさ。
アシスタントの兄弟達かね。
まわりで彼女をサポートしているのさ。
清々しいまでの素敵なショウをね。
観客は、マジシャンのネタを見破ろうと、一つ一つの動きを片時も目を離さずに見守るのさ。
けれどマジックのタネは絶対に見破られないのさ。
観客はわからないタネに、平伏して崇めると最後に拍手を送り続けるのさ。
中には感動に涙を流すものまでいるくらいさ。
それはもう舞台に立つものならだれもが夢見る光景だったのさ。
きっと鳴りやまない拍手に、あの女の人は震えが来るくらいに感動しただろうね。
あのおじさんの声が聞こえてくるのね。
「もう一回だよ」その言葉にオリは、もう一度ガラガラを回す。
ガラガラガラガラ回して、タマが落ちたんだよね。
出たタマの色は又金色だったのさ。
何だか夢のような話だったのさ。

あたりが暗くなるとね。
スポットライトが音を立てて、灯りだしていくのさ。
2つ、3つ、4つとね。
ステージにてんぷらやま楽団の人たちと見慣れないでっかいピエロの女の子が居たんだよね。
そばに歳を取った昭和さんまで居たのさ。
どうしたわけだか、てんぷらやま楽団のみんなはさ。
みんな歳を取っていてね。
マイタケはさ。
マイタケは凄く大きくて、ソロバンを4つ使ってソロバンの上に乗っていたのさ。
楽器に使っているやつも数に数えると、ソロバンを5つも使っていたね。

あれ?何でオリはあの大きな亀がマイタケだと思ったのだろうね?

チリチさんはさ。
チリチさんは、もう一つの自分の楽団のリンゴアップルパイの休みの時に来てくれていてね。
リンゴアップルパイと言えば、てんぷらやま楽団とのセッションライブを行ったりしていてね。
2つの楽団が同時に違う曲目を始めてしまうとね、チリチさんは凄く困った顔をしていたのさ。
それでも何とか間に入る曲を、叩きだすとね。それはそれは、2つの曲が1つの曲になって見事なものが出来上がるのさ。
それはすごく面白いものだったのさ。

おや?何でオリはそんな事を知っているんだろうね?

子豚はさ。
笑っちゃいけないのだろうけれどね、人になっていたのさ。
それがね、スマートですごくかっこいい人なのさ。
ファンの子がギャーギャー言っちゃうくらいに人気が出ちゃっているのさ。
これが笑っちゃうくらいにね。
笑っちゃいけないのだけれどね。

うん?何でオリはあの人を子豚の成長した後の姿だって知っているのだろうね?

見慣れないでっかいピエロの女の子はさ。
バンジョーを持っていてね。
左利きで演奏するのさ。
1曲目に演奏し始めるのはノリが良い、彼らのお得意のすごくカッコいい歌だったね。その曲はさ。
『まず手始めに歌うにはちょうどいい歌』って言う、おなじみの名曲だね。
観客はその曲を演じるとさ。
物凄く騒ぐんだよね。
あのピエロの女の子は、とても気分がよさそうに演っているよね。
ずるいよね。

おじさんの声が聞こえるのさ。
「あれ?金色はひとつだったはずだぞ?なんで二つも出るんだ?どっちがあたりだ?どっちもあたりか?そんなことあるか?あるはずがない!選ばなくてはいけないよ」
オリは思うのさ。
あたりはどっちかね?
両方とも当たりのような気もするしね。
両方ともはずれのような気もするんだよね。
でもさ、どちらも楽しそうだね。
おじさんの声が聞こえるのさ。

「もういちどだ。もう一度引いてくれ」
オリは、またガラガラを回すのさ。
今度はすぐにはタマが出ないのさ。
ガラガラガラガラガラガラグルグル。
ガラガラガラガラガラガラグルグル。
そのガラガラからは、いつまでもタマは出ないのさ。
だから、グルグルまわすのさ。

遠くで誰かがオリの事を呼んでいるよね。
呼んでいる声の方向に振り向こうとしてね。
泥だか土だかが口に入ってくるのさ。
口の中に苦い何かがさ。
無理やり押し込まれてくるのさ。
ぺっぺってやりたいのにさ。
口が動かないのさ。体が動かないのさ。
ぺっぺってやりたいのにね。
口の中が苦くて苦しいのさ。涙が頬を伝わっていくのさ。
ぺっぺってやりたいのにね。
苦しいのさ。つらいのね。
ぺっぺってやりたいのさ。

誰か、たすけてよ。

ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん