九官鳥(11)
百二十日目(夕暮れの風景)
「それは、自分たちで決めることではないの?」[リンドウ]に質問した答えをあたしは吟味した。
つぶやく。
あたしの言葉にしっくりこなかったのか[リンドウ]は困った顔をする。
「病院ってところで、治療をするっていうのはさ。自分の寿命を延ばすものではないのかい?」
「すみません。お言葉ですが、[先生]例えば[先生]には大事な方が居ませんか?その方がもしも病気や怪我で大変なことになったら…。それでも[先生]は、[延命]だとか[治療]だとかを否定しますか?」
初めて[リンドウ]はあたしの言葉に反論して見せたのさ。
いや[リンドウ]が言ったのは反論ではなく質問だったのかもしれない。
あたしの大事なものに興味があっただけだったのかもしれない。
あたしと言えば、その問いについてしばらく思いを巡らせていた。
ひとり巣に残してきた大切なものの事に。
「すみません。[先生]![先生]!大丈夫ですか?どうしてしまったんです?」
あたしはその声で我に返る。
「あぁ、大切なものの話ですよね。あたしたちも大切なものにできる限りの事はしたい。それがあたしの正直な感想です。多分生きているものすべての者たちのテーマなのでしょう。あなた方もそうやって最低限の[延命]を繰り返していきついた技術なのでしょう。すごいとも思います。それでもあたしたちは必要以上の技術を求めることはありません。なぜならそれには無理があるから。あたしの言うところの無理と言うのは、小さい話ではなく大きな話の意味でね。あたしたちは、生まれてからすぐに最後の時の事を思い感じながら生きています。と、言うのも生き物は人生に折り合いをつけながら生きて行かなくてはいけないのではないかと思うのです。例えば、あなたが病気になると誰かがそれを治す。他のだれかが怪我をすると誰かがそれを治す。治すためのものがいる。それを人間はどんどん作る。作らなくてはいけない。誰かを治すために。それを作る為に、それを作る所では、それを作るためのものを運び込まなければいけない。そうすると運び込むためのものが必要よね。そのサイクルの中であなた方は、あたしたちの生活の事などを気にしたりはしているのかしら。あたしたちに害悪が及ばないように考えているのかしら?もっと言えばあなた方はあなた達以外の他の生き物の[生活]などは[延命]などは[治療]についてはどう考えているのでしょうか?あたしたちにはあなた達の技術は必要ない。自然とともに生きているから。乱されなければ、乱されることもなかったでしょうに」タイミングよく、研究室の壁にかかったアラームは、あたしのおしゃべりが終わるのを待っていたかのように鳴り出した。
南側のあたしの大好きな窓が紫色に染まる何時もの時間。
少し紅い髪の人間は寂しそうにその部屋を後にする。
研究室の入り口の扉の上に取り付けられた、赤いランプが彼女の退室とともに消える。
今日もまた終わる。
ひとり巣に残してきた大切なものを思う。
最後の時の事を思い感じながら。
ひとまずストックがなくなりましたので これにて少しお休みいたします。 また書き貯まったら帰ってきます。 ぜひ他の物語も読んでもらえると嬉しいです。 よろしくお願いいたします。 わんわん