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「答え合わせ」の旅⑧

鬼門・Schiphol空港

オランダの玄関口・Schiphol(スキポール)空港は私にとって鬼門だった。
到着ロビーについた私はキョロキョロしながら、本当に着いてしまったなぁと自分の行動力と勇気に感服する。もちろん誰も迎えてはくれない。

まずは欧州では貴重なトイレチャンスを逃さず、一度今日の予定の復習と心を落ち着けよう。清潔感は十分だがシンプルなトイレのつくりを見て、日本のトイレの綺麗さを思い起こし、やれやれ欧州でまだこんなものかと鼻で笑う。その鼻がこの後へし折られるとも知らずに。

ちなみに到着1日目、時刻はお昼12時ごろ。残り半日ほど。
■本日の予定のご紹介
①ホテルへ向かう
②チェックインしてホテルへ荷物を置く
③ホテル→アムステルダム中央駅→バスでザーンセスカンス村へ行く(風車村)

■続いて空港で手に入れたいチケット類のご紹介
①Iamsterdamカード
使用日:翌々日
用途:アムステルダム市内の交通機関乗り放題、運河クルーズ、各種施設入館フリー、もしくは割引

②1DAY AMSTERDAM&REGION TRAVEL TICKET
使用日:本日
用途:ホテル⇔アムステルダム中央駅のトラム、
アムステルダム中央駅⇔ザーンセスカンスのバス

③バスチケット
使用日:本日
用途:空港からホテルまで

上記は日本でいえば東京駅とほぼ同義のアムステルダム中央駅(Amsterdam Centraal station)に行けば全部買えるらしい。
でも空港からホテルまでのバスの道中で駅には通らない。
てことで、できるだけ空港で買って今後の計画を円滑に進めたかった。
旅前から懇意にしていたoranda.jpの情報サイトをスマホで見返したが、空港で買えると書かれたものの空港のどこで買えるのかわからず、空港のマップを見てもよくわからなかった。
このスキポール空港、駅と直結なので一度駅の方の窓口かな、と推測つけてそちらへ足を進めることにした。③のバスチケットは空港外に売っているのは調査済み。①②をまず手に入れたかった。

このエッセイを書くために画像を見返してるが、到着からチケット購入までの間のスキポール空港の内部の写真が一切ない。急いでたのもあるけど、なんていっぱいいっぱいだったのだろうと同情する。

駅側に着いた。ウッドデッキのような床はなんて趣のあるつくりだろう。Informationがあった。よしまずはあそこで聞こう。
小さな小屋の中に、黒人のお兄さんが座っていた。
頭の中でシミュレーションした
「Where can I get Iamsterdam card?」でまぁ間違ってはないよな、と2,3回頭で復唱し聞いてみた。
お兄さんは顔をしかめた。
「あんだって?」と眉をひそめ聞き直される。
わお。
「ア、アイアムステルダムカードッ!」と自信を無くしながらもう一度。
わかってなさそうな顔とジェスチャーだったが、
「あっちじゃない?」と駅の窓口を指さした。

案内されたというよりあしらわれたようだったが、言われるままに駅の窓口へ向かった。実は私もそうじゃないかと思ってたんだよね。やっぱりこっちか。
さほど並んでいない列に並んだらすぐに2つある窓口の白人のおばあさまに呼ばれた。
「Can I get Iamsterdam card?」と伝えたらまた「What?」と聞き返される。キャナイゲット~の発音が伝わってるのかも不安だったが、向こうだってチケット名さえ聞き取れればピンと来るはずだろう。

まさか。
私は欲しいチケット名すらこの国で通じない発音力しかないことにここで気付く。お互い困ったなという顔を無言で見つめ合って、通じないなら見せた方が早いかと、慌ててスマホのoranda.jpのサイトにアクセス、スクロールして画像を出す。縋る思いでIamsterdamカードの画像を水戸黄門の印籠ばりに見せた。これでどうだ。

おばあさまは印籠を見て「はは~~」と言ってひれ伏しはしなかったが、やっとこのアジア人が伝えたいことが1mmは伝わったのか「○×△☆♯♭●□▲★※」としゃべってきた。
そこで私はもっと大変なことに気付いた。

なんにも聞き取れない。

会話って、そうか。さっきのキャナイゲット~みたいに聞きたいことは事前に文法を頭でシミュレーションしたり、自信なければスマホで翻訳して当たりをつければいけるかぁと思ってた。けど、”聞く”がもう無理じゃん。
日本でぬるま湯に浸かっていたことを痛感する。生の英語ってすごい。

いやいや感心してる場合ではない。
説明されてるのにわかんないってもう詰んでいる。こちらこそ「はは~~」ってひれ伏したい。
おばあさまの唱える呪文は一切わからないが、首を横に振る様子で、(意訳:「ここではそれは買えないわ」)と言われてる気がした。私は確認したくてここという意味で下を指さし上下に揺らして
「No,here?(ココ、ムリ?)」と聞く。ダッサ。
それを受けておばあさまのターン。「○×△☆♯♭●□▲★※.○×△☆♯♭●□▲★※」
今度もなかなか長い呪文だ。ここまで長いともっと響いてこない。
しかしばあちゃんごめん、何一つ聞き取れない。
呪文の中に唯一聞こえた(気がする)stationという単語が、(意訳:「ここじゃ買えない、それはアムステルダム中央駅ね」)と断られてる気がする。
立ち行かないので泣きそうな顔で「OK,Thank you.」と答え、その場を逃げ出した。
呪文はこうかばつぐんだ。しっかりと私の心に大ダメージを与えることに成功していた。ひんし。もういい、戻れ!とモンスターボールにしまわれたかった。

ちなみに彼らの名誉を守るためと解説のためにお伝えするが、オランダの公用語はオランダ語。しかし、非英語圏での英語力(第二外国語としての英語力)は世界一位とも言われるくらい英語が通じる国だ。だから英語が話せれば問題ない。問題あるのは私の方。

異常に信仰しているoranda.jpには空港でもチケットを買えると書いてあった。断られたが、しっかり伝わった確証もない。
「いやいやここに空港で買えるって書いてあるんだけど」とか
「Informationでここで買えるって言われたんだけど」って抗議できる英語力も持ち合わせてない。
もしかしたらおばあさまも「今は買えなくなったのよ」と説明してたかもしれないけどわからなかった。
コロナでいろんなことが変わったし、前は空港で買えたものも、いまは駅だけなのかもしれない。情報は日々変わる世の中だ。でもでも本当に買えないのかな。
諦めたいところだが、ここで買わねば全ての計画が崩れてしまうのだ。

またInformationへ戻る。さっきの黒人さんも私の言ってることを理解してなさそうだったし、今度はちゃんとチケットの画像を見せようと決めた。
画像を見せたが黒人さんは「だからあっちだよ」とまた窓口を指す。「No,no(あっち行ったけど買えなかったんだって)」と伝える。何言ってるかわからないとジェスチャーまでされる始末。
「あっちでは買えないと言われた」すら私はすぐに英文に訳せない。もどかしい。スマホの翻訳機能に頼ろうかと思ったが、それさえスムーズに使えない気がしてやめた。

同じ案内係のベンチコートを着た金髪ポニーテールのお姉さんが私たちの押し問答に首を突っ込んでくれた。お姉さんは、画像を見て泣きそうな私に
「OK,カモン!○×△☆♯♭●□」と言い、(意訳:「もう私がついてってあげる!絶対買えるからついてきて!」)と先陣を切って駅の窓口へ歩き出した。
嬉し涙が出そうになった。そうだ、ここはオランダ。私が20年以上も愛した国。やっぱ捨てたもんじゃない。安堵の笑みを浮かべお姉さんの後に相棒をゴロゴロ引き連れついていく。
お姉さんはさっきの窓口の列の先頭に私を連れてきてくれた。ここはさっき心がへし折られたトラウマの場所。だが、いまは違う。私には心強い交渉人のお姉さんがついている。
安心しきった顔をしてる私に、お姉さんは「じゃあここでその画像みせて聞いてみなさい」と言い放ち、Informationへ戻ってしまった。

うそやん。

一緒に交渉してくれるもんだと思っていた私は、口をあんぐり開け、詐欺か盗難にでも遭った顔をしていた。いやいやここ並んだらまたさっきのおばあさまに同じ画像見せて聞くから結果同じやて。
おいおいおいおい、せめてもう一人のおじいちゃんの方の窓口よ、先に空いてくれ..と願っていたら、見かねた神様がそれだけは願いを叶えてくれた。
おじいちゃんにこちらへどうぞ、と言われた私はもう画像を見せて「Can I get this ticket?」と聞く。もうあのカード名称を口にするのはやめだ。通じねーもん。
おじいさんも「○×△☆♯♭●□▲★※」と呪文を唱えてくる。
どうもここには魔術師しかいないようだ。
チケットを取り出してこない様子からやはりここでは買えないと言ってる気がした。なにも聞き取れない説明の中に「Amsterdam centraal station」と一瞬聞こえた気がしたので駅名を復唱し語尾に?をつけて聞き返す。「Yes」と深く頷いてきたので私はもうアムステルダム中央駅でしか買えないと理解することにした。諦めだ。「Thank you.」と伝え、離れたInformationの方向を睨みつけこの場を去ることにした。

空港でこんな調子でこの旅すべて大丈夫?という心配が津波のように襲う。
もうホテルしか私の居場所はない。ホテルでずーんと落ち込みたい。オランダで行きたいとこなんてホテルしかない。ホテル着いたらもう帰国日まで外へ出なくて結構。というところまで気持ちが落ちたので、ホテルまでのバスに乗るため空港の外へ出た。

一旦空港と記念撮影を。撮れた写真を確認すると笑顔だった。
そりゃ海外の風景をバックにして自撮りするなら笑顔で撮るに決まってる。これだけ見たらなんて楽しそうな海外旅に見えることだろう。本当はこの小雨の降る曇った空のように私の心は暗く深く沈んでいるっていうのに。写真は何も伝えてくれない。
なにがスキポール空港だ。全然好きじゃない。キライポール空港だ。

スキポール空港で天を仰ぐ

薄曇りの雲の下、天を仰いだ。
こんな20年も愛してたきたってのに。
オランダ王国よ、とんだ洗礼をしてくれるな。
私の心の空はこの先晴れるのだろうか。