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「答え合わせ」の旅㉔

伝え忘れた「サヨナラ」

スキポール空港に帰ってきた。
空港からなかなかに離れたバスの降車場からの距離が涙を乾かすには丁度よい距離だった。

ここからとうとう移動。
彼女との二人きりの会話は過去の因縁に決着をつけたような爽快さをもたらす。
現実に向け、気持ちは切り替わってくれた。

まずはロッテルダム行きの列車の時間。
9292では、30分後に来る予定のものがcanceledとなっている。
へー、こういうときcancelって受動形になるのかぁ、そっかぁ電車が主語ならそうだよね。え、cancelledって最後のL重なるんだっけ?canceledじゃないっけ?アメリカ英語とその他英語で違うのかぁ!へー!
違う違う。英語のお勉強時間じゃないって。
肝心の遅延理由はオランダ語。ドア故障か?

不安でとったスクショ

一応全線停止とかではなさそう。1時間後には来るとなっている。信じるぞ。異国の遅延って怖い。

まだ荷物は預けたままでいいか。
そうそう、行きの空港で出会っていたミッフィー。帰り買って帰るからねって約束してたのだ。私にとってはこの組合せ反則級な衣装を纏った子を手に入れる。
明日はこの子と一緒にサッカー観に行こう。

相変わらずそんなに食べてない旅だが、オランダ生活にさすがに慣れつつあること、キューケンホフでなにも食べなかったこと、この待ち時間が合わさるとさすがになんか食べるか、という気になる。
クロケット発見!食べよう。
クロケットは日本でいうコロッケ。日本のコロッケと違うのはクリームコロッケなこと。
単品?サンド?と多分聞かれ、うーんサンド!で。
ここにつけるソースも選べたみたいだが、向こうのアルバイトの女の子も各種ソースの説明がこのアジア人にわかる程度の英語には変換できず、伝わってないなぁという決まりが悪そうな顔。
そんな顔しないで。私も醤油の味の説明なんてできないから。どんな味?って聞かれると説明難しいよね。
7EUROを払い出てきたのがこれ。

クロケットサンド、7EURO也

フードコート方式にベルを渡された。ベルが鳴るのを待ってる間に7EUROを計算。約1,000円。
…やはりそうよね。私の概算でもそう出てた。
ベルが鳴り強烈に振動した。
コロッケがコッペパンにポンと乗っかってるものを受け取って早速一口。つめたっ。コッペパン冷た。コロッケはえーっと、うん、まぁうまい。
日本で値段をつけるとしたら?物価高を考慮しても税抜き200円でお願いします。じゃないと売れません。
世界の山崎製パンを知ったらここの国民たちはぶったまげるんではないだろうか。え?うまっ!!!これが数百円?!!と目玉飛び出して椅子からひっくり返ってしまえ。
日本人よ、その食の質の高さへ誇りを感じ、その当たり前の環境に感謝を抱け。遠く風車とチューリップの国から私はサムライ、アニメの国へ念ずる。

そろそろ。余裕をもって準備をね。
預かり所へ行き、大事に持ってた預り証を引き換えに相棒たちが手元に戻ってきた。

スキポール空港のウッドデッキ調の床をギシギシ踏みしめ、券売機の前に立つ。この不安感の薄さは列車に乗ってユトレヒトに行った経験によるものだろう。
スラスラとタッチパネルを辿る指に頼もしさを覚えたのも束の間、RotterdamCentraalStationを押すと2routeあるよ!どっちから攻める?と選択を迫ってきた。

は?聞いてない。知らんがな。着けばどっちだっていい。なにこれ。さっき止まってたから迂回ルート?なんなの?
会社のパソコンでも変なエラーが出たら一回×を押してスルーできるか試してみる派の私は、一回この操作をキャンセルし、券売機を変えてみた。
RからRotterdamCentraalStationを選択する。
券売機は2ルートあるよ!どっちにしよっかね?とまた聞いてきた。だから知らねぇって。
しかも金額違うじゃん。なんなの。9292を見てもどっちルートなんて書いてくれてないし、金額もどっちのルートとも合わない。
もちろん安い方を選択したいが、これで私の乗る予定のものがルート違ったらキセル乗車だーー!!アジア人逮捕ーーー!なんて展開が起きたら。
想像するだけで震える。
画面とにらめっこの末、高い金額を選択。これなら間違ってても罪に問われることはないだろう。

商売上手の券売機は、アジア人に見事に高い券を買わせることができて満足だったのだろうか。切符を2枚も吐き出してきた。
おいおい。勘弁してくれ。なんで2枚も出すんだ。どっちをかざせばいいのかわかんないだろ。

スキポール空港の駅には改札がないので、切符をタッチするリーダーだけポツンと突っ立ってる。
二枚の内いちかばちかで選んだ1枚をかざすとブブっと拒否され、もう一枚をかざすとポーっと音を立ててくれた。信頼に足りない音だ。
Rotterdam行きのホームをでかい電光掲示板で探し、該当のホームに向かう。
下りのエスカレーター前には係員が。
二枚の切符を見せ、Rotterdam?と聞くとOKOK、このホームだ、とこのエスカレーターを手振りされる。
ねぇ、ちゃんと切符見てくれてる?私2枚も持ってんのよ?と半信半疑で二回も見せたけど、それでもOKと言ってきた。本当に大丈夫かなぁという疑念を抱きながら、未知なる街行きのホームへ降りた。

15分ぐらい待ってると無事に定刻通り到着してくれたロッテルダム行きの電車を見てホッとする。
ドアが開き、一番近くで待っていた人さえ次々追い抜かされ、誰も順番など守らず好き好きに中に入る。日本で身に付いてる美しき秩序はここでは捨て、主張強めにポジショニングした。
なぜか進みが遅いスーツケースとボストンバッグをえいやと持ち上げ、バカでかい黄色の列車に吸い込まれるよう乗り込んだ。

さらばアムステルダム。
夢見た景色を見せてくれた街。
こんなサヨナラの言葉もかけ忘れるくらい、もう気持ちはロッテルダムへと向かっていた。
列車の閉まる音は、未練よりも安堵感をもたらす。

無事にこの列車がロッテルダムへ着きますように。
アムステルダムの日々を耐え抜いたこの経験が、次の街でも活きますように。
願いを列車に乗せて次なる街へ。