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メモ帳供養その十「理想」

魚亭ペン太でございます。

こう、メモ帳を読み返しますと、その時何をしていたのかなとか、何を考えていたのかなとか、ポジティブだったとか、ネガティブだったとかわかるんですね。でもまぁ、素直な感情ですから、それを面白おかしくできたらなと思います。そんなわけで引き続きメモ帳供養にお付き合いくださいませ。

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「先輩が好きだ」

でも、先輩は「自分なんかそんな価値はない」と否定的な表情で首を横に振って見せた。

先輩は魅力的な人だ。ただそれに気がついてない。あの純粋無垢な表情に考え方。物怖じしない発言は数多の人を魅了している。

だからこそ、僕は嫉妬深くなる。誰しもが彼女の笑顔を見ることができる。誰しもが彼女の言葉を聞くことができるのが恨めしくさえもあった。

自分がそこにいないとき、誰かが彼女の感情を独り占めしていると、腹の底でグツグツと煮立った、汚い感情が今にも溢れかえりそうになる。

それを抑え込もうとトイレに逃げ込んだ僕の表情が鏡に映る。

「具合でも悪いの?飲みすぎた?」

戻ってきた僕に気がついた先輩はそっと水を差し出してくれた。

もう、これだけで十分だと僕はそれ以上を望まないことを決めた。すると腹の底の煮立ったお湯は再び冷めていくのを感じた。

それだというのに、それから僕の調子はよかった。バカみたいに酒を飲んで、バカみたいに騒いで、バカみたいに気持ち悪くなって、ついには自分はバカだなと冷静になっていた。

「これは、その酒の勢いというか」

「君もそういう卑怯なことをするんだ」

「それは……」

「ねぇ」

「はい」

「次は面と向かって言える勇気ある?」

困り顔で笑ってみせたその表情は、見上げた先にいる彼女が背負っている月より綺麗だった。

美味しいご飯を食べます。