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短編『何も気にならなくなる薬』その142

もう少しで1月が終わる。
というのも、なんとなく過ごしているとあっという間だが、日々の記録を取っているとどことなく長く感じるのは私だけだろうか。
とりわけスケジュール帳には些細なことを書くようにしているが、ざっくりしていて、一週間前のことはうろ覚えになる。
しかし、朝昼晩。三食全てを記録に残すと記憶が意外と鮮明に思い返せる。

食事は人生の大部分を占めている。
ダイエットをしていなくても、何を食べたか記録するのは良いことなのかもしれない。
相変わらずの鍋生活が続いている。
この前はトマト鍋をやってみた。
コンソメベースでトマトの酸味がいい。
残ったものにカレーフレークを入れて、カレーにして食べるのも良いかもしれない。
ここでまたカレーのkcalを調べてしまう。
便利な世の中だ。
昔はこうも簡単にカロリーだの栄養素だの調べることはできなかっただろうに……
文明の利器を活用できる現代だからこそ、やはりダイエットに成功するか否かは本人の努力と言う事か。

「幽霊文字」

「腹筋」

「日本侵略」

今回はこの三つ。

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「なにこれ、ふにゃふにゃの字」
「あ、これ、筋トレで腹筋を鍛えながら書いたから」
「そういうの、二頭追うもの一頭も得ずってやつでしょ、どっちかに集中すればいいのに」
「プランクしながら書くと脇腹の辺りにくるんだよ」
「そう、それで?結局これは何を書きたかったの」
「なにって、買い物リストだよ」
「買い物リスト? トイレットペーパー、ティッシュ、このあたりはわかるけど、ここのこの文字なに?」
「何って、ん?なんだコレ」
「なんだコレってあなたが書いたんでしょ」
「たしかに買い物リストはそうだけど、こんな漢字書いた記憶ないぞ」
「ちょっと変なこと言い出さないでよ」
「なんだったかなこれ」
「にほんしんりゃく?」
「なんで買い物でそんなこと書かなくちゃいけないんだよ」
「もしかしてこれって幽霊文字」
「何だよそれ」
「ほら、誰も知らない文字ってあるでしょ。幽霊みたいだから」
「それがどうなるんだよ」
「みたら不幸な事が起きるって」
「おいおい、そんなの子供の間で流行るような遊びじゃないか」
「でも、今日だって、唐突に雨が降って洗濯物ダメにしちゃったし、それにコーヒーカップが割れたでしょ」
「それは偶然だろ」
「ただいまー」
「おかえりって、ちょっと、なんでそんなに泥だらけなの」
「砂場ゴロゴロして遊んでたら急に雨が降ってきて」
「いいからすぐにお風呂入りなさい。もー、どうしてこうなるのよ、どれもこれも幽霊の仕業よ」
「お前、そういうの信じる口だったのか?」
「なになに?幽霊が出たの」
「そうなのよ、幽霊が買い物リストに落書きしたの」
「買い物リスト?あっ、それ僕だよ」
「えっ、そうなの?」
「そうだよ。アニメの悪者が世界中に日本侵略のメッセージを色んなところに残すんだよ。だから僕も手伝ったの。周りの字に似せるとバランスが良くなるからパパの字をマネしてみた」
「なんだ、そうだったのか、じゃあ、この買い物リストのチョコレートもそうか」
「それは違うよ」
「今になって、そんな事言うのか、はっきり言ったほうがいいぞ」
「違う違う、僕じゃない」
「じゃあ、誰が書いたんだ?」
「やっぱり幽霊の仕業に違いないわ」

美味しいご飯を食べます。