短編『何も気にならなくなる薬』その267
「自分の好きなことがお金になる」
そんな贅沢なことがあるだろうか。
お金儲けは誰しもがしたい。
そのためか世の中にはそうした心理を利用した悪質な商法が出回っている。
「自分の好きなこと」が芸術などの技術だとすればそれはお金になるべきだ。
けれども「楽をしたい」という感情の為にお金儲けを考えるのであれば
「好きなことをして」とは意味合いが変わってくる。
そんなうまい話はない。
ただお金を得るだけなら仕事はいくらでもある。
お金を得るだけならだ。
したくもないことをしてお金を稼ぐのであれば、それは人生の切り売りに似ている。
時給換算をした時に自分の人生は果たしていくらくらいの価値があるのか。
そんなことを考えると、
人の人生はお金になるほどの価値なんて殆どないのではないか。
しかし、誰かが作品を認めたり賞賛することでそこに価値が生まれる。
人に価値を与えるのは人だ。
「自分には価値がある」と大きな声で叫んだところで、
「そんなことはみんな考えていることだよ」と一蹴されてしまう。
本を買って読むことで、作者にその価値が生まれる。
画家に頼んで描いてもらうことで絵画に価値が生まれる。
映画や劇団、
人の作り出した作品は人に見られて初めてその価値が生まれる。
価値があると思うからお金を払う。
とても当たり前のことだが、自分たちもまた誰かにその価値を与えているのではないか。
美味しいご飯を食べます。