見出し画像

覚悟を決めたフロムソフトウェア

自分含む、シリーズファンが想像していたよりも、フロムソフトウェアは覚悟を決めていた。

6月8日(日本時間)から約一週間開催された大規模ゲームイベント「Summer Game Festa(SGF)」。
毎年開催されていたE3がコロナ禍によって各企業、独自配信が活発化。業界がE3という発表の場を必要としなくなったことを背景に、今年は中止に。
その代わりに注目を浴びたのが、各動画配信サイトで発表の場を作ったSGFだ。
MicrosoftやCapcomといった大手が独自配信する傍らで、ブースという形で用意されていたのがバンダイナムコ。長年フロムソフトウェア作品の販売を担当している会社だ。

今回大規模に展示されたAC6のブース(小倉PのTwitterより)

しかしこの一か月半前(4月27日)にフロムソフトウェアが独自にゲームプレイトレイラーを公開しており、その時には発売日までも発表していた。
多くの人が視聴するSGFのイベントに合わせて公開したほうが宣伝効果としても高いと思うが、SGF期間中に新規トレイラーが公開されることなく、
ようやく出てきたゲームプレイ映像は6月14日の23時。イベントもすっかり落ち着いた後だった。


タイトル表記の違い

左は日本国内向けトレイラー。右は海外向けトレイラー。

去年末のThe Game Awardsをリアルタイムで見た人と、そうでなく後日日本国内向けのトレイラーで見た人でトレイラーの内容に若干の違いがある。
それはタイトル表記が日本向けと海外向けで違うこと
日本向けではシリーズ最新作を強調するように「ARMORED CORE」の文字列が大きいが、海外向けの場合はサブタイトルである「FIRES OF RUBICON」が大きい。

このシリーズは基本的に日本での人気の方が高い、あるいは海外展開自体がそれほど積極的には行われていなかった。
なんせ現状の最新作は10年前。それこそバンダイナムコが販売を担当するようになったタイミングで、それまではUBIやセガ、アトラスといった感じで作品毎に販売が違っていた。
確かに根強いファンが国内外問わずいることは確かだが、ことロボゲーとなるとそれほど売れているタイトルを列挙することができないぐらいジャンルとして注目されていない。良くてFPSと組み合わせた「タイタンフォール」だが、あれも結局はバトルロワイアルとして定番となり世界観も共有している「ApexLegends」に注力するようになり、続編の兆しはいまだ無い。
一方国内では多くの作品を出しているガンダムの影響が大きい。
2019年には元フロムソフトウェアの佃健一郎による「デモンエクスマキナ」が発売され、ついには続編も製作が決定している。

今回の国内と海外におけるタイトルの違いは、以前記事にも書いたように、今作が海外展開の成功を狙うための取り組みのひとつと言っていいだろう。
しかしながら今回のSGFを経て、それよりもっと根本的な部分でこのタイトルを強調させたいという、フロムソフトウェア、ひいては小倉プロデューサの意志も感じた



ゼロからのリトライ

去年末に新作が発表されてからメディアは新作について大きく取りあげた。
なんせこの10年間のフロムソフトウェアの躍進の凄まじさは計り知れないうえ、AC6発表から数か月後にはタイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に岸田総理と共にフロムソフトウェアの宮崎英高の名前が載るほどなのだから
注目されないはずがない。
しかしこの10年、フロムソフトウェアの代名詞はすっかり「死にゲー」や「ダークファンタジー」という要素で染まり切っており、
過去に「くりクリミックス」や「RUNE」といったソフトを出していたことを聞くと驚く人が多いぐらいに、フロムソフトウェアの世間一般のイメージは固まっていた。
それぐらい世間と今回のシリーズ最新作は天と地ほどの認識の差があったが故に、
「ダークソウル」や「エルデンリング」とは真逆のメカカスタマイズアクション「アーマード・コア6」にナンバリングとして既知の要素が通用しなくなっているのも致し方ないと言える。

ただ発表から二か月経ったときに開催された台北ゲームショウでのインタビューをはじめ、
各所メディアでのプロデューサへのインタビューの内容は、シリーズファンの自分からすれば至極知れ渡った要素を丁寧に説明していたのだ
「ロボットをカスタマイズ」
「ミッションを請け負う」
「全てが難しいわけではない」
「カラーリングもできる」etc
実のところ、これまでのインタビューにおいて肝心の部分である操作方法やUIといった部分の言及はいまだ明確に出ていない。
それはつまるところ過去作との比較ではなく、あくまで完全新作という体でこのゲームを触れてほしいという意図が感じられた
それまで積み上げてきた定石というものがこの10年で通用しなくなった今こそ、新しいアーマード・コアとしてゼロからやり直すつもりなのだと。



難しい広報戦略?

日本時間の6月14日23時に各ゲームメディアサイトで一斉にSGF内で行われたデモプレイの内容が公開された。
この23時という日本では深夜にあたる時間での公開は、ゲームプレイトレイラーが公開された4月27日も同時刻だった。

先に述べたように海外におけるロボゲーというジャンル自体があまり目立たないことや、シリーズがそれほど海外展開を積極的にしてこなかったことから、主なプレイヤーは日本国内。
しかし海外展開も今作は力を入れている以上、今回のSGFで配信が多くされる日本時間の深夜2時のショーケースは外せないのも事実。

このことから、この23時という時間は国内海外の需要に応えるためのギリギリの時間帯であったと考えられる。
加えてトレイラーという形で出すには、話題作が目白押しのショーケースが始まる数時間前というのも分が悪い。
ここ数か月の間で衝撃度が高かったのは4月27日のトレイラーでの発売日発表だが、それをSGF期間中に日本時間の深夜2時という時間帯で発表するのもなかなか難しいだろう。
恐らくSGFが開催される1か月半前にゲームプレイトレイラーが公開されたのはこういった事情があったからではないかと考えられる。



シリーズファンも覚悟しなければならない

根本的にゲーム性が違う

今回公開されたデモ映像にシリーズファンは結構困惑している
アニメーションの追加や破壊表現、ならびにグラフィック等のビジュアル面は好評な一方で、機体制御やアセンブルなどのゲーム部分があまりにも過去作から逸脱しているからだ

従来ならば左スティックで前後移動と左右平行移動。右スティックで上下左右視点移動。昨今のFPSに慣れ親しんだ人なら極当たり前の操作方法だろう。
しかし今作のデモ映像には機体の旋回と視点移動が完全に独立しており、左右平行移動が半ばオミットされているようにも見える

今作は自機を横から見たりできる

これまでの作品であれば左右平行移動と左右旋回を使って敵を画面の中心に捉え続けるようにする操作が必要だったが、今作で左右平行移動がなくなった(厳密にはブースト移動で瞬間的に移動可能)。
左右並行移動が可能になるのは、敵を捕捉した際に起動するオートサイティング時。
つまり今作は目標に対して自動で捉え続けるオートサイティングを前提にデザインされていることを意味する
2006年発売の「AC4」にもオートサイティング機能は存在していたが機体の旋回性能以上の急激な転回にはオートサイティングが機能しない、いわゆるアシスト機能程度のものであった。

従来作品では不可能な動き

しかし今回のデモプレイによって明らかに機体性能に依存しない挙動で敵を捉え続けていることが判明した
巷でよく「ダークソウル」や「エルデンリング」に通じると言われているのはこの点だ。
強力なオートサイティングによってプレイヤーは敵の三次元行動に合わせてスティックを常に動かす必要がなくなった
しかし一方で、これは機体をカスタマイズする際に注目されるパラメータのひとつ、旋回性能が形骸化していることを意味している。

同時に、このシステムによって従来作には存在していた軽、中、重といった重量区分も大きく変更されている可能性がある。

軽い機体は素早いが脆い。
重い機体は堅牢だが遅い。
シリーズ通して共通していたこのカスタマイズ要素だが、オートサイティング前提のゲームデザインによって、重い機体が軽い機体に対して迎撃戦をする負担が一気に小さくなり、これまでの重量間で行われていた攻めと迎撃ではなく、全く新しいものになっている可能性がある。
あるいは、重量別のカテゴライズ自体が無いかもしれない
特に今作はアサルトブーストによる高速接近が容易くなったため、重い機体でも構わず接近戦を仕掛けることが出来る。そのため、機体の重さによって変わるアドバンテージ自体が無意味化し、重量毎のカテゴライズ自体が陳腐化するということだ。
現状、公開されたトレイラーやデモ映像におけるアセンブル画面からは二脚タイプに軽、中、重とカテゴライズされている様子が見られない。
(重い機体は全てタンク脚部に集約された形になるのだろうか・・・

ジェネレータに気になる項目が・・・

そして今現在、特に騒がれているのは熱量システムの存在。
2000年に発売された「AC2」から2005年の「ACLR」まで導入されていた熱量システムは(作品毎に多少の違いはあれど)敵からの攻撃によって自機の温度が上昇し、一定の温度を超えると機体にペナルティが課せられてしまうというもの。
例えば、敵の攻撃を断続的に受けてしまった場合、熱が上昇してしまうと、温度が下がりきるまで自らの耐久値が減っていったり、
後年の作品ではブースト移動をするだけで熱が上がってしまううえ、限界まで突破してしまうとエネルギーまで消費しだすという凶悪っぷりで、ファンの間では半ば嫌われていたシステム。

今回のデモ映像にてジェネレータの項目に「Cooling Speed」なる言葉があり、すなわちこれは冷却機能のことを指すのではないかというのがもっぱらの噂としてある。

この熱量システムがあるのか、無いのか、あるいはどういう形のものになっているのか皆目見当がつかないが、
これらの要素をして、現状では全部が全部、肯定的に見ることも否定的に見ることも不可能なほど、未知なる新アーマードコアとして受け止めなければならない



「借り物の翼が、どこまで行けるか」

自作ポスター

10年の沈黙も長いことには違いないが、そもそもとしてこのシリーズは比較的不安定な部分が多いものでもあったというのも事実である。
パーツバランスの悪さやゲームとしてのルールが崩壊していたこともあり、過去の作品がゲームとしてどうだったかという点について、贔屓した目で見るつもりはない。
しかしながら、シリーズとして閉塞されそうになっていたところを打破するかのうように、ここまで新しいものに変えてきたことに関しては(エラそうだが)評価せざる得ない。
これまで培ってきた部分を一回捨ててまでナンバリングを出すことの覚悟を

これが悪い結果になるのか。
大成功をおさめるのか。
「アーマード・コア」という名前を借りて飛びたたんとしている新たな「アーマード・コア」
自分はもう、覚悟は出来ている。(しかしまだPS5が手元に無い)

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?