見出し画像

JCCOキックオフ振り返り vol.2 パネルディスカッション「コミュニティがもたらす不動産的事業価値」

こんにちは。JCCOの青木です。
今回はJCCOキックオフの振り返りvol.2ということで、パネルディスカッションの内容をご紹介いたします。


vol.1をまだご覧になってない方は、こちらからどうぞ!
イベントの雰囲気が伝わるかなと思います。


概要

テーマは「コミュニティがもたらす不動産的事業価値」でした。下記の内容について、ゲストを招いてディスカッションを行いました!

コワーキングスペースもあくまで不動産事業であり、不動産事業として利益を出す必要があります。
今回、そのための仕組み(ポートフォリオ)がワークしている、2つのコワーキングスペース事業者に来ていただきました。どちらもビル1棟がまるまるコワーキングスペースとなっており、不動産事業として経営されています。
まずはじめに、①不動産事業として利益をしっかりと出せる仕組みについてのお話を伺います。
そのうえで、②コワーキングスペース運営における"コミュニティ"の価値を考えます。コミュニティがあることで、直接的・間接的に売上につながっている部分がきっとあるはずです。
さらに、ここまでの話題をベースに、③各スペース運営のオリジナリティについて伺います。

今回のパネルディスカッションでは、グラッフィックレコーディングで内容をまとめていただきました。

enspaceコミュニティマネージャーの伊藤さんに制作いただきました!


ご登壇いただいたのは、こちらの皆さまでした。

enspace様、BIRTH LAB様よりゲストをお迎えしました。

enspace
仙台市に所在する延床面積約2,000平米のスペース。㈱エンライズコーポレーション(当時)の吾郷さんが東北の経営者達の熱い気持ちに触れ、そんな経営者が集まる場所を作ろう!ということでビルを一棟購入。経営者仲間のバーベキューに参加していた吾郷さんが、同席していた可野さんに声をかけてプロジェクトが始まり、2018年6月開業。仙台の若手起業家達の"部室"のような存在です。

BIRTH LAB
麻布十番に所在する延床面積約1,000平米のスペース。従来よりオフィスビル経営を行ってきた㈱髙木ビルの、新たな事業として始まったBIRTH事業の第3号拠点です。麻布十番で長く絨毯・カーテン屋さんをされてきた会社の自社ビル兼住宅を取得し、リノベーションを経て2019年4月開業。利用者は近隣にお住まいの方々が多く、麻布十番の公民館的ポジションを目指しています。


コワーキングスペース経営における、利益を生むポートフォリオ

このテーマでは、コワーキングスペースの経営という観点から、どのようなポートフォリオで利益を生むかお話を伺いました。

BIRTH LAB 髙木さん
「髙木ビルでは、全部でビルを10棟運営しています。その中でコワーキングスペースがあるビルが3棟ありますが、ビルをまるごとコワーキングスペース・シェアオフィスとしているのは麻布十番のビルのみです。
 麻布十番のビルについては、はじめは各フロアをテナント様にお貸する形態でした。そこから徐々にコワーキングスペースを増やし、現在は9階のうち3フロアがコワーキングスペース(このうち1つは2階分で1フロア)、1フロアがシェアオフィス、4フロアがフロア貸しです。
このようなビジネスモデルのグラデーションを会社全体で、またビル単位で作ることで、市場の波を受けた際にお互いを補い、引き立て合うことができます。
 ユニークだった経験として、コワーキングの月額会員だった方の会社が大きくなり、シェアオフィスやフロアへの借り換えをいただくことがありました。利用者と一緒に成長している感覚があって楽しいですね。」

enspace 吾郷さん
「コワーキングスペース事業のマネタイズについてですが、これ単体でビジネスを成り立たせるのは難しい部分もあります。基本的には地面にお金がかかるので平米単価があり、それに対してどれだけの収益が生まれるかを考える必要があります。
 enspaceの場合は、まずはビルを取得しました。建物を購入するか、賃貸でやるかで大きく悩み、またエリアも吟味したうえでの決断でしたが、最初の2,3年は後悔もありました。想定外の部分でお金がかかり、BSを非常に重くしてしまいました。施設の購入で家賃は払う必要がありませんが、金融機関にお金を返すということが家賃見合いになったり、減価償却とどう向き合うか、原価と販管費をどうしていくか、など悩まされました。シェアオフィス・コワーキングスペースは人を置くことで逆に収益になりづらくなります。普通に不動産としてレンタルしたほうが利回りは良いわけです。そこで、地域貢献や他の事業への関わり方などを総合的に考えて事業を進めていきました。
 現在の事業ポートフォリオとしては1,2Fがコワーキングスペース、3,4Fがシェアオフィスになっており、5,6,7Fが大きめのオフィスと会議室となっています。また、フリーデスクや個室など会員プランを複数用意したり、会議室やイベント貸し、またシェアサイクルの設置などメニューをたくさん用意して、地面から出るお金+αでどのように付加価値をつけていくかを考えています。他にも入居企業様のバックオフィスを支援したり、施設運営のコンサルティングや運営委託を受けたりして、コワーキングスペース事業以外での収益につなげています。このように、縦(スペース内での収益モデルの多様化)と横(他事業への派生)の2軸でポートフォリを組んでいます。」

青木
「enspaceのユニークなところとして、個室のサイズを変えるといったこともされていますよね。昨日まで2人部屋だった個室が、急に8人部屋になっていたりします(笑)。それぞれの会員の方々のニーズに合わせて柔軟に対応することで、収益のポテンシャルが最大化されています。」

スペースをまたいで議論が交わされるシーンも、今回のイベントならではでした。


"コミュニティ"がもたらす付加価値

続いて、コワーキングスペースの"コミュニティ"が、売上へどのように貢献していくかについて、コミュニティマネージャーの皆さんにお話を伺いました。

enspace 可野さん
「enspaceの月額料金は同じエリアでの平米単価から少し高めに設定されておりまして、この金額をいただくに見合うサービス・価値を生み出していかなければならないと思います。
 実際に求められるサービスは、お客様ごとの属性によって変わってはいきますが、enspaceで大きな付加価値となっているのは、先ほども挙がったバックオフィス業務など、起業家の方々を支援するソフトサービスだと考えています。お客様それぞれのニーズに応じて、スタッフの得意領域でサービスを提供できます。
 enspaceの特徴として、スペースの運営メンバーに学生インターンのスタッフが多く参加していることがあります。そのためスタッフの入れ替わりが毎年発生し、異なるスキルを持ったメンバーがどんどん新しく入ってきます。それによってお客様に様々な価値を提供できるようになっています。バラエティに富んだスタッフたちによって、どんなお客様も受け入れられる環境になっているのが強みだと思います。」

BIRTH LAB 髙木さん
「毎年入れ替われるのがすごいです。enspaceのカルチャーを発揮できるメンバーがどんどん増えていくのは強いですよね。」

enspace 可野さん
「そうなんです。毎年7人くらい入れ替わります。現在は28名のインターン生スタッフがおり、これまでに約50名がenspaceの運営に関わってくれました。宮城県内の大学生だけでなく、山形や福島、一番遠いのは東京から通ってくれたメンバーもいました。とはいえ、教える側は大変ですし、ナレッジが積む難しさはあるので、そこだけは注意点かもしれません。」

enspaceに飾られている"歴代インターン生名鑑"。

BIRTH LAB 高木さん
「吾郷さんがおっしゃっていたように、事業領域的にenspaceの価値を広げていくということもありますが、一方でインターン生や卒業生がenspaceの人的に価値を上げているという側面もありそうですよね。」

enspace 吾郷さん
「そこは狙っていますね。様々な学年のインターン生が勤務してくれていますが主体性の高いメンバーが多いです。自ら情報を取り、自らアウトプットしていく。そういったインターン生が集まることで、大きな相乗効果が生まれます。インターン生スタッフは全員リファラルで採用できており、これまで採用募集にコストをかけたことはありません。
 そういった主体的な学生達は成長意欲が高いです。また、入居している起業家の皆さんも事業を成長させていこう、世の中に貢献しようという想いを持っています。この両者の掛け算が非常に効果的で重要な仕掛けとなっています。一見コミュニティは自然発生的に見えますが、実は戦略的に出来上がっているものでもあります。」

青木
「enspaceのインターン生が入居企業にジョインしたり、実際に起業家となったりしたケースもあります。また、卒業したインターン生で、一度他の企業に就職した後、転職してまたenspaceで勤務されている方もいます。enspaceにおけるコミュニティが広がっている例の一つかなと思います。
 そういった点ではBIRTH LABでもこれまでに良い取り組みがあったのではないでしょうか。」

BIRTH LAB 手塚さん
「BIRTH LABにも学生や副業・複業しながら働いてくれているスタッフがいて、全体的に年齢層の若いメンバーが多いです。施設の文化を伝えていくツールとして青木さんのfunky jump社が提供するTAISYを活用し、日常的なお困りごとや入居者の持つ課題を集め、その解決に取り組んでいます。そういった日々の会話を見える化していくことで、『こういう時はこう話したらいいんだ』『こういう情報が有益なんだ』というナレッジが水平展開されており、スタッフ育成に繋がっています。"BIRTH LABらしさ"や"スタッフとしてこういう動きはいいよね"というのが、強制的でなく自然と学べるようになっているのがポイントだと思います。」

青木
「TAISYの宣伝ありがとうございます!(笑) JCCOとしてはコミュニティの存在が何らかの売上に繋がっていることが大事と考えているのですが、BIRTH LABではそういった事例はありますか?」

BIRTH LAB 手塚さん
「BIRTH LABのコミュニティに対して魅力を感じていただいた例として、髙木ビルの地方自治体との連携協定をご紹介します。秋田県鹿角市様と協定を結んでおりまして、鹿角市出身で首都圏在住の若者のコミュニティ構築についてのご相談をいただいております。コミュニティづくりが価値として認められ伴走相手として選んでいただいていると感じています。」

enspace 可野さん
「enspaceでは、『エンコミュ』というイベント名で、インターン生たちが作ったカレーをランチの時間帯に、入居者の皆さまに提供する日を毎月設けています。カレーを食べるだけではなくそこではビジネスの話になるわけですが、それがきっかけとなった入居企業同士の協業事例がどんどん出ています。特に難易度の高い大手企業とスタートアップの協業が出ていることは大きなポイントだと思います。カレーランチの設計は私が行いましたが、いまはインターン生たちが主体的に運営してくれています。"ご飯を食べる"という仕事とまるで関係ないコミュニケーションから協業が生まれている、というのがユニークなところですね。入居者の方からは、『次はいつやるんですか?』と開催を楽しみにしてくださる声を毎回いただきます。」

青木
「僕はただカレーを食べてたのでちゃんと仕事の話を頑張ります(笑)。」

BIRTH LAB 髙木さん
「enspaceにおける、そういった価値観の根っこにあたる部分はどこにありますか?
 髙木ビルでは、"貸しビル会社として、ビルオーナーとして日本を元気にする"というビジョンがあります。そこから紐解いて眼の前の貸しビル事業をやるときに、『コワーキングをやったら起業家が喜ぶかもしれない』と思ってやってきました。そのあたりは熱い話になってきますよね。」

enspace 吾郷さん
「おっしゃるとおりだと思います。熱い話をする人たちが今日集まっていただいてますよね。事業もビジョナリーだったり、ソーシャル的な観点を持ち合わせている皆さんかなと思います。」

BIRTH LAB 髙木さん
「最近自分のことを"温泉"にたとえています。私自身が温泉の源泉となって、周りに熱を伝えていく。今日集まっていただいた皆さんも、BIRTH LABに触れたという意味で足湯に浸かっていただいているような状態です。(笑)BIRTH LABを運営メンバーも、そんな私の足湯に浸かった、私の熱量を共有できた人たちが集まっています。
 enspaceのカレーランチにもそれと近いような、可野さんや吾郷さんが大切にしている価値観が表出されているのではないかと感じました。」

enspace 吾郷さん
「やはり事業において、またワークスペースを使っていただく上で大切なことは人脈構築だと思います。ただ、その手段が多様になってきて何を選んでどう深めるか難しい時代になってきました。そこでコミュニティマネージャーの役割が重要になってきていると感じるんです。」

BIRTH LAB 髙木さん
「先ほどのカレーランチの例も、目的は人脈の構築なんだけども、根っこにenspaceチームの想いがあるから関わりやすい形に落とし込まれると思えました。我々もenspaceさんをよく参考にさせていただいてますが、お越しになった皆さんそれぞれのスペースにも参考にさせていただきたいことがあります。この多様性の集まりこそがJCCOが存在する理由なんだと思います。」

青木
「その通りですね。JCCOを皆さんにとってお互いの学び合いであふれる場にしていきたいと思います。」

オーナー/コミュニティマネージャーそれぞれの視点で「コミュニティ」を語っていただきました。


各スペース運営のオリジナリティについて

 ディスカッションの最後のパートでは、これまで話した"経営のポートフォリオ"と"コミュニティが生む付加価値"の内容を踏まえて、それぞれのスペースのオリジナリティについてお話を伺いますした。

可野さん
「enspaceは3つのオリジナリティがあると思います。1つ目はインターン生です。インターン生は令和の時代に昭和の教育を受けています。(笑)インターン生が運営を担っているスペースは数少ないと思いまが、彼ら彼女らによって様々なバリューが生まれています。2つ目はコミュニティマネージャーの存在です。宮城県内には40弱のスペースがありますが、コミュニティマネージャーを置いているのはそのうち5施設ほどです。3つ目は持ちビルであることです。その強みを活かして大規模なレイアウト変更を何度も行っています。毎年お越しいただく度に何かしら変わっていると思います。
 ソフト面でもハード面でも、多様性と柔軟性に富んだスペースになっていると考えています。」

BIRTH LAB 手塚さん
「BIRTH LABのオリジナリティも"人"ですね。スタッフが常にいることで様々な顧客対応ができるように努めています。また、enspaceさんのお話を受けてですが、BIRTH LABもビルオーナーということで、フロアの可変性にはこだわっています。先日新たなフロアをコワーキングとしてオープンしましたが、フレキシブルにレイアウトを調整できるテーブルやそれに合わせた電源の設置など、小さくない予算をそこに投資しました。
 また、路面店であることを活かして、麻布十番の地域にいかに根ざしていくかということがオリジナリティになっていくと思います。施設内の盛り上がりだけでなく、そこに人々が集まることで、地域全体を盛り上げられる存在になるべく頑張っています。」


まとめ

以上、パネルディスカッション「コミュニティがもたらす不動産的事業価値」の内容をご紹介しました!

筆者の青木自身も、国内外で300拠点以上巡って来ましたが、どれ一つとして同じコワーキングスペースはありませんでした。このセッションでは、コワーキングスペースごとの特徴を捉えるときに2つの側面があることがわかりました。
それは、建物自体の特徴や施設内の部屋割り、または料金プランなどの仕組みの部分である"ハード面"と、スタッフや利用者の属性や、地域におけるエコシステム内での立ち位置などによって作り出される"ソフト面"です。ハードについての側面が、直接的には売上に影響するものの、ソフトの側面こそが「コミュニティ」と呼ばれるものの実体であり、これが様々な作用で売上を押し上げる要因となっていました。各スペースでのこのようなハード/ソフト両面での違いが、全国のコワーキングスペースの個性につながっています。
たとえ規模が大きくても、小さくても、それは優劣ではなく個性です(ハード面での個性に過ぎないです)。コミュニティマネージャーの皆さまには、改めて自身のスペースの特徴についてハード/ソフト両面から認識していただき、それらを強みに変えられるような運営を一緒に目指していけたらいいなと思います。

最後までご覧いただきありがとうございました!

(青木)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?