鎮丸~怪蛇とをらふ~ ⑬
寺の山門前に葉猫の姿があった。
「二人とも大丈夫?よくやったわね!
……とにかく無事でよかった。」
水筒に入った煎じ漢方薬を二人に渡す。
「秘伝の解毒薬よ。」
「は…葉猫先生!家が無くなってしまいました。」漢方薬を飲み終わった晴屋が言う。
「そうね。お寺の再建、ますます遠のいてしまったわね。そうだ!良かったら、うちのサロンに住み込みで働かない?」
晴屋はしばし考えたが、「お世話になります。」と言った。
鎮丸が何事かを霊査し、「そうとなれば、君には明日から早速、仕事をしてもらう!」と言った。
「え?明日からですか?」晴屋はちょっと驚いた顔をした。
「なあに。まずは接客からだ。ただし、今日あったことは『企業秘密』だ。いいな?」
「ところで鎮丸先生。何故、蛇は瘴気のままでなく、わざわざ実体化したのですか?」晴屋が聞く。
「いい質問だ。そりゃおまえ、わしらを喰うためだよ。わしらは実体だからな。瘴気のままじゃ、呑み込めないだろ?」鎮丸は答えた。
「逆に君に質問がある。」鎮丸が言った。
「どうして聞いてもいない、わしの名を知っている?」
晴屋は自分でも分からない、という顔で黙ってしまった。
翌日。小雨が降っている。
サロンに三人が揃っている。
ドアが勢いよく開いた。
「おはようございまーす!」元気な女性の声だ。鵜飼虹子である。
入り口にいた晴屋と目が合う。
はっとして「し…新人さん?」
言ったきり、赤くなって俯いてしまった。
「はい、晴屋明と言います。どうぞよろしく!」晴屋は坊主頭を深々と下げた。
鎮丸が「晴屋君、最初の仕事だ。彼女の悩みを聞いてやってくれ。」と言った。
「じゃ、私達は事務所に用事があるから、この辺で、ね?」葉猫が鎮丸の顔を見る。
鎮丸は無言で頷いた。
「ち…ちょっと待って下さい!」晴屋が言う。「あのぅ、俺はどうしたら…?」
「うふふふ…」「ふふふ…」嬉しそうに笑いながら夫婦はドアを開けた。
鎮丸が言う。「うーん、戸黒に晴屋か。虹子君の好みがよく分からんな!もしかして社長、なんか神に祈ったかい?」
「私は何もしてないわよ。」
(さ、だ、めー!)またいつもの声が聞こえた。
甲州街道の雨は上がっている。
ビルの谷間に綺麗な虹が見えた。
(End)
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