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MBAクラスメイト②愛すべきインド人編〜後編〜『香港にスティーブ・ジョブスが降臨した日』


皆さんは自分の中のヒーローはいるだろうか。
それは実在の人物でもいいし、架空の人物でもいい。
それこそ映画やアニメのヒーローでもいい。

僕は格闘技が好きなので、憧れの人物としては魔裟斗さんなどがいる。
昔、K-1 MAXの時には、魔裟斗さんの試合前の強気の発言に憧れていた。
あんなふうに有言実行のできる男になりたい!とよく思ったものである。

このように男であれば誰しも憧れたことのあるキャラクターや人物はいるものである。

それは日本人に限らず、インド人も同じようである。
MBAのクラスメイトのインド人にバットマンと007が大好きなやつがいた。


バットマンとボンドはやらないだろ


僕の学校では、入学するとクラス内でグループに分けられる。

基本5〜6人で1つのグループで、このグループで必修の授業のグループワークを行うことになる。プレゼンもそうだし、宿題をグループで解いて提出したり、グループで発表をしたりもする。



誰と一緒のグループかによってプレゼンやグループワークの負荷が変わってくる。

例えば、四大会計事務所(Deloitte、KPMG、EY、PwC)出身のメンバーがいる場合、アカウンティングの授業では非常に有利だ。

わからないことはなんでも聞けば解決できる。またJPモルガン出身のトレーダーだったメンバーがいるチームではファイナンス関連の授業が有利だったり、またアメリカ人、カナダ人など英語ネイティブがいるグループはそもそも英語でのプレゼンにおいて有利だったりする。(全員が発表しないで、代表2名が発表などのプレゼンもある)


僕のグループは、インド人、香港人1人、中国人2人、日本人1人の5人チームだった。

今、振り返って思うのは、このグループは本当に自分にとってベストなグループだった。チームワークや個々人のバランス、思いやりなどクラス内で1番のチームだったと思う。皆それぞれが自分の役割をきちんと遂行し、皆で話し合ってグループワークを進めることができるメンバーだった。

実際に授業内プレゼンで何度も1位になったし、他のグループメンバーからも、お前のグループはいいな〜と羨む声もあった。

僕らはいつもCommon Roomという名前のついたMBA生のみが使えるラウンジのようなものがあり、そこに集まって校内のカフェで買ったフライドポテトをつまみながらグループワークをやっていた。


そんな僕らのチームのプレゼンは大体インド人の友人から始まる。

彼は非常に早口で捲し立てて喋るタイプで、しかもインド人なので非常に訛っている。最初の頃は全く何を話しているのかが理解できなくて困ったが、
だんだんと耳が慣れて(これ本当に慣れてくる)聞き取れるようになってきた。
こっちが理解していようと、していまいと、ガンガン話すのがインド人の特徴である。

そんな彼はいつもグループ内でのチャットで話しているとバットマンのスタンプを多用する。

彼はバットマンが大好きなのである。
卒業して現在も連絡をたまに取り合うが、未だにバットマンのスタンプを使っている。変わらないな、と思うと同時に非常に懐かしく思える。

そして彼のもう一つのお気に入りは007のジェムズ・ボンドである。

『男たるもの、紳士であれ』とでも思っているのか、

「ボンドだったらそれはやらないだろ」とか
「今日のスーツ姿きまってるな!ジャパニーズ・ボンドみたいだな」

などと周りによく軽口を叩いていた。

彼は本当にヒーローが好きなのだ。
でもどうやらスパイダーマンは彼の中では違うようである。
彼の中の紳士・男らしさの基準にはどうやら該当しないらしい。

他にも映画での例えを頻繁に用いる。
なぜそこまで彼は映画が好きなのか。

ある時、謎が解けた。
彼の出身はムンバイである。
かつてはボンベイと呼ばれたこの都市。ボリウッドとはこの都市の映画産業のことをいう。

親戚の中には、ヨガの有名な先生がいてボリウッドスターたちにプライベートレッスンなどをしている人もいるそうだ。そんな影響もあって、小さい頃から映画をよく観ていたそうだ。特にヒーロー映画が好きだったのだ。


香港にジョブスが降臨した日

そんな僕らのグループは、よくプレゼンの日に衣装を合わせていた。
通常、授業でのプレゼンにドレスコードはない。他のグループはそれぞれが好きな格好でプレゼンをしていた。

そんな中、僕らは衣装にもこだわっていた。
皆でブルージーンズに白いシャツを着たり、スーツを着たり、学校のカレッジパーカーでお揃いにしたり、プレゼンの内容などで衣装のコンセプトを決めて臨んだ。

そんなあるプレゼンの前日、最終ミーティングを終えた僕らは、翌日のプレゼンで着る衣装の話をしていた。

インド人の友人が、明日はブルージーンズに上は黒のTシャツ、もしくはシャツがいいと主張してきた。

中国人の女子は、黒いTシャツを持っていないというが、香港人の女子が貸すことになり解決し、ブルージーンズに上は黒のTシャツ、もしくはシャツという当日の衣装が決定した。

そして翌日。

教室に入り席でプレゼンのスライドをチェックしていると、インド人が入ってきた。

ちょっとはにかみながら、スタスタと近づいてくる。

『おはよう!』という彼を見ると彼はジーンズに黒のタートルネックを着ている。

インディアン・ジョブスが香港に降臨した瞬間である。


クラスのみんなも気がつき始め、クスクスと笑いが起こる。
そんな状況にもめげずに、彼は堂々と席につきプレゼンの順番を待っていた。

そう、彼はこのタートルネックを着たいがために、今日の衣装のジーンズと黒のトップスを指定してきたのだ。

そして本番。
もちろんトップバッターは彼である。

プレゼン時間は20分間。インド人が5分話し、他のメンバーが3分半〜4分ほど話す予定になっていた。

プレゼンが始まり、インド人が話し始める。
ジーンズのポケットに手を突っ込み、ウロウロしながら話すインド人の友人の姿は、薄目を開けて、訛った英語を聞かないようにすれば、ジョブスに見えなくもなかった。早口でまくし立てるように、しかし、パッションに溢れる彼のプレゼンは、時に何を話しているかわからないが、確かに引き込まれるものがあった。

そしてエンジンのかかった彼のプレゼンは止まらない。

彼は自分の持ち時間の5分をかなりオーバーし、8分30秒ほど話し続けた。
そして僕らは急遽プレゼン内容を省略しなければならず、ポイントの大切な部分のみしか話せなかったのだった。

結果、僕らはクラスでまた1位にはなったものの、なんとも僕にとっては不完全燃焼なプレゼンであった。でも1位になったのは彼のこのパフォーマンスのおかげなのかもしれない。インディアン・ジョブス、ありがとう。


今でもスティーブ・ジョブスの写真を見ると、あの日の彼を思い出す。
そしてSNSを開くと『STAY HUNGRY, STAY FOOLISH.』という言葉が書かれたインド人の友人のヘッダー写真が目に入ってくる。



Chineeland秦でした。



再见!


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