全部は盗らない女
20代半ばの僕はしょっちゅうクラブに行っていた。
金曜日、土曜日の週末はもちろんのこと、平日でも1〜2日ほどクラブに行くことがあったくらい、一時期クラブに行っていた。
そんなある日、クラブで知り合った子がいた。小柄な子だった。
年齢は2つ下だったから23か24歳くらいだったと思う。
乾杯をし、一通り踊り、僕の家に行くことになった。
そして朝になり、その子は帰って行った。
それ以来、彼女は定期的に泊まりにくるようになった。
頻度にすると月に1〜2回程度だったと思う。
『飲んでて帰れなくなった。』
『友達の家に泊まる予定だったのに、友達の彼氏が来て追い出された。』
など理由は様々だった。
明日朝が早いと断っても一歩も引かずに電話が長引き、こちらが折れて渋々了承することもあった。
そんな彼女が泊まりに来ているある夜中、ふと気配で目が覚めた。
すると暗闇で僕の財布を漁るその子が目に入った。
『おい何してるの?』
というと、
『いや、ちょっと眠れなくて。。。ツタヤでDVDでもみようかなって。カードあるかなって。』
時計を見たら確か午前3時過ぎだったと記憶している。
『もうツタヤやってないよ。』
眠かった僕はそのまま、また横になり眠りにつく、、、、
はずだったのだが、そこで全てが繋がった。
ここ最近お金を下ろしてもすぐなくなるなぁ、と思っていた。
昨日お金を下ろしたのに、特に使った記憶もなしに減っている。
おかしいなと、思いつつも結局は気にしないでいた。
それが今、
たった今、理由がわかったのだった。
その子が泊まりにくるようになって約3〜4ヶ月経ってたと思う。
僕の家に泊まりに来ている度に、財布からお金を抜いていたのだった。
それもかなり巧妙なやり口で。
例えば1万円札と5千円札と千円札の合計16,000円が財布にあったとする。
そうすると、その子は5千円だけを抜く。
僕の財布にはまだ11,000円残っている。
そこで僕は、
『あれ、何かに使ったっけな?』
と思うが全額が無くなったわけではないので、発覚しにくいというわけである。
1万円札も残っているので、盗まれたとは思わないし、もし1万円を使ったとしたら金額的には覚えている可能性が高い。
5千円札だけを抜く、という巧妙に計算された手口である。
すべてを熟知した上での犯行だったのだ。
ちなみにこの当時、まだオンラインでドラマや映画を観れるようなサービスは普及しておらず、海外ドラマなどはDVDで観るのが主流であった。
当然、キャッシュレス化もされていない。クレカやSUICAがせいぜいである。
キャッシュが財布にあった時代である。
そしてベッドに横になった僕はモヤモヤと眠れず、証拠がない以上言い出せもせず、気まずい空気が支配する部屋で朝を迎えた。
そうして朝、彼女は帰っていった。
彼女はそれ以来、連絡をしてこなかった。
僕も彼女に連絡をすることはなかった。
あの子は、今どこで何をしているのだろうか。
確証はないが、彼女が犯人だと思っている。
そしてまた確証はないが手口は先ほどの通りだと思っている。
ちなみに、僕はこの一件以来、人が家に来るのが苦手になった。
本当に信頼していないと家に呼べなくなってしまった。
人はどこまで信用できるのだろうか。
Chineeland 秦
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